3日の行軍が終わり、目的地の到着した。
「どうやってバーサークパンサーを討伐するんだ?」
ここは森のほとりだ。
「この森の中にバーサークパンサーが巣を作っているんだって。これだけ人が集まっていればその内、出てくるんじゃない?」
襲ってきた所を返り討ちにするのか。
「ほら、カズヤ。仕事仕事。皆、キャンプ用のテント、作ってるよ。」
ちぃ、面倒だな。
「こんなのさっさと終わらせて柔らかいベッドで休みたいぜ。」
俺もテントを組み立てている兵士たちの所へ行こうと足を向ける。
「んじゃ、私は騎士団の様子を見てくるから。」
そう言ってシルビアはシロと乗ってきたクープを連れて、騎士団の集まっている所に向かう。俺はテントの建設だ。
昼間の内は何事もなく過ぎた。
「こんなあじけのない粥もどきじゃなくて肉が食べたいぞ。」
3日連続でもう4日目だ。あの乾パンを水で溶いた粥もどきばかりで飽きた。
「森の中に獣でもいるんじゃないか? こっそり狩りにでも行くか?」
シルビアは騎士団の所に行ったきり帰ってこないので、仕方なくおっさんたちと顔を合わせて飯を喰っているわけだ。
「この森の中にバーサークパンサーの巣があるんだろ? んなことしたら喰われちまうんじゃねぇの?」
俺は出遭ってしまっても返り討ちにする自信があるけど、このおっさんには無理だろう。
「滅多なことであわねぇよ。それ喰ったら早速行くぞ。」
こいつも悪よのぉ。
結局、俺も肉が食べたいので狩りに行くことにする。
「獣はおろかモンスターもいねぇじゃん。」
鳥の鳴き声もしない。
「バーサークパンサーに恐れをなして逃げ出した後か?」
多分、それだろう。
「獲物がいないんじゃ、しょうがないな。帰ろうぜ。」
喰えそうな山菜や木の実をいくらか見つけたからあの味気のない粥もどきともおさらばできるし。
「そうだな。」
帰ろう。
キャンプに向かって歩き出した所で何か森の奥から何かが動く物音が聞こえた。
「獲物か?」
おっさんも気付いたようで声をひそめて音の主に向かって目を凝らす。
ミシミシミシ・・・ズシーン・・・。
「なんか、木が倒れた音がしたぞ。」
足音は静かなのに。
「まさか、バ、バ・・・。」
ば?
「バーサークパンサーか? ありえるな。逃げるぞ。」
顔を引きつらせて半ば腰を抜かしてしまっているおっさんに対して、俺はかなり冷静。
「お、おう。」
俺の冷静な声を聞いて我に帰るおっさん。俺が背中を押すと慌てて走り出した。
「このまま騎士団の所まで引っ張っていくか。」
前を行くおっさんを追いながらそんなことを考える。さっさと騎士団がバーサークパンサーと戦ってくれると早いからな。
猫科なのか、ほとんど足音もなく木の葉を揺らす音だけが物凄いスピードで迫ってくる。
「ちぃ、逃げ切れねぇ。」
いざと言う時のために剣を抜いて構える。
「来たぞ! 急げ!」
木の陰に大きな獣の影が見えた。それは木の葉の下に足しか見えないほどの大きさがあった。
「ひぇえええ!!」
おっさんが変な声を上げて必死に走っている。すぐ後ろに来ているのに気付いたのだろう。
「そらよ!」
近場のなかなか太い木を数本切り、後ろに迫ってきたバーサークパンサーに向けて倒す。良く切れる剣で少し振り回しただけで木が倒れてくれる。
後ろから迫ってくる影が倒れてきた木を避けるために少し脇に避ける。しかし、迫り来るスピードは大して変わらない。
「ちぃ。」
おっさん1人くらいなら俺でも守れるか。
「走れ!」
先手必勝!
木を切り倒してバーサークパンサーの進む道を操り、先回りをする。
「でか。」
それは見上げるほどにでかかった。
目の前に現れた俺に小屋ほどもある巨大な猫科のモンスターが飛び掛ってくる。襲い来る前足を軽くステップで横に交わし、切り付けてやる。
「ぎゃあああああ!!」
前足を切られてバーサークパンサーが叫び、俺から少し距離を開ける。軽く切り込みを入れたくらいで動けなくなるほどの傷ではないはずだ。
「ほら、ついてこい!」
背を向けて走り出す。バーサークパンサーがそれに怒りに目を血走らせてついてくる。
前足をケガしたおかげでバーサークパンサーの迫り来るスピードが遅くなった。全力で走ればギリギリで追いつかれない。
「見えた!」
騎士団がバーサークパンサー迎撃に待ち構えている所が見えてきた。
「来たぞ! 銃構え!」
騎士団から号令の声が聞こえた。
「後は騎士団に任せるぜ。」
全力で走ってきたものだからもう体力の限界。バーサークパンサーの視線が前方の騎士団を見つけた所を狙って茂みに隠れる。バーサークパンサーは俺の姿を見失うが、前に見える無数の人間たちに向かって跳躍した。
「高い・・・。」
森の木々を飛び越え、巨大な体が騎士団の中に突っ込んでいく。
前に向かって構えていた騎士団の銃口は目標を失う。
「あら。」
空から飛来したバーサークパンサーに固まっていた騎士団はあっという間に蹴散らされてしまった。
「弱い。」
バーサークパンサーに向かって発砲するも、大して利いていない様子だ。剣を抜いて斬り付けてもダメっぽい。
「あちゃあ。」
攻城兵器でも用意しないとダメか?
