「とりあえず、この肉って何の肉?」
なかなか美味いステーキだ。味、食感、見た目。どれを取っても俺の知っている肉に当てはまらない。ソースのせいではないな。
「え? ヴェルニスの肉。結構ポピュラーな家畜だぞ。知らんのか?」
知らないから訊いているんじゃないか!
「ヴェルニス? 知らんな。こっちのこれは?」
いやぁ、どれも見たことのない食材で、異世界だということをひしひし感じるな。
「なんも知らんのか。体の作りも違うんじゃないか? 股間にあれはしっかりついとるか?」
オイ。
「ふっふっふ。後で見せてやろう。」
オイオイ。
「お、自信アリか! 今晩は楽しみだな! 前回の勇者は前任の巫女を殺してしまってとかでしてくれなかったからな。」
やる気だな。楽しみ楽しみ。
「丁度、話に出たから訊くが、お前って何? 何で石になっていたんだ?」
最大の謎だ。石像に青いひし形の石をはめ込んだら人間になったんだからな。
「この世界じゃガキでも知っていることだぞ。まぁ、異世界から来たんだったら知らないわな。私は聖剣セケルステインの巫女、シルビア様だ。巫女は聖剣を持つ勇者の従者として仕えなきゃならない。
と言うことで、不本意ながらお前みたいなガキの世話をしてやっているってわけよ。」
ほ〜ん。俺様が勇者だからこいつは色々世話してくれるのか。シモの世話もしてくれるようだな。
「ついでにお前の命を守るって言う義務もある。それで私が死んでも代えはいくらでもいる。
まぁ、巫女の郷、私の故郷だけどな、そこまで死んだ私を連れて行かないと代わりは出ないけどな。
巫女の郷も結構有名な所なんだけど、知らんよな。今は目的もないし、郷まで案内してやるわ。」
それは至れり尽せりで。てか、口悪いから早くぶっ殺して代えてもらうか? いや、一応めちゃくちゃ可愛いからな、たっぷり調教してやれば言葉遣いも丁寧になるかも・・・。
「ついでにお前の聖剣の話もするな。あの聖剣はセケルステインって名前で全ての災いを討ち滅ぼす力を持つ。私ら聖剣の巫女が守る4本の内の1つでな、何代もの勇者様があの剣を振るい、災いをことごとく討ち滅ぼしてきた凄い剣だ。全く、お前みたいなガキが所有者になるなんてそんな伝説に傷がついてしまうわ。」
バカにするな、女!
「まぁ、戦闘能力だけは確かだな。この石を守っていた魔物ってあの聖剣を求めてこの地にやってきた英雄たちを何百人と殺してきたやつだからな。」
なに! あんな足遅い、攻撃が大振りってやつが何百人と英雄をぶっ殺してきただと? ここには雑魚しかいないのか?
「まぁ、剣が真の所持者として選んだ人間には雑魚みたいに弱いって話だけど。あの魔物が弱くなるのか、それとも真の所持者がそれだけの力を持っているのか。お前みたいなガキが倒せたんだから前者だな。」
前者じゃなかったら俺って最強だぞ。
「あの剣がお前を異世界から呼び寄せたって言う可能性もあるしな。この世界の人間じゃ対処できない災いが近づいているのかもしれないな。その時はしっかり頼むよ!」
は! その可能性もありうる。マジで魔王か!?
「あ、この世界ってなんていうんだ? 俺のいた世界は地球って言うんだ。他にもアースとかって言う時もあるけど。」
聞きたいなぁ。
「アユズカカニだ。この世界を創造した神の名前だ。決して鮎塚の蟹ではないぞ。」
鮎塚ってなんだよ。
「あ、金はあるのか?って持っているわけねぇよなぁ〜。あー、ついてねぇー。大抵の勇者は色んな所で有名な良家の後継ぎに決まっているのに異世界から来たガキじゃなぁ〜。」
とりあえず、財布の中には1200円程あるぞ。
「まぁ、この金が使えれば少しはあるぞ。」
と、シルビアに五百円玉(新しい黄色いバージョンのやつ、平成15年製)を見せてやる。
「あ! 金貨?」
シルビアの目が輝く。
「いや、白銅っていう銅と亜鉛とニッケルの合金だ。てか、金の輝きには到底及ばないだろうが。」
シルビアががっかりする。
「この世界じゃ珍しいから売れば金になるかも・・・。」
ならんな。
「郷に行く前に旅費を稼がねばならんのか。だりぃー、何でこんな美しい私が労働してお金を稼がないとならないの?」
金がなくて悪かったな。
「ちなみにここのお金の単位はキュートだからね。覚えてらっしゃい!」
キュート? 可愛いですか。
「それからこれはフォークよ!」
馬鹿にしてんのか? 己は!
「んで、こっちがスプーンだろ? んなもん知ってるわ。」
なんか、シルビアがいかにも驚いたような顔をしている。確実に馬鹿にされてますな。
「島と島の移動はクープを使うのよ。」
クープ?
「クープって何だ? 多分、俺らの世界にない乗り物だな。」
なんと言っても空に島が浮いていたからな。多分、空を飛ぶ異世界の乗り物なんだろう。
「・・・あ、いや、クープは陸地を移動するにに使う動物よ。本当はリューダって言うのを使うの。」
誰でも知っている一般常識だと思って言ったのだろう。クープもリューダも知らん。しかも移動手段が動物かよ!
「これがテーブルで、こっちが椅子、それからあっちはベッドね。」
シルビアが料理の載っているテーブルや自分の座っている椅子、後ろにあるベッドなんかを指差して言う。
「それは知っているって。それから皿、コップ、扉、照明、窓。後なんかあるか?」
とりあえず、先回りして目に付いた物を言ってやる。
「あんたの世界にある物は分かるみたいね。名詞を全部教えるなんてメンドーだからな。安心したぜ。わからんのがあったら訊け。知識を披露するのはなかなか楽しいからな。」
はい。
「ふう、おなかいっぱい。久しぶりにまともな食事をしたぜ。」
ああ、家に帰ったらカップ麺とかばかりだったからな。
「久しぶりって普段は何を食べてんだよ。」
「カップ麺とか、焼きそばとか、コンビニ弁当とか。」
料理は全くできないからな。
「焼きそばはなんとなく分かるけどカップメンとかコンビニベントウってなんだ? 一応、食べ物だよな。」
この世界にはカップ麺とかコンビニ弁当ってないのか。
「カップ麺はカップにお湯を注ぐだけで食べられるって言うインスタントラーメンで、コンビニ弁当はコンビニに売っている弁当だな。
コンビニって言うのは色々な物が一通り置いてある店だな。」
「お湯を注ぐだけとか店で売っている弁当とかか。焼きそばってまさかそばを焼いただけか?」
「その通りだ。ちなみに、それだけだと美味くないので肉とキャベツ、ソースをかける。」
「料理できないのか。全く世話の焼ける主人だな。ああ、ついてねぇー。お前みたいなガキじゃ料理する気にもならんわ。」
ついてないとか言ってんじゃないよ。てか、ガキって言うのを止めろ。
「ガキガキうるさいな。これでも20超えてんだぞ!」
「私は100歳超えているわ。ガキがいきがるな。」
「そのうち何十年石になっていたんだ? この阿婆擦れが。」
「80年だ。」
石になっていた時間を除けば、たいして変わらんじゃないか!!