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2005.3.8


第6話・城(6)




 明くる日の早朝。
 「徒歩か。」
 騎士団はクープと呼ばれるFで始まる某有名ファンタジーRPGに出てくるような鳥(黄色くないけど)に乗っているが、俺たち一般兵は徒歩だ。しかし、シルビアには特別にクープが用意されている。
 「ここから3日の旅になるそうですわ。」
 シルビアがクープの上から声を掛けてきた。シロはちゃっかりシルビアと一緒にクープに乗っている。
 俺の周りに他の兵士たちもいるので猫かぶりモードになっているシルビアである。
 「俺も騎士団に混ぜてもらえばよかったかなぁ。」
 この兵士の衣装ってやつもかなりダサくて嫌だ。頭には安全第一と書いてありそうな形のヘルメットだし、足元が鉄でできたスリッパじゃないか。鉄でできたエプロンみたいな前掛けに、皮でできた胴巻きがあって、非常にダサい。
 「あら、出発しますわ。」
 シルビアの声が聞こえて前を見ると列の先頭が城門をくぐっていく所だった。
 「なぁ、これってデザインはダサいけど、俺の使っているプロテクターより体を覆っている範囲が広くないか?」
 俺の使っているプロテクターはマルティア鋼と言う錆びない金属で作られていて、両肩と胸、その裏の背中だけ守っている。今、着ているダサい兵士衣装は胸元から下の前側全部と腰周りを守っている。背中には大きな荷物があるだけだが、体を覆っている面積は大きいみたいだ。
 「量産型でデザインより、価格と機能性だけを追及した鎧ですから。でも、その鉄板の厚さはそれほどありませんから、直撃したらあってもなくても同じですわよ。」
 なんかヤダなぁ。
 俺の前が歩き出したのでそれに続いて俺も歩き始める。シルビアはクープに乗ったまま俺の隣を進む。
 「こんな格好で3日も歩くのか? 何かの罰ゲームなのか?」
 どうしても愚痴を言いたくなる。
 「真面目に訓練しない罰ですわ。帰ったらしっかり鍛えましょうね。」
 体育会系は嫌だよ。
 「はぁ・・・。」
 溜め息が出る。
 「城門をくぐったら民衆の皆さんが見てますので、背筋を伸ばしてくださいね。」
 シルビアがクープの上でにっこりと笑顔を作る。
 顔をあげるとちょうど城門をくぐる所だった。城門と言ってもこれをくぐるとあの観光名所になっている前庭に出るだけなんだがな。しかし、前庭に出ると見送りの民衆が手を振っているのが見えた。
 こう言うのは初めてだから思わず顔がにやけて手を振ってしまう。
 周りの兵隊さんはびしっと背筋を伸ばしてかっこよく行進しているのに俺ばかりが浮いていた。
 「ふ。俺は所詮、部外者さ。」
 開き直るやつ。

 その後、数時間歩いてフェスレドの街を出る。
 「疲れた。」
 街を抜けるのに何時間かかっているんだよ。でかい街だな。
 「後1時間くらいしたらお昼休みですから、それまでがんばってください。」
 シルビアはクープの上でのんびりしている。
 「疲れた。俺も乗せろ。」
 クープに乗っている方が楽そうだ。
 「1人乗りですから、ダメです。」
 ダメか。
 シルビアが荷物から何かを取り出してむこうを向いてしまう。よく見ると文庫本だった。
 「このアマは。」
 恐らく俺が腕立て伏せ100回をして稼いだ小遣いで買った俺の本だろう。薄情な女だ。
 結局、早朝6時から日が天頂に昇る昼12時ちょっと前まで休みなしの行軍が続くのであった。