「しょうがないなぁ。」
まだ息切れしたままだが、これ以上遅れると死人が出そうだ。
「勇者様のお出ましだぞ。」
動き易いようにあのダサい鎧を脱ぎ、バーサークパンサーに向かって走り出す。
「俺が相手をする!」
不意打ちで後ろ足を1本切り捨ててやる。
「ぎゃああああああああ!!」
後ろ足を切り落とされたバーサークパンサーが悲鳴を上げてバランスを崩す。
「喰らいな!」
バランスを崩して落ちて来た胴体に剣を叩きつける。もろに入ってかなりのダメージを与える。
「ひぃいい!!」
横で変な声を上げる騎士が1人いた。腰を抜かし、両腕で頭を覆っている。
「退けぃ! 邪魔だ。」
落ちて来るバーサークパンサーの巨体に潰される位置にいたので安全位置まで蹴り飛ばしてやる。本来ならこんな脚力はないのだが、この剣を持っているとこんなのもアリだ。
「炎よ、風よ! 紅蓮の珠を創り、我が敵を貫け!」
倒れたバーサークパンサーの体の反対側からシルビアのそんな声が聞こえ、空中にバレーボール大の火球が無数に出現する。
「貫けってまさか・・・。」
マジで貫いてきやがった。
「ぎにょおおおおおおお!!!」
バーサークパンサーの巨体を突き抜け、火球が俺に襲い掛かってきた。
「あの女、いつか絶対に
あんなのを喰らう俺ではないが、あれは危な過ぎる。
バーサークパンサーはシルビアの魔法がトドメとなって沈黙した。ご愁傷様です。
「お前! あぶねぇよ!」
動かなくなったバーサークパンサーの体を飛び越え、反対側にいたシルビアに文句を言ってやる。
「あ、反対側にいたんだ。ごめんねぇ。」
ぺろっとかわいく舌を出し、笑顔で謝ってくるシルビア。
「ごめんで済むかいな!」
あれは俺じゃなかったら何発か喰らって死んでいたぞ。
「カズヤなら大丈夫だよ。」
何を根拠にそんなこと言うんだよ!
まぁ、これでバーサークパンサー討伐は完了である。後は帰るだけだ。
「まぁまぁ、そのくらいにして。お二方、ありがとうございました。」
騎士団長のおっさんが仲裁に入ってくる。シルビアがその背に隠れてしまう。思い切り俺をからかっているな。シロもシルビアの頭の上でニヤリと言った顔をしている。
「お二人がいなければ負けていましたよ。さすがですな。」
わっはっはっは、とひと仕事終えてご機嫌な騎士団長である。
「ちぃ。」
いつか必ず。
「それより、この手柄は騎士団のものになるのだから俺たちにはそれなりの報酬を出してくれるよな?」
報酬の交渉を開始する。
「報酬ですか?」
意外そうな顔をするおっさん。
「まさか手柄だけもらって俺たちには何もなしってことはねぇよな? 一般兵のやつらに50万出るって話だからトドメを差したボーナスとかもろもろを含めて500万くらい欲しいなぁ。」
かなり吹っ掛けてみる。
「500万?! いくらなんでもそれはちょっと・・・。」
ダメか。しかし、交渉する時はでかい金額から始めねばならん。
「なら600万に負けておいてやろう。」
引っ掛けで増やしてみる。
「増やすのを負けるとは言いませんぞ。」
さすがは騎士団長だ。引っかかりませんでしたな。
「おい、シルビア。交渉に加われ。その男の全てを平伏させる笑顔でさらっと1億とか出させてみせろ。」
市場で200万相当の品を男供に貢がせた所を目撃したことがあるからな。
「1億は吹っ掛けすぎですわよ。今回はこれでいいですわ。」
指2本立てて笑顔を向ける。
「200万ですか?」
騎士団長のおっさんがシルビアのスマイルに鼻の下を伸ばしながら言う。もうシルビアのペースだ。
「いえ、2000万ですわ。」
それにはさすがのおっさんも固まった。
「ほ、報酬に関しては私の一存で決められませんので経理の方にお願いします。」
逃げた。