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2003.9.7(2004.5.6修正)


第2話・お仕事(2)




 「こうやるんだよ。」
 シルビアの前で方向転換してやる。高速で飛翔するリューダから体が離れたらまっ逆さまに落下して死ぬ。
 「や、やめなさいよ! 危ないわね!!」
 シルビアが俺の服の裾をしっかり掴んで心配している。ガキと言われるのもあれだからやめるか。
 「野郎の背中を見ていても面白くないんだよ。」
 しかも中年のおっさんだし。
 「こんな至近距離で向かい合うのも恥ずかしいんだけど。」
 リューダの乗り方はバイクに3人で乗っているような感じだからな。20pくらいしか離れていない。
 「俺はお前の可愛い顔をいつまでも見ていたい。」
 くいっとシルビアのあごを引いてみる。口調は挑発的だが、顔とプロポーションは今までに見たことがないくらいの美女だからな。
 「・・・・・・・・・。」
 シルビアの頬が赤く染まってくる。てれているのか? もう少し押せばキスくらいは・・。

ドス!!

 突然、腹に激痛が! シルビアがボディーブロー入れやがった。
 「あんまり調子こうてんじゃねぇぞ、こら。」
 シルビアがボソッと耳元で囁く。ガストロのおっちゃんには聞こえていないだろう。
 「はい。前、向いてます。」
 くるんっと方向転換する。
 「わ! 危ないってば!!」
 シルビアが服の裾を掴んでくる。
 「ここであんまり動き回らないで。」
 全く怖がりだなぁ。


 目的地に到着。
 「ここだ。この中にやつが潜んでいる。」
 ぽっかりとでかい洞穴ってか、洞窟って言うのか口を開けている。
 「なんか大型の獣が出入りした足跡があるな。形、大きさ、数からして複数いるみたいだな。」
 面倒だな。
 「一応、死なないようにサポートしますけど、気をつけてくださいね。」
 といいながら、すれ違い様に、
 「世話かけんじゃねぇぞ。」
 と、脅迫してくる女。
 へいへい。

 中は真っ暗だからシルビアが魔法(の様な力)で灯りを作り出す。便利だ。
 「剣は抜いて置いた方がいいか?」
 「そりゃ、突然襲われた時の為に手に構えている方がいいでしょう?」
 そりゃそうだな。
 肩に背負っていた鞘から剣を抜く。鞘から剣を抜くと、結構鞘は邪魔だな。長いから背中のリュックに入らないしな。
 「この鞘って入口に置いて行ってもいいか?」
 戦闘の邪魔になる。
 シルビアが指を鳴らすと煙の様に鞘が消えてしまう。魔法って便利だな。
 ガストロさんは先に行ってしまう。

 「お! あぶなーい! シルビア―!」
 なんとも間延びした緊張感のない警告で。
 「後ろ後ろ!!」
 囲まれてんじゃん!! でかいライオンの様な魔物だ。色が赤くて、背中にコウモリの羽みたいなのがついている。これがキメラライオンってやつか。
 「邪悪なる我が敵よ! 我が前より退け!!」
 一斉に飛び掛ってきた魔物たちをシルビアが何か見えない力で吹き飛ばす。ついでに俺まで吹き飛ばすのはやめて欲しいな。あ、ガストロのおっちゃんまで飛んでる。
 「アホか! 俺まで吹き飛ばすな!!」
 ぎにょー!! 吹き飛ばされたおかげで4匹の魔物に囲まれてしまったじゃないか!! ガストロのおっちゃんも囲まれてしまっている様子だ。助けは期待できないな。
 シルビアは気にしていないな。シルビアは向こうで勝手に戦闘している。シルビアの放った魔法が爆音を立てる。
 その時、ガオオ!! の様な唸り声を上げて魔物が飛び掛ってくる。しかし、その動きは遅い! 簡単に避けられる。
 「おせぇ!! ハエが止まるぞ!!」
 俺に飛び掛ってきた魔物の懐に飛び込んで胴切りにしてやる。よく切れる剣だなぁ。魔物が真っ二つになる。
 「お前らに恨みはないが、生活のためだ! 死んでくれ!!」


