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2003.9.7(2004.5.6修正)


第2話・お仕事(1)




 しばらくの空中遊覧の後、なかなかでかい島に降り立った。周りに他のリューダがたくさんいる。 この島の玄関口の様な場所らしい。
 「よくリューダに後ろ向きで乗れるわね。と言うか、どうやって方向転換したのよ!」
 え?
 「どうって、この取っ手にこうやって捕まってだな、こうやって体を素早く回転させるんだ。 どんどん周りの風景が飛んでいく姿はなかなか面白かったぞ。今度やってみるか?」
 怖かったのは最初だけだな。シルビアの髪が顔にかからないから後ろ向きの方が楽しかったくらいだ。
 「だまらっしゃい! さっさと降りる!」
 シルビアはさっさとリューダから降りてしまっている。しょうがないな。
 よっこらせと、何とか転ばずに降りることができた。
 「ご苦労様。」
 シルビアが俺たちが乗ってきたリューダの頬を撫でながらお礼を言う。それに応えるようにリューダが返事をしたかと思うと空高く舞い上がっていってしまった。
 「はい、仕事探しに行くわよ!」
 へいへい。

 なかなかでかい町だ。人がたくさんいる。西洋風の鎧を着込んで腰に剣を下げている連中や、黒いローブに杖を手に持っているやつとか結構いる。物凄いファンタジーの世界といった感じだな。
 「今日はお金がもらえなければ飯抜きの野宿だからね。」
 なに!!
 「昨日、食いだめしたから2、3日は食わなくても大丈夫だぞ。」
 用意するのが面倒とか言って3日ほど食わないなんてざらにあったからな。
 「だまらっしゃい! あの酒場で仕事がないか聞きに行くよ!」
 『英雄館』なんて看板が出ている。酒場だったのか。
 「お前がウェイトレスやればはやりそうだよな。」
 黙っていれば可愛いし、芝居すれば丁寧な口調だし。
 「なんで巫女の私が酒場でウェイトレスなんてしなきゃならないのよ! お前がウェイターやれ!」
 シルビアがすたすたと入っていってしまう。

 「マスター。何かすぐにお金がもらえる仕事ってないかしら?」
 すぐに金が入らねば飯抜きの野宿だからな。
 「そうだな。3万でどうだ?」
 マスターが助平そうな顔で鼻の舌を伸ばしながらシルビアの手を握っている。
 「働くのは私じゃなくて彼なの。私を抱きたいのならその1万倍用意なさい。」
 1晩3億ってキュートが円と同じぐらいと考えても娼婦にしては高すぎだな。シルビアがマスターの手を抓っている。
 「何だ、ガキじゃねぇか。お前みたいにひょろひょろのやつに仕事なんてねぇよ!」
 シルビアに抓られながらもマスターは手を離さない。
 「私たち、さっきグランディフィールドから降りてきたばかりなの。剣の腕ならそこそこ立つと思うわ。」
 戦闘経験は魔物を1匹切っただけです。RPGで言うと経験値100くらいか? レベルアップまで後、1200くらい必要ですってか?
 「グランディフィールドの剣士ならそこそこ剣の腕は立つな。」
 がはははは、と馬鹿にする様に笑い出す。
 「よし、可愛いねぇちゃんに免じて1つ紹介してやる。1日で片付ければすぐに報酬が出るぞ。」
 そう言ってやっとシルビアの手から離れて、棚からメモの紙を外す。
 おっさん、手が真っ赤になってまずぜ。


 「ここね。」
 メモの紙には依頼主の住所と名前が書かれていた。その住所を頼りに依頼主の所へやってきた。
 シルビアが呼び鈴を鳴らしている。
 なかなかでかい屋敷だ。報酬は期待できそうだな。上手くいけば昼飯をご馳走してくれるかもしれない。
 しばらく待っていると執事らしき黒服のじいさんが現れた。
 「我が家にどういった御用ですかな?」
 なかなか物腰の低いじいさんだな。
 「英雄館で仕事を聞いてやって来た者ですが。」
 と言って、酒場でもらったメモの紙を執事に渡す。それを確かめた執事のじいさんが俺たちを屋敷の中へ招き入れる。客間へ通され、しばらく待つように言われる。
 「仕事って何だと思う?」
 やはり魔物退治か?
 「大方、魔物退治だろ? 一応、勇者様なんだし、楽勝だよな?」
 相手を見ていないのに楽勝とか言うな。誤解がないように書き加えるが、先の「思う?」が俺のセリフで、後のがシルビアだ。

