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2003.8.21(2006.3.12修正)


第1話・ここは異世界(1)




 人生って面白くねぇなぁ。
 本当に毎日をただ生きているだけって感じでこのまま人生を続けていく意欲がわかない。
 サクッと人生終わらせるにも周りの人に多大な迷惑をかけてしまうのでそんなことできない。 やはり自分以外の人に迷惑のかかることはさすがにやめたいわな。
 こうしてやる気なくただ生き続けているだけでもその辺は迷惑にならない。
 ああ、つまらん。
 今日も1日平凡で平和な日であった。晴天をほめるには日没を待てって言うことわざもあるし、 まだ日の暮れない帰宅途中でそんなことを言うのはあれだな。
 もし、この帰宅途中の1本道でそれは可愛い女の子と出会い、恋に落ち、無色の人生が桜色に変わるかもしれない。
 または、隕石が降ってきて直撃を食らい、そこで人生が終わってしまうかもしれない。 その時は「我、生きた意味なし」とか言って息を引き取ってみるか? 誰も聞いていないと思うが。
 あ、生きた意味なしは親に失礼だな。んじゃ、「人生に悔いなし」か?
 いや、悔いはたくさんあるな。う〜む。

 まぁ、空は雲ひとつないいい天気だ。洗濯するにはもってこいの日だな。
 と、空なんか見上げて足下を見ないと石につまずいて転んじゃうので注意してねって言っている俺が思い切りこけているしな。
 今日も1日平凡で平和な日であった、改め「今日は石につまずいてこけた」。
 ズボンに穴は開いていないし、けがもないようだ。上ばかり見ていないで足下も見ないとたまにこけるぞと言う教訓だな。
 と、起き上がって帰宅の道を行こうと思ったらそこは見知らぬ土地であった。


 俺、剣塚一也(けんづか かずや)、20歳。某私立の工業系4年制大学に通う平凡な野郎であった。
 今、世にも珍しい現象を体験中だ。これが俗に言う「神隠し」ってやつか?
 しかし、参ったな。後1時間以内に帰らないと楽しみにしていたTV番組(アニメ)が始まってしまう。 今日は普通に間に合うから録画予約してこなかったんだよ。
 しょうがないな。とりあえず、周りを見渡してみよう。
 ・・・。
 自分の知っている場所と言うのは即座に否定された。
 空に島が浮いている。
 ここを俺のいた世界とは違う異世界と決定。名前は後で考えよう。

 前方は崖だ。左右には地面があるがすぐ崖になっているからそっちへ進んでも意味はないな。
 と言うことで、後ろに広がる森に入ろう。
 せっかく異世界に来たんだからエルフとかフェアリーとかって言うのに会ってみたいなぁ。 凶暴なモンスターとかは要らないぞ。
 と、思っていたのだが、考えが甘かった。
 前方にでかい凶暴そうなやつを発見。いかにも鋭そうな牙と爪を持っている。あれだけ鋭い牙をしているということは肉食に間違いないな。 草食ならばもっとすり鉢状の歯になっているはずだ。
 こんな感じで非現実的な状況を冷静に分析した結果、あのモンスターに襲われるとはっきり言って危険と出た。
 てか、すでに見つかってしまっているな。どうやって逃げるか。
 とか考えていると、そのモンスターが変な雄たけびを上げながらこっちに向かってきた。
 後ろに走っても崖があるだけだ。どうにかやつの後ろに回り込んで逃げないと。
 後ろに回り込むにはやつの一撃を交わさないといけないな。
 幸い走るスピードはそれほどでもない。やつの後ろに回り込めさえすれば普通に走って逃げ切れるはずだ。
 まぁ、やつの攻撃が避けられなければ俺はそれまでの男だったって言うことだ。この糞面白くもない人生に幕が下りるだけだ。

 やつが俺を引き裂こうと右腕を振り上げて飛び込んでくる。
 避ける時は相手の体の外側に避けるべし、だ。よって、左に飛ぶ。
 大振りのやつの攻撃が宙を切る。
 ラッキーだ。紙一重でかすりもしなかった。
 やつは空振りしたことで体が流れて連続攻撃に入れない。
 俺が生き残るためにはこのチャンスを生かすしかない。ただなんのためらいもなくやつに背を向け、逃げるのみだ。


 しつこい。
 もう20分くらい走っているがどすどすとやつの追いかける足音が未だに聞こえる。
 ここ数年の運動不足のせいか、すでに息が上がっている。
 あ、剣だ。
 50m程先に剣が突き刺さっている。さすがに素手でやつの攻撃を避け続けるのは厳しい。即、入手だ。
 走りながら柄を掴み、そのまま引き抜く。
 軽い。
 刃渡り1m20pくらい、幅15pくらいの両刃。全て金属製のようだが、異常に軽い。アルミ製か? なんかすぐに折れてしまうのではないかと不安になるくらいに軽い。一撃でぶち折れたりしないだろうか。
 剣を取ったことで追いつかれてしまった。この剣で一撃くらいは受け流さねば死ぬ。
 と、思ったのだが、剣を持ち上げるだけの時間がなかった。とりあえずしゃがむ。頭上をやつの爪が通り過ぎる。なかなかラッキーだ。しかも大振りなやつの一撃で隙ができる。
 カウンターには絶妙なタイミングと姿勢だ。少し踏み込めばやつの胴に刃が決まる。
 交わされようも外しようもない。
 しかし、なんかかなりの長時間放置されていたような雰囲気の剣なのだが、ちゃんと切れるんだろうな?
 まぁ、思い切り叩き込めばそれなりに痛いだろう、と思ってやつの胴に叩き込む。

 めっちゃ切れるやん!

