「おい。何をしてんだ? てか、その剣ってそんなに重いのか?」
風呂から帰ってくると部屋に俺の剣を持ち上げようとがんばっている少年を発見。声をかけると慌てて逃げようとする。脇をすり抜けようとした所をラリアットを食らわせて捕まえる。
「ごめんなさい! ごめんなさい!! 決して盗もうとしていたわけではないんです! ただ、磨いて差し上げようとしただけです!!」
なら逃げるな。
「それなら逃げる必要はあるまい。マジで盗みに来たのか?」
少年がギクッと言っている様な表現が正しそうな顔になる。
「盗み出しても正当な所持者でいらっしゃるカズヤ様以外には使えませんのに。そもそも持ち上げることすらできませんわ。磨いていただけるのは助かるのですが、カズヤ様に同伴していただかないと無理ですわね。」
そうなのか? てか、口調変わってないか?
「俺以外のやつに持ち上げられないってホントか?」
床に倒れている剣を拾い上げてみる。かなり軽い。最初はあまりにも軽いのでアルミ製だと思った程だ。アルミより軽いかもしれないな。
「持つくらいなら聖剣の巫女である私にもできるわ。あ、剣を磨いてくださるのでしたら道具をここに持ってきて、カズヤ様と一緒に磨いてね。」
は! 分かりました、とか言って少年が走り去って、しばらくして何か抱えて帰ってくる。
「はい! 磨かせていただきます!」
少年が剣磨き用の道具らしきタオルを構える。
「それじゃ磨かせてやる。光栄に思え。」
オイ。
少年が「はい!」とか言って緊張した面持ちになる。
とりあえず、鞘から抜いて磨き易いように床に置いてやる。
しばらくして剣がぴかぴかになる。こんなに綺麗な剣だったのか。ちょっと感動。
「カズヤ様も使ったらすぐに手入れをしてこのくらい綺麗に保ってくださいね。」
シルビアがニコニコしている。口調も戻らないな。
「はい! ありがとうございました! 失礼します!!」
少年がそう言って逃げる様に走り去っていく。
「ああ、行ったか? 一応、世間的には清楚で美しい巫女ってんのを演じなけりゃならんからたるいな。いつもそのくらい綺麗にしとけよ。一応、聖剣なんだからばっちくしておくと面目立たんだろうが。」
少年が消えてすぐに挑発的な口調に戻ってしまう。あっちは演技でこっちが本心なのね。
「ああ、今日は色々なことがあった。」
今はベッドの上で横になっている。
風呂から上がって脱衣所に着替えが用意されていた。この世界で一般的に用いられている服だそうだが、俺らの着ている服と大して代わらない。100%天然素材を使用していることは確かだ。服についている使用素材と洗い方の書いてあるタグがこの服にはついていないから確かめようがないが、通気性がよく、柔らかくて動き易い。
俺が元々着ていた服は洗濯してくれるのか脱衣所にはなかった。
「カズヤ様。明日は町に下りて仕事を探しにいくぞ。金を持っていないお前が悪いんだからな。しっかり旅費を稼げよ。」
好きで無一文になる奴はいない。たまたまこの世界で俺らの世界の通貨が使用できなかったというだけだ。
「と言うことで、さっさと寝ろ。」
と言ってシルビアが背中を向けてしまう。ああ、夜のお供はなしっすか? まぁ、いいけど。そのうちそのうち。
もそもそ
ベッドに入ってしばらくした頃。なんだ? 布団の中で何か動いている感触がする。大きさからして人間の大人くらいだな。俺と並んで寝る形になって動かなくなる。ちょっと横を向けば顔が見えるな。
「・・・。」
シルビアでした。さっきまでシルビアのいたベッドは空だ。やはりエッチしたかったのか? とか思ったが、いきなり寝息を立てて寝てしまう。
「・・・。」
寝るか。
シルビアの寝顔がめちゃくちゃ可愛かった。
翌朝。
「おい、起きろ!」
「ぐへ!!」
いきなりボディーブローが入る。しばらく痛みで動けなかった。
「いつまで寝ている! さっさと起きんかい!」
黙れ。
「いってぇなぁ!! もうちょっと優しく起こしやがれ!!」
あー、死ぬかと思った。
「一応、言って置くが、お前が死んでも私は困らないからな。お前が死んだらまた次の勇者が現れるまで封印されて石になるだけだ。飯も食ったし、風呂にも入った。もう封印されてもいいぞ。」
俺の命を守る義務はどうした?
