「でか。」
シルビアに案内された所はそれはでかい寺院であった。
高さは20階のビルくらいあるか。横幅は城壁って感じだな。正面にでかい門がついており、その両脇に門番らしき槍を持ったやつがいる。
暗くて性別は分からん。
「何者だ!」
俺たちに気付いた門番の1人が声をかけてくる。声からして野郎か。
「聖剣セケルステインの勇者カズヤ様とその従者シルビアです。長き封印より解かれ、この地に参りました。
寺院長にお会いしたいのですが。」
おい。さっきと口調と態度が違うぞ。
「聖剣セケルステイン!シルビア様!!」
なんか、めちゃくちゃ驚いているな。
「は!こちらへどうぞ!!」
はい、どうも。
門番の1人に案内されて中に入る。
中は石造りのなかなか豪華な所だ。天井が高い。
この寺院の信者らしき人々が結構いる。なんか鎧とか着込んでいる奴が多いから武闘派なのか?
それにしても豪華だな。普通、宗教団体の寺院といえばかなり質素な作りをしているものだがな。
エセ宗教で信者からがっぽり金を騙し取っているのか?
「こちらでお待ちください。」
客間に通された。寺院とは名ばかりの城の一室のようだ。
「おい。さっきからずっと肩に担いだままだが、鞘はどうした?」
歩いている間、ずっと無言だったシルビアが客間で2人きりになるとそんなことをいう。
肩に担いだままって剣のことだな。引きずるわけにはいかないから肩に担ぐことになるだろうが。
「鞘なんて最初からなかったぞ。地面に突き刺さっているのをちょっと使っただけだ。」
うむうむ。こんなに軽いのにあんなに良く切れるなんてちょっと驚いたね。
「ねぇのかよ。抜き身のままじゃ危ないじゃないの。それより、普通は自分で鞘を用意するでしょ?」
シルビアが目を瞑り、何かぶつぶつ言い出す。何か青白い光がシルビアの体から出ている気がする。
そんな奇妙な行動を眺めていると突然、シルビアの前に剣の鞘らしき物が現れた。
「ほれ、鞘だ。」
シルビアが召喚したのか作成したのかした鞘を俺に突きつける。
剣はぴったり鞘に収まった。ちゃんとベルト付で肩に背負い易いぜ。
「勇者様とシルビア様。お待たせいたしました。寺院長がお待ちです。こちらへどうぞ。」
あの後、再び無言の時間が過ぎ、ソファでくつろいでいる所に女が現れた。
てか、その勇者様って何だ? やはり魔王とか倒しに行くのか?
広いなぁ。
女に案内されてしばらく歩く。室内だというのにすでに10分過ぎていると思う。
さらに2分後、到着したようだ。
「寺院長。勇者様とシルビア様をお連れいたしました。」
部屋の奥に少し初老の男が座っていた。
「勇者様、シルビア様。ようこそいらっしゃいました。私がこの寺院の長をしております、ジルハと申します。」
ジルハと名乗る男が俺たちの前まで来て礼をする。シルビアもそれに返して礼をするのでつられて頭を下げてしまう。
てか、どっかの貴族みたいな派手な格好をしているな。
「勇者様はなんと申しましょう?」
なんと申しましょうってどういう意味だっけか? やつが名を名乗って、シルビアの名前は知っているようで、
成り行きからすると名を名乗れと言うことか?
「一也だ。」
向こうも名字を名乗っていないからな。こっちも名前だけでいいだろう。
「カズヤ様ですか。どうぞ、こちらへお座りください。」
ジルハのおっさんに促されてシルビアとソファに座る。んな豪華な接待セットがある寺院って何の宗教だ?
「突然のご訪問、驚きました。最近、ここに来た者はいなかったものですから。」
突然、押しかけて申し訳なかったのう。
「あら? カズヤ様はここを通らずに入ったのですか?」
勝手に入ったのはまずかったか? 他に行く所もなかったし、不可抗力だと思え。
「ふ、自慢じゃないが、ここの存在自体知らなかったさ!」
ふははは! なんと言っても別の世界から来た異世界人だからな!
「・・・・・・・・・・。えっと、我々の監視網にかからず、上陸するとはたいしたものですな。どの様にして上陸なさったのですかな?」
上陸も何も、あの崖に直通だったからな。
「知らないな。石につまずいてこけて、起き上がったら全くわけのわからん所にいたんだからな。てか、ここはどこよ。」
なんか2人が絶句している。
「ここがどこかご存じないのですか? カズヤってあまり聞かない名前ですね。どこか辺境の国からいらしたのかしら?」
言葉が通じているからな。なんともいえないが。
「とりあえず、昼過ぎまでは日本って国にいたぜ。」
おうよ! 午後の講義を1つ受けて帰宅途中だったんだ。ああ、7時からのTVもアウトの様だな。
「聞いたことありませんわね。まぁいいでしょう。今晩はゆっくり尋問してさしあげますわ。」
尋問かよ!?
