「それは何だ?」
食卓が片付けられ、やることがないのでこっちに持ってきてしまったものを確認している。
「教科書、ノート、筆記用具、電卓、メモ帳、シャーペン、フロッピーディスク、ホチキス、時間割表、プリントケース、クリアバインダー、ケータイ、財布、アパートの鍵、胃薬、ばんそうこう、裁縫セット、交通安全のお守り、チョコレート、ペットボトルジュース(オレンジ)以上だ。」
シルビアが物珍しそうに見ている。
「見たことないのがたくさんね。お前の世界にはこういった物がたくさんあるのか?」
たくさんってかなぁ。
「まぁ、大体のやつは持っている物だな。」
裁縫セット、ホチキス辺りは持ち歩いているやつは少ないな。
「これ、読んでもいい?」
シルビアが300ページ超のC++プログラミングの教科書を手に取っている。それに興味を持つとはなかなか向学心の強いやつだな。
「学校の教科書なんて読んで楽しいのか?」
さすがに小説とかは持ち歩いていないな。裁縫セットはあるのに小説はないのか。
「知らない学問書が目の前にあったら興味湧くだろうが。文字は同じ物を使っているのだな。言葉も同じ様だし、案外知らないだけで近くの世界なのかもしれないな。」
と言ってシルビアが教科書を開く。
「おい。このコンピュータとは何だ?」
てか、コンピュータが分からなければこの教科書を読む意味なし。
「コンピュータって言うのはこの電卓を拡張した大規模な計算機のことだ。この電卓は数字の四則演算しかやってくれないが、コンピュータはさらに文字や画像なんかを扱えるようにした物だ。」
とりあえず、電卓を見せてやる。持ち歩いているとなかなか便利だ。
「おお、計算結果が瞬時に出てくる! なかなか便利な物があるんだな。」
新しい玩具を得た子どもってこんな輝いた目をしているのか。なんかめちゃくちゃ可愛いな。
しばらく、シルビアに持ち物について説明が続く。
「そう言えば、風呂って用意してくれるのか?」
そろそろ風呂に入って寝たい。
「風呂? ああ、そう言えば封印解けたばかりで私も風呂に入りたいわね。訊いてみようか。」
と言ってシルビアが部屋から出て行く。しばらく待っていると嬉しそうに帰ってくる。
「風呂使えるってよ! 風呂に行くぞ。」
おお、良かった。着替えはないけど、非常事態だからしょうがないな。
「着替えとかタオルは用意してくれるって。」
それなら安心だな。
「おお、でかいなぁ。」
でかい湯船だな。30人くらいは軽く入れそうだ。
お湯は緑色でハーブみたいないい匂いがする。入浴剤でも入っているのか?
「ハーブ湯じゃない! 気が利いてるわね。」
湯船を観察していると後ろからシルビアの声が聞こえる。
「ほれ、そんな所に突っ立ってないで入れ。」
がぼーん! シルビア!! ここって混浴かよ! 脱衣所が別だったから油断していた。早くもシルビアの裸体が拝めるってものだ。なかなかラッキーだな。
「おお、シルビア! なかなかいい体しているな。肌も白いな。」
シルビアの顔が少し赤らむ。胸とか大事な所はタオルで隠している。
「あ、ついでにあれ見せろよ。後で見せてやるって言ってたじゃん。」
あれ?
「ほれ、そのタオルどけろよ。」
ああ、あれか。
「見るがいい。バッチリしっかり立派なもんがついているだろうが。」
タオルを取ってシルビアに見せてやる。てか、こんな簡単に見せてやるモノじゃないな。
「ちっちゃーい!!」
ガーン!!
「ちっちゃいって他のやつのを見たことあるのか?!」
まぁ、勃起していない分小さいが。
「ないよ。」
何を基準にちっちゃいと判断しやがったんだ?! てか、あるよ、とか言われたらショックだったな。
「とりあえず、ちっちゃいって言っておけばいいって近所のおばさんが言ってた。」
オイ。
「俺のを見せてやったんだからお前のも見せろよ。ついていたらショックだからな。」
シルビアの顔が赤くなる。
「ついてないからダメよ!」
そう言ってざぶざぶと湯船に沈んでしまう。
「人のを見ておいて自分のを見せないとは、卑怯だぞ。」
見せてしまったからにはいまさら隠す必要もないな。やれやれ。しっかりかけ湯をして湯船に入る。
ああ、いい湯だ。さすがに足が伸ばせる風呂って気持ちいいな。ゆっくりする前に体を洗ってしまうか。
「お前って俺の従者だろ? 背中くらい洗ってくれるのか?」
タオルに石鹸を泡立てながら訊いてみる。風呂上りにマッサージまでしてくれると嬉しいのだがな。
「ふざけんな! アホ! んな事までする義務はねぇよ! 色々世話してやるんだから私の背中を洗え!」
拒否されてしまった。
「シャンプーはこれか。」
お徳用サイズのでかいやつだな。たぶん共用なのだろう。「節約して使うこと!!」なんてペンで書いてある。
「アソコの毛もシャンプーで洗っとくか?」
オイ。
「ふぅ。極楽極楽。全く、せっかく一緒に入っているのにシルビアは湯気の向こうで見えないな。まぁ、のんびり足が伸ばせるだけいいか。」
ああ、やれやれ。今日も1日ご苦労様だな。いや、布団に入って横になるまでそんなことを言ってはいかんな。晴天をほめるには日暮れを待て、だ。今日は1日平凡で平和な1日と思っていた矢先にこんなことになってしまっているからな。これから寝るまで苦労するかもしれない。全てが終わるまで気を抜いてはいけないというやつだ。
「おーい、シルビア。あんまり長くつかっているとのぼせるぞ。」
湯気の向こうの影が全く動かないので声をかけてやる。しかし、返事はない。
「マジでのぼせているのか? そっちに行くけどいいか?」
返事はない。本当にのぼせて気絶しているんじゃないかと思って湯気の向こうにいるシルビアへ近付いてみる。
「・・・おい、大丈夫か?」
岸に上半身を上げてぐったりと気を失っていた。バッチリのぼせてしまっているようだ。
「・・・・あほだなぁ。」
岸に上げて水で絞ったタオルを額に乗せてやる。
「う、うん?」
シルビアが目を覚ましたようだ。
「大丈夫か?」
なんかまだ意識がもうろうとしているようだな。
「寝ている間に何かしなかったでしょうね?」
シルビアの目が険しくなる。
「岸から上げて冷たいタオルで顔をふいてやった。寝ている女をイタズラしても面白くないからな。安心しろ。」
それから部屋に戻るまでシルビアの顔は厳しかった。