「絶対にお前より先に死んで堪るか!!」
それをシルビアが鼻で笑い。
「実際に接近戦をするお前の方が後方支援の私より命が危険なのは分かるな? 歴代の勇者たちの半数以上は巫女より先に死んでいるぞ。」
残りは巫女の方が先に死んでいるんだろうが。
「聖剣の勇者なんて者になってしまったら剣による戦闘は避けられんか。まずいな。中学時代から帰宅部だったから全く運動していないぞ。どうしよう。」
TVゲームはかなりやっていたので動体視力と瞬間的な判断力はあると思う。
「武芸の心得がないのに勇者なのか。全くもってついてねーなー、はぁ・・・。」
シルビアがため息をついている。さすがに剣の使い方も知らない、金もない勇者の従者をせねばならんこいつは不運だな。
「先代がいい男だったから巫女の契約をしたが、こんなことになるなんて。ああ、ついてねー。」
オイ。
とりあえず、出かける前に基本の型を教えてやる! とか言って寺院の庭で早朝トレーニングをしている。一通り終わるまで朝飯は抜きだそうだ。
「馬鹿野郎。俺は低血圧で朝は苦手なんだ。それがゆえに朝錬のある運動部に所属しなかったと言うのに。」
相手が女なんだから馬鹿野郎は言語的に用途が間違っているな。女に対しては何を使えばいいんだ?
「不規則な生活でもしていたんだろ? 私が従者をしている間にもっとまともな勇者になってもらうぞ! ほら! そこは脇を締める! 腰を入れる! 背筋を伸ばす!!」
だりぃ。
「ちぃ。この辺で許してやるか。私もハラヘッタ。」
疲労でつぶれた。腹が鳴っている。こんな軽い剣でもあんなに素振りをするとこんなに疲れるのか。まぁ、運動不足のせいだな。
「ほれ、起きろ! 飯に行くぞ!」
部屋に戻ると朝食は用意されていた。
「これがリューダだ。」
でけぇ鳥。これに乗って移動するのか。そのリューダの姿に感心しているとシルビアがさっさと乗り込んでしまう。
朝食を食べてすぐに出発の準備をした。昨日、着ていた服は洗濯されて綺麗になって帰ってきた。
先ほど寺院長に出発前のあいさつをして寺院奥にあるリューダのたくさんいる小屋に来ている。
ここからリューダに乗って別の島に飛んでいくのだそうだ。リューダ1匹に5人くらいは軽く乗れる。
「カズヤ様、行きますよ。早くお乗りになってください。」
馬の背に乗るみたいにリューダの背に乗るための足をかける所がついている。よっこらせと、何とか背中に乗れる。
「カズヤ様、シルビア様。お気をつけて。」
見送りに来ていた寺院長が手を振っている。
「ジルハ様。行って参ります!」
シルビアが笑顔で振り返り、返事をする。それと同時にリューダが飛び立つ。
「うっひょー!落ちたら死ぬな。」
スゲー!!島が浮いているよ!その間を俺たちの乗るリューダが飛んでいく。リューダは大きな翼を広げて滑空して高度を下げているようだ。
周りの島がどんどん頭上に上っていく。
「しっかり捕まれ。落ちたら面倒だ。」
俺の前に乗っているシルビアの長い髪が風になびいて俺の顔にかかるのは邪魔だが、その横顔がなかなか美女だ。
「こんな感じか!」
がしっとシルビアに後ろから抱き付いてやる。しっかり捕まれって言ったからな。こんな感じであろう。すぐ前に取っ手があるが。
「胸は掴むな!」
むにゅんっとシルビアの乳房を揉んでみる。物凄い重量感。昨日、見た時はでかいと思ったが、う〜ん、でかいな。
シルビアが体をゆすって抵抗してくる。しょうがないな。シルビアから手を離し、体の方向を変えて後ろ向きに座る。おおおおお!!! 絶景ってか、怖いな。
たくさんの島が浮いている空。
その間を風を切って滑空するリューダ。
夢を見ているような風景だ。