その日はそれからベッドの2つある客室に案内され、泊まることとなった。なかなか豪華な部屋で高級ホテルを思わせる。金を払えといわれても金なんてないぞ。
シルビアはどこかに行ってしまった。調度品を見ながら部屋にある椅子に座ってボーっとして時間を潰す。
トイレに行きたいな。
部屋から出て通りかかりのにぃちゃんに場所を聞いてみる。
「見かけない顔だな? お前が聖剣の勇者か?」
その通りだ。
「ここからだと少し離れているな。案内しよう。」
それはありがたいな。ここってやけに広いんだよな。
通りがかりのにぃちゃんに案内されながら廊下を歩く。
「今回はどう言った災厄なんだ?」
災厄?
「訊いても分からんか。前の時も最初はどんな災厄が来るのか分かっていなかったらしいからな。」
何のことだかさっぱりわからんな。
「トイレはそこの青いドアだ。私はここで失礼する。」
そのまま去っていった。
さっきの話は何だったのだろうか。
まぁ、いいか。
トイレに行って帰ってくるとシルビアが帰ってきていて、食事の用意がされていた。なかなか豪華だな。
「飯を喰いながらでも尋問を始めるか。」
やれやれ。
「それよりここって何なんだ?」
食卓に座るシルビアの向かいの席に座りながら訊いてみる。
「ここはグランディフィールドって言う聖剣を持つ勇者の従者が封印されている聖地よ。この寺院はこのグランディフィールドを守護する団体の本部ね。」
聞いたことないな。
「あれがその聖剣ってやつか? あれを持っていると勇者ってことになるのか?」
その質問にシルビアが呆れた顔をしている。
「なに? あの剣の凄さを知らないで使っていたわけ? あの剣はセケルステインと言ってね、全ての災いを討ち滅ぼすって言われる凄い剣なのよ。持っているだけで勇者ってことじゃなくて、あの剣を武器として使用できて初めて勇者って言うの。あれでこの石を守っていた魔物を倒したんでしょう? まさかこれもたまたま落ちていたのを拾ったなんていわないでしょうね?」
シルビアの胸元にあのひし形をした藍色の宝石がついている。石像の時みたいに埋まっていると言った感じだ。
てか、胸の谷間が深いなぁ。
「しっかりその魔物とやらを倒して手に入れた石だ。いきなりあの爪で襲われてびっくりしたよ。」
いやぁ、よく生き残れたものだ。
「ねぇ。ちょっとそこで素振りとかしてみてよ。」
素振り? ちゃんと使えているかどうか型でも見るのか?
「ヤダ。飯食ってからにして。」
せっかく豪華な食事が目の前に並んでいるんだから偽勇者とばれて追い出される前に食っておきたい。
「しょうがないわね。んじゃ、私の質問に答えろ。ニホンってどこだ? と言うか、国の名前よね?」
「とりあえず、日本は国連加盟の国だ。人口1億2千万の太平洋西側に浮かぶ島国だな。」
多分、人口はこのくらいだと記憶している。記録が古いかもしれない。
「人口1億2千万ってかなり大きな国の様だな。コクレンとかタイヘイヨウってなんだ?」
知らんのか? てか、太平洋を知らんってマジでどこだよ。
「説明するのたるい。説明してもお前の知らない所だ。お前の知らない別の世界からやってきたっていうのに決定だな。」
てか、俺はここに来た時、空飛ぶ島を見ているからな。ここが俺の知っている土地ではないことは確かだ。
「異世界から来たのか。それならその風変わりな名前といい、その格好といい、簡単に説明がつくな。ほう、ファンタジー小説の様な話でいいな。」
石になっていたお前が言うな! てか、異世界から来たって話をあっさり信じたな。
「て、ことで、俺は無事、元の世界に帰りたい。」
と、お決まりなセリフが出てしまったが、ふと、向こうに帰って何がしたいのか考えた。
俺は人生を生きていくことに絶望していた。はっきり言って向こうに帰ってもやることはない。あの単調な毎日をただ生きるだけの生活に戻るのは嫌だな。ここみたいに知らない世界ならば毎日が新鮮で楽しいかもしれない。
「やっぱり帰りたくない。」
その間、1秒。
「ど、どうした? 異世界から来たんなら、元の世界に帰りてぇって願うだろ? そう言うやつらを私は何人も見てきたぞ。」
何人もいるのかよ。なら異世界から来たって話を信じてもおかしくないか。前例がたくさんある様だからな。
「よく考えたら向こうに帰ってもつまらん。こっちの世界を堪能した方がお得だ。
なかなか望んでもできない体験だからな。」
聖剣、勇者、魔法使い、魔物、聖地、魔王、異世界、空飛ぶ島!! ファンタジー好きならたまらない世界だ。
ちなみに本日見る予定だったTV番組はその系統。
「変わってるな。」
他の人間と同じことをしても面白くないからな。今まで必ず他のやつとちょっと違うことをする様に心がけてきた。
「つーことで、俺様はこの世界の初心者だ。色々この世界について紹介してもらおう。」
と、言うことで豪華な料理に舌鼓を打ちながらこの世界について紹介してもらう。