「ふぅ、スッキリスッキリ。」
帰ったら依頼主の派手な野郎が大いに喜んでくれて関係者を集めたパーティーに招待してくれた。
着替え、風呂、部屋まで用意してくれた。
今は風呂に浸かってゆっくりしている。
「旅費はこれでとりあえずは大丈夫ね。」
なんか知らんけど、隣にシルビアがいる。この世界では当たり前に混浴なのか? ガストロさんは来てないな。
「いやぁ、なんと言っても野宿しないで済んだのが良かった。」
今の季節、夜は寒い。
「ふぅ、肉体労働の後の風呂は気持ちいー。後でマッサージしてくれや。」
注意。シルビアのセリフである。
「俺の方が過酷な肉体労働していただろうが! 俺にマッサージしろや!」
湯船に入る前に返り血を洗い流している。さすがにあのままだとベトベトで気持ち悪いことこの上ないからな。
「やぁーよ。あんたの従者って言ってもそこまでする義務はないのよ。私はお前を世話してやっているんだからマッサージくらいしてもらう権利はあるわ。」
今に見てろよ! あんなことしてこんなことしてあんなことさせてよぉ!
「そう言えば綺麗な肌だよな。何か手入れとかしているのか?」
昨日はそんな気配はなかったな。日に当たったこともない様に真っ白できめ細やかな肌をしている。
「常に体の表面に薄い魔力の膜を張り巡らせることで紫外線や雑菌なんていう有害な物を排除しているのよ。」
便利なことで。
風呂から上がると用意されていた着替えはパーティー用のドレスとタキシードであった。脱衣所で待機していたメイドちゃんが着替えの手伝いをしてくれる。いきなりフルチンを見せてしまって双方共に恥ずかしかった。
返り血に塗れた服は現在、洗濯しているとのこと。なかなか気が利いているな。
ドレス姿のシルビアもなかなか美人だ。俺は、似合ってないな。
着替えが済むと、そのままパーティー会場へ通された。
「おお、ご両人。依頼の件、ご苦労様でした。これであの土地の開発が始められます。報酬の方は明日の朝、ご用意いたします。今夜はパーティーをお楽しみください。」
と、依頼主の派手な格好をした野郎がシルビアをエスコートする。
こうやってドレスを着て、髪を結ってあるとどこからどう見てもどこか良家のお嬢様だよな。身の振り方もそんな気配を漂わせている。
まぁ、女はしばらく放っておいてまずは腹ごしらえだな。物凄い美味そうな料理がたくさん並んでいる。酒もたくさん出ているな。見たこともない物ばかりでうきうきしている。
この立食パーティーにはあの土地を開発する関係者たちが集まっているとのこと。あの魔物が倒されたおかげで明日からにでも開発が始まるとか。
ガストロのおっちゃんはきていないみたいだな。部屋で寝ているのか? まぁ、中年の顔を見ても面白くないな。
ひたすら飲み食いしているとなんか知らんが、人が集まってきた。
「お前があのトリフェイスライオンを倒した剣士か!」
タキシードを着た若造が俺に話し掛けてくる。他に女もかなりいるな。皆、シルビアには及ばないが、なかなかの美人ぞろいだ。
「あ、まぁな。大したことなかったぞ。」
ああ、本当に大したことなかったな。見掛け倒しだったな。
「おお! 50人の兵士を全滅させたやつを! 話を聞かせて欲しい!」
周りのやつらの目が輝いている。おお、なんか人気者だな。
「それじゃ聞かせてやろう。やつの潜んでいた所はキメラライオンが無数に生息する洞窟だった。」
お、聞いてる聞いてる。
「俺は無数に襲いくるキメラライオンを全て一撃で切り伏せ、洞窟の奥へと進んでいった。」
グラスに残っていた酒をくいっと飲み干す。空になったグラスへすぐに酒が注がれる。
「キメラライオンを何十匹と倒し、やっとのことでトリフェイスライオンを見つけたんだ。あの巨体は小さな家ほどもあり、禍々しい頭が3つ、こちらを睨んでいた。」
んでもってヴェルニスのステーキを頬張る。う〜ん、美味。この肉汁がじゅわ〜っと染み出て口に広がる感じが美味い。
「そこで俺は勇猛果敢に正面から突っ込んで行った!」
おおっと歓声が上がる。
「やつの繰出してきた巨大な爪の攻撃を交わし、逆にこっちがやつの前足を切り落としてやった。」
レタスみたいな葉っぱをむしゃむしゃとな。
「前足を失ってバランスを崩した所を一気に詰め寄り、あの巨体を駆け上ってやつの首へ剣を振り下ろした。」
再びパクッとヴェルニスのステーキを頬張る。
「俺の一撃で見事にやつの3つある頭の内1つが飛んだ。そこへさらに背中へ剣を突き立て、一気に引き裂き、やつを地獄へ落としてやったとさ。」
おおっと拍手がぱらぱらと鳴らされる。
「疲れた。」
パーティーが終わり、用意された部屋に帰ってきた。
「ノド痛い・・・。」
2人とも入口側のベッドにうつぶせになる。
「全く、あの金持ち供は。金を出せばなんでもできると思ってやがんの。」
まぁな。
「俺は何百回と同じ話をさせられてノドが痛い・・。」
なんか声が変わっているな。
「私、寝るから退いて。」
シルビアにわき腹を蹴られる。軽く小突く感じだったのでさほど痛くはないが、ベッドから押し出されてしまった。
「退けって、こっちが俺のベッドじゃないか。」
俺の荷物とか、剣を磨くためにもらったタオルとか投げてある。
「あっちのベッドで寝て。動くのヤダ。」
と言ってシルビアがドレスのまま布団にくるまってしまう。
しょうがないな。すでに寝息を立てている女を起こしてわざわざベッドを移らせるのも面倒だから俺が移動する。シルビアが使う予定のベッドだが、使っていないので残り香はないな。
寝よ。タキシードでなんか寝れないので一応、脱いでな。
ベッドに入ってしばらく経った頃、昨日みたいに何かもそもそと俺のベッドに入ってきた。
「・・・。」
案の定シルビアであった。文句を言おうと思ったが、俺の横に収まると寝息を立てて眠ってしまう。
全く、しょうがないなぁ。