 「死んだ。」
 昼休みになって潰れた。
 「お疲れ。」
 地面に潰れている所にシルビアがクープを降りてやってきて、潰れている俺を踏みつける。他のやつらから離れてるからか猫かぶりモードが解除されているようだ。
 「飯。」
 腹が鳴ってる。
 「背中の荷物に乾パンがあるぞ。」
 背中の荷物の中か。
 かろうじて起き上がって背負い袋の中身を確認。
 「これか。」
 これは!
 「これってぼそぼそして美味くないやつじゃん。」
 乾ききったそれは口の中に入れると唾液を吸い取って俺を乾涸びさせようとするのだ。
 「道のりはまだ長いんだから、水は節約しろよ。」
 シルビアも自分の荷物から弁当を持って来ていた。
 「やはり騎士団に入れてもらうんだったぜ。」
 空腹は最高のスパイスって言うんで前は不味く感じても今回は腹が鳴るほどの空腹なのだから美味く感じるかとか思ってかじってみるが、口の中の唾液を一気に吸い上げるそれは味以前の問題だ。
 「んぶ・・・。」
 水をくれ。
 荷物をあさって水を探す。乾パンはたくさん見つかるのに水の入った水筒はどこだ。
 「んー!」
 口の中の唾液が。しかし、見つからない。
 「んー、んー!!」
 今、口の中にあるのは強力な乾燥剤か!
 「ん!」
 やっとのことで袋の底にあった水筒を発見する。くいっと水を口に含み、口の中の乾燥剤を流し込む。
 「ぷはぁ! 死ぬかと思った。」
 ひとくち食べるだけで死にそうになるのはいかなものだろう?
 「これって器に砕いて入れて、水でふやかしてスプーンで食べるんだよ。」
 とか言うシルビアは器に例の乾燥剤を砕いて入れていた所だった。
 「早く言え。」
 荷物の中に器とスプーンも入っているじゃないか。
 「3日も続く単調な行軍には貴重な娯楽だからね。」
 うっふっふっふ、とか言ってシルビアとシロが面白がっている。
 「死ね。」
 水でふやかした乾燥剤をスプーンでぐちゃぐちゃとかき回しながら毒づいてやる。
 「私がここからいなくなったらあんなむさい男たちに囲まれて不味い飯を食べなきゃならないのよ。それでもいいわけ?」
 後ろを振り返ってみるとダサい格好をしたおっさんたちが面白くなさそうな顔をして飯をかっ喰らっている所が見えた。
 「それはヤダな。」
 一般兵の中に女がいないわけではないのだが、大半があんなむさいおっさんたちだ。騎士団は4分の1が女なのだが、一般兵は9割が男だ。その数少ない女は女で固まっているので、男が入る余地はなさそうだ。
 「お前の魔法で一足先に目的地に飛ばないか?」
 そうすればこんな面倒な行軍を行かなくても済む。
 「そんなことしたら怪しまれちゃうじゃないの。あんまり楽なことばかり考えてんじゃねぇぞ。それに、1人と1匹連れて飛ぶのって面倒なんだよ。」
 ただ単に面倒だからって話じゃねぇのか?
 「ほら、もうすぐ出発みたいだからさっさと喰って片付けろ。」
 はいはい。

 数分後、再び行軍が始まる。
 「ああ、だりぃ。これって給料出るのかな?」
 討伐隊に加わって欲しいと言われたからまぁ、いいかってな感じで了承したが、報酬に関しては聞き忘れたな。
 「なぁ。これってどのくらいの給料が出るんだ?」
 隣を歩いていたおっさんに訊いてみた。
 「給料? ああ。今回は1日2万Kくらいかな。」
 日給2万か。微妙な額だな。
 「片道3日で、バーサークパンサーを倒すのに1日だとして、帰るまで1週間か。14万Kくらいか。」
 そのくらいもらえるのかな?
 「ちゃんと討伐できればボーナスが出るし、1日で討伐できるはずないから、50万くらいはもらえるはずだ。」
 結構出るんだな。
 「まぁ、生きて帰らなきゃ、もらえるものももらえないがな。」
 そりゃ、当たり前の話だ。
 「所で、あれってお前のこれか?」
 これかって小指を立てて訊いてくるおっさん。
 「これだ。手を出すなよ。」
 俺も小指を立てて答えてやる。
 「あんないい女、どこで見つけたんだよ。」
 こいつ、独身か?
 「見た目は確かに最高だが、中身は最悪だぞ。騙されるなよ。」
 どこで出会ったかなんて本当のことは教えられない。
 「あれのどこに不満があるってんだ? 贅沢なこと言いやがって。」
 やはり性格まで完璧を求めては贅沢か。
 「まぁ、あれだけ見た目のいい女はまずいないよな。俺は運がよかったか。」
 あの挑発的な態度もかわいいと言えばかわいいし。
 「今度、友達でも紹介しろ。」
 友達か。
 「そう言えば、あいつの交友関係って全く知らないな。女友達なんているのか?」
 80年の封印から復活したばかりだからな。いないよな。
 「まぁ、俺さえいれば他に交友関係がなくても困らないだろう。」
 シロもいるしな。
 「どこかにいい女いねぇかなぁ。」
 いねぇよ。
 再び黙々と次の休憩まで歩き続けるのであった。


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