 10匹以上いた魔物はあっという間に倒されてしまった。
 「カズヤ様にけがはなさそうですね。ガストロ様、今、回復魔法をかけます。」
 シルビアと俺は無傷だ。シルビアなんかは返り血も浴びていない。ガストロのおっちゃんはぼろぼろだ。体中に爪で切り裂かれた傷ができている。
 「く! かたじけない。」
 シルビアの魔法でガストロの傷が消えていく。魔法って便利だなぁ。数分後、ガストロの傷は完全にふさがってしまう。
 「あれだけの数を相手に無傷とはなかなかやるな。」
 あんなにとろい攻撃を避けられないってもう年なんじゃないか?
 「さ、ここにとどまっていては新手が集まってきます。先に進みましょう。」


 あれから4回ほど雑魚キャラと戦闘があって、やっと目的のでかいやつを発見する。トリフェイスライオンだったな。
 「でっかいなぁ。顔が本当に3つもあるよ。」
 ファンタジー街道まっしぐらだな。剣に魔法、魔物! う〜ん、やれやれだ。
 「私が魔法で支援しますから、突っ込め。」
 おい。
 「お前がなんかでかい魔法使ってしとめた方が早いだろうが。」
 うんうん。
 「洞窟内であんまり威力の強い魔法を使うと、崩れて生き埋めになってしまいますわ。」
 それはごもっともな意見だ。こんな所で死ぬのは勘弁して欲しいな。
 しょうがないな。
 「仕方がない。俺がやつの注意をひきつけている間にって、おい!」
 「うおおおおおおおおおお!!!」
 と叫びながらガストロのおっちゃんを無視して真正面から突っ込んでみる。それを返り討ちにしようと3頭の魔物が前足を振り上げて薙ぎ払おうとする。
 「遅いって言ってんだよ!!」
 遅い。マジでハエが止まるんじゃないかってくらいスローモーションだ。目の前を通り過ぎた前足を返り討ちにしてやる。紫色の血が噴出す。
 「喰らえ!」
 前足を切り裂かれてバランスを崩してつぶれた所で魔物の腕を駆け上がり、3つある首の内右の首に剣を叩き込んでやる。全く良く切れる剣だ。直径2mくらいありそうな太い首が転がる。
 「おおおお?!!」
 向こうでガストロのおっちゃんの感嘆の声が聞こえる。
 「うっひょー! たけー!」
 魔物の肩から地面まで(胸をつけた状態で)3m程。下から見るより上から見た方が高く感じる。落ちたらケガするな。
 「つーことで、落ちないように背中に取り付いてやる。」
 ザクッと背中に剣を突き立て、痛みにのた打ち回る魔物から落ちないようにする。
 「紅蓮の炎よ! 我が前の敵を焼き尽くせ!!」
 激痛にのた打ち回っている魔物にシルビアの魔法が炸裂する。巨大な火球を胸に喰らい、2つの頭の口から紫色の血が噴出す。
 「止めかな?」
 背中に刺さった剣を根本まで突き刺し、そこから横に切り裂いてやる。全く良く切れる剣で、あんまり力が要らなかった。
 魔物が断末魔の悲鳴を上げて動かなくなる。
 「俺がこの世界で生きていくためには必要なことだったんだ。俺を恨まず、成仏してくれよ。」
 ガストロのおっちゃんは何もしなかったな。


 「ぐえー、返り血でベトベト。」
 血は紫色をしているんだよ。気持ち悪い。
 「ちゃんと後で手入れして置けよ。」
 シルビアが俺にだけ聞こえるようにボソッと脅迫してくる。
 「いやぁ、これで任務完了だな。屋敷に戻って報酬をもらってこようぞ。」
 んじゃ、帰りますか。
 「風呂に入りてぇなぁ。」
 ついでに服の洗濯もしたいな。
 「ガストロ様、お風呂は用意していただけるのでしょうか?」
 こうやって可愛くしていれば誰も文句ないよ。なんで俺に対してだけあんな挑発的な言葉を使うのか。気を許していると言うことで喜ぶべき所なのだろうか。
 「そうだな。頼んでみるか。」
 外で待っていたリューダに乗り、帰路に着く。


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