間に合わなかった。
モッチョン博士に案内された場所には血痕と、壊れたロボットしかなかった。
「モッチョン博士。とりあえず、ここから脱出しましょう。」
周りには無数のモンスターの気配がする。完全に囲まれている。
そして、すぐに戦闘は始まった。
ここに来るまでに見たモッチョン博士の操るロボットの戦闘能力はかなりのものだった。俺でさえ反応しきれないモンスターの攻撃を全て交わし、確実に攻撃を当ててしとめていた。
「モッチョン博士!」
モンスターの腕がモッチョン博士の乗るロボットを殴り倒した。それにシャロンが悲鳴を上げた。
間に合わなかったことにショックを受けていたのだろう。モンスターに殴り倒されたロボットはそのまま動かなかった。
モッチョン博士の所に走り出そうとするシャロンの腰を掴んで押さえる。あそこにシャロンが走っていったらモンスターに瞬殺されてしまう。
モッチョン博士を助けに向かおうとした次の瞬間、いきなり爆発、炎上した。
「何?!」
その爆発にロボットの周りにいた数体のモンスターが巻き添えになって焼かれた。モッチョン博士の生死を確認しようと近付こうとするものの、モンスターの猛攻に近付くことができない。
「こうなれば、これだ!」
デッドクレストの魔法カード。死を司るクレストってくらいだから一瞬にして目の前のモンスターたちを葬り去る強烈な魔法のはず!
「・・・。」
また?
魔法は発動しなかった。
「やっぱり人の作ったものは信用できないな。」
ふと目を上げた先にある炎の中に炭となった腕が見えた。
「くそ! やられた! 全く、何があったって言うんだ?」
モンスターを蹴散らし、遺跡の入り口まで戻ってきた。そこにセラが待っていた。
「エル様、中で何があったんですか?」
俺の荒れる様子や暗く沈んだシャロンの様子ににセラが心配そうな顔をする。シャロンは俺に手を引かれながら、目の下にくまが見えるほど暗い顔をしていた。
「モッチョン博士が死んだ。帰るぞ。」
3人でモッチョン博士研究所を脱出し、町へ戻った。
3日後、黒馬の戦闘員がモッチョン博士研究所地下の遺跡に侵攻し、制圧した。
「いやぁ、これは凄いな。」
2週間くらいして再び戻ってきた。モンスターは一掃され、遺跡内部は整備されていた。
シャロンは旅に出ていて行方不明になっている。そんなにモッチョン博士が死んだのがショックだったのか。
遺跡にあったのはデータの宝庫。部屋を区切る壁だと思っていた物は全てデータベースサーバーで遺跡の奥にあるメインコンピュータからそのデータを引き出すことができた。
ちなみに、元々遺跡に設置されていたメインコンピュータは古すぎて使い物にならなかったらしく、ここだけ現代の物に変わっている。
「クレスト一覧。」
一生懸命に魔法書を読み漁って集めたクレストの模様がデータベース化されていた。今までの苦労はなんだったんだろうか。
「モッチョン博士。俺があなたの研究成果はありがたく使わせてもらうよ。」
ここに納められていたデータは全てコピーされて黒馬ビルへ持ち帰られた。その中にモッチョン博士の研究成果もある。さすがに世界的な魔法研究の第一人者と言われているだけのことはあって、研究内容が幅広い。
わざわざデータをコピーしなくても、サーバーになっている機械を運び出せば早いと思ったのだが、遺跡にあるサーバーは仕組みがどうなっているのか分からず、むやみにばらすことができないらしい。
その作業の途中で雷鷲の連中も来て戦争になりかけたが、何とか説得した。あのモッチョン博士にもらった魔法カードで脅せばさすがに断る連中はいなかった。雷鷲からの人手も追加されて作業は進められた。
「くっくっく・・・。最強の魔法を使えるようになった俺に敵はいない。これで俺の世界征服計画が始められる!」
独り便所で馬鹿笑いしてしまった。後で思うとなんて恥ずかしいことをしてしまったのかと後悔してしまう。
世界征服か。長年夢見て魔法研究をしていたが、こうして実現の可能性が見えてくるとどうしたらいいのか迷うな。
まずは魔法の力で無理やり実権を握った後、回復魔法とかで民衆の心を掴んで支配するんだ。ある意味、神と名乗って君臨してもいいな。
美女をはべらせて豪遊してやるぞ。
ぬふふふふふ・・・。
楽しみだ。
モッチョン博士研究所地下の遺跡から発掘されたデータは有料で一般公開することが決まり、黒馬と雷鷲のどちらが多くの顧客を得ることができるかと新たな市場戦争が開始された。
一般に広まって俺に対抗する者が現れる前に世界征服を始めなければならない。もう休む暇を惜しんで魔法研究に没頭するのであった。
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