 手に少しの抵抗を感じただけで難なく刃がやつの胴を通過した。
 やつの体が俺の横を通過して倒れ込み、切り裂かれた脇腹から緑色の体液を吐きながらしばらく体を痙攣させたがそのまま動かなくなった。
 やつは絶命した。
 命の危機は去った。ちぃ、また面白くない人生を歩まねばならんのか。
 やつの体が煙を上げて徐々に融け始める。何事だ? 融けた体は地面に染み込み、跡形もなく消えてしまう。
 完全に消えたそこにひし形の宝石が1つ残されていた。色は藍色。長い対角線が12pくらい。短い対角線が5pくらい。厚さは3pくらいだな。
 戦利品としてもらっていこう。異世界に来た記念にもなる。


 とりあえず、寝床と食料を確保せねば。
 あれからしばらく森の中をとりあえず進んでいるが、木ばっかだ。食べられそうな実とかついていない。間もなく日も暮れそうだ。
 全くもって平凡で平和な1日ではなかったな。やはり晴天をほめるには日没を待たねば。
 やれやれと歩いていたら4体の石像を発見する。
 4つとも女だな。耳は長くない。どこからどう見ても人間の女の像だな。
 あ、なんか胸元にひし形の穴が開いている。飾り石でも取れたか。
 ん? どっかで見た形だな。長い対角線が12pくらい。短い対角線が5pくらい。深さ1.5pくらいのひし形の穴にぴったりはまりそうな石を。
 あ、やつから出てきたあれだ。背負ったリュックからさっきの戦利品を取り出す。
 4つの石像の胸元に同じひし形の穴が開いている。石は1つしかないから一番好みの顔をしているやつにつけよう。私の呪いを解いてくれてありがとう、とか言って人間に戻ったらラッキーだ。ここは異世界だからありえる。
 お、こいつにしよう。長髪の胸のでかい女。俺的には胸のでかい女が好きだ。てか、他の像はちょっとふけ面だった。
 ひし形の穴に戦利品をはめてみる。ぴったりだ。
 ・・・何も起こらないな。他に3つ探してこなければならんのか?
 と、思っていたらはめ込んだ石が青く光りだした。さらに殻が割れるように石像にひびが入り、ぼろぼろと剥がれていく。
 ・・・・・・。
 「あ・・・、私・・・。あ、貴方が私の封印を解いてくださったのですか?」
 呪いじゃなかったけど、マジで人間になってんじゃねぇ!!
 「ああ! その剣はセケルステイン!! 貴方ですね! あの魔物を倒し、私を解放してくださった勇者様は!!」
 さらに勇者様と来たか!! なんだ! このベタな展開は!? ベタな展開からいくとこのセケルステインとか言う剣は選ばれた者にしか抜くことができないとか、扱うことができないとかってやつでそれが勇者の証とかか? さらにこの女をヒロインにムフフな関係になりつつも魔王かなんかを倒しに行くとか?
 「勇者ってもまだガキだな。もう少し年のいったおじ様辺りが好みだったんだが、しょうがねぇなぁ。封印解いてくれたんだからがまんすっか。」
 ゥヲイ!
 見た目は可愛いが、性格は最悪か? 少しふけ面でもお姉さんタイプが良かったか?
 「まぁ、とりあえず。お前の目的を述べよ! 私は聖剣の巫女、シルビア! お前が目的を成すまで、私とその聖剣セケルステインが助けよう! さあ! 勇者よ! お前の目的を述べよ!」
 びしっとシルビアと名乗る美女が叫ぶ。
 俺の目的って何だ? てか、何の目的?
 「形式のあいさつなんだが、ガキ相手に言うのははずいな。ほれ、さっさと言えよ。私の封印を解いたんだから何かあんだろ?」
 おい。
 「なんもねぇな! しいて言えば観光案内でもしてもらおう。」
 てか、お前ってなんなんだよ。
 「はぁ? お前、このシルビア様の偉大さを知らんのか? 最近の勇者は巫女を崇めることを知らんのか? はぁ、ついてねぇ。んな、世間知らずのガキが私の主人かよ。目的もねぇのに私を起こすなよなぁ。」
 悪うござんしたな。
 「ちぃ、とりあえず私はシルビアだ。麗しきシルビア様って呼んでもらいたい所だが一応、勇者様だからな。シルビアでいい。お前は?」
 自分で「麗しきシルビア様」って呼べとか言うか?
 「おい、さっさと名乗れよ。一応、様付けで呼んでやっからよ。」
 その前にそんな挑発的な口調を止めろ。
 「一也だ。」
 とりあえず名乗っておく。
 「カズヤ様か。変わった名前。とりあえず日も暮れてきたし、この先にある寺院に世話になるか。」
 とりあえずついていくしかあるまい。


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