 しばらく待っていると屋敷の主人らしき派手な格好をした野郎が兵士らしき鎧を着た男を従えて現れる。
 「あなた方が英雄館から紹介された人間か。見た所、プリーストとファイターか。」
 おお、ここでは普通にプリーストとかファイターなんてやつがいるのか。ますますファンタジーの世界だな。
 「あ、私はウィザードです。」
 ウィザードは攻撃魔法専門か?
 「まぁ、どちらでもいい。仕事の内容は魔物退治だ。」
 やはり魔物退治か。

 仕事内容は彼が新たに手に入れた土地に棲む魔物を退治して欲しいといったものだ。
 成功報酬は200万だそうだ。お金の価値が円と同じとは限らないのでどのくらいの金なのか良くわからんな。
 魔物の棲む土地は彼の私有地で別の島にあるとのこと。そこまで案内をつけてくれるそうだ。
 「紹介しておこう。彼はガストロ君だ。道案内と依頼成功の判定をしてもらう。いわゆる監視役だな。」
 鎧を着た男が一歩前に出て頭を下げる。
 「急ぎの依頼だ。すぐにでも出発してもらいたいな。」
 昼飯は抜きか?
 「いい知らせを待っているよ。」
 そくささっと追い出されてしまった。
 「・・・・・おい、飯どうする?」
 昼飯をご馳走してもらうつもりでいたし、金もないし、昼飯抜きは決定か?
 「ガストロ様。そろそろお昼ですけど、昼食はいかがなさいます?」
 あ、こいつにたかると言う手もあるな。
 「そうだな。自己紹介がてら飯屋に入るか。」
 来た!
 「お供させていただきますわ。」


 ガストロの行きつけらしいなかなかこじんまりした飯屋に入る。3人で日替わり定食480キュートを注文する。メニューはヴェルニスの煮込み、グリーンサラダ、硬いパン、バター、コーヒーらしき飲み物だ。
 「俺はガストロだ。あの屋敷で雇われ兵をしている。」
 食事をしながら自己紹介を始める。
 「私はシルビアです。魔法全般に得意な旅のウィザードです。」
 このヴェルニスの煮込み、美味いな。次は俺か。てか、聖剣の巫女ですって名乗らないのな。俺も勇者ですって名乗らない方が良さそうだな。
 「俺は一也だ。これと言った特技なし。」
 剣士と言うには剣の扱いに慣れていないからな。
 「特技なしって大丈夫なのか? 足手まといはいない方が助かるが。」
 まぁ、足手まといはいない方が楽でいいわな。俺もできれば魔物退治なんてしないでこの世界を観光していたい。
 「一応、グランディフィールドにいましたから剣の腕は大丈夫ですよ。剣の他に特技がないと謙遜しているだけですのでご安心ください。」
 いや、剣も特技に入らんと思うぞ。
 「グランディフィールドか。それなら足手まといになるまい。聖地の番人供の強さは有名だからな。」
 有名なのか。グランディフィールド=聖剣の聖地で、あの聖地を守っているあの寺院のやつらが番人か。 その強さが有名だからあの酒場のマスターはグランディフィールドの名前を出しただけで信用してくれたのか。
 でも、嘘なんだよなぁ。グランディフィールドにいたのなんて昨日、夕方から今日の朝までだし。
 「自己紹介はこのくらいにして、仕事の内容について補足しておく。」
 魔物退治としか聞いてないからな。
 「獲物はトリフェイスライオンって言うでかい三つ頭の怪物だ。前に50人の兵士を送り込んだが、全滅した。 そのくらいのやつってことだ。やつの周りはキメラライオンがかなりの数で取り巻いている。 こいつの強さも侮れんな。1匹に対して兵士3人がかりでないと全く相手にできなかった。 俺は1人で2匹くらいなら相手できるから安心していいぞ。」
 かなりの数にいるのに一度に2匹しか相手できなくて安心していいのか? てか、普通は3人で相手できる怪物を2匹相手にできるから強いのか?
 「成功条件はリーダー格のトリフェイスライオンを倒すことだ。やつが倒れれば雑魚のキメラライオンは皆、逃げていく。」
 まぁ、死なない程度にがんばりましょ。


 「なに! お前ら金なしか!」
 食後、お会計にて。おっちゃん、おごってくれ。
 「ねぇ、ガストロ様ぁ。私たちの分もお願い・・。」
 シルビアがふぅっとガストロの耳にため息を吹きかけるようにささやいている。ガストロのおっちゃんはそれに耐えられず、3人分払ってしまった。
 「ありがとうございます! ガストロ様!」
 ぎゅーっとシルビアがガストロに抱きついている。おっちゃん、鼻の下が伸びまくってまっせ。

 「それじゃ行くぞい!」
 本日2度目のリューダだな。先頭はガストロ、その後ろに俺、最後尾にシルビアが乗る。
 「飛べ!」
 ガストロの掛け声で3人を乗せたリューダが飛び立つ。風を切って飛ぶ感覚はなかなか気持ちいいのであった。


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