翌朝、報酬200万キュートをもらった。札束が2つだ。1キュートが1円と同じくらいの価値があるのならば物凄い大金だ。
まぁ、50人の兵士を全滅させるようなモンスターを倒したわけだから200万くらいはもらって当然か。そう考えると、少ないくらいだな。
金の管理はシルビアに任せる。てか、奪われた。
依頼人にしばらく傭兵として雇われないか? と言う誘いがあったが、シルビアがきっぱり断わってしまった。昨日も散々誘われたらしい。俺の所には来なかったな。モンスターに初太刀を入れたのも、とどめを刺したのも俺だと言うのに。シルビアみたいな美女がいいのか!
「それではルネサン様。失礼いたします。」
この派手な衣装の野郎はルネサンって言うのか。仕事が終わって帰る時になって初めて知るのであった。
「それじゃ、張り切って買い物に行くわよ! 荷物持ちは任せるわ!!」
しょうがないな。早速、旅に必要な物資を調達しよう。
「まずは、あそこね! ほら! 行くよ!」
シルビアが走っていく。こんな人ごみの中でもなかなか目立つやつだな。はぐれなくていいな。
「何これ?」
なんか高そうなガラス瓶だが、なんなんだ? これが噂のポーションとかエリクサーとかって言うやつか?
「ポーション、マジックポーション、エリクサー、アンチドーテ、コンディションクリーンなどなど。魔物退治には必需品だから覚えておきなさいよ!」
なるほど、これが噂の瞬時に傷を直してしまう恐ろしい薬か。1つ1万キュートとかばかりで1通り買ったら30万ほどになってしまった。
「私の回復魔法は対象に触れていないと効果は出ないから、私がいない時の為にお前が使うのよ。種類と効果は教えてやるから、しっかり覚えろ!」
はい。
「あ、防具が欲しいな。一応、俺って剣士なわけだから、ああいう鎧みたいに身を守る物が欲しいぞ。」
お店の中には俺たちの様にポーション類を買いに来た連中がたくさんいる。大抵は戦士やシーフとかって言う肉弾戦専門のやつらなのか、フルアーマーとかプロテクターとかを着けている。
「それもそうね。いくらあんたが身軽で攻撃を避けるのが得意だからっていつかは避けられない攻撃とか出てくるわよね。まぁ、お金が余ったら買ってあげるわ。」
200万もあるのに余ったらかよ!
「次は携帯食ね。長旅には必需品よね。」
まさか徒歩か?
「あとは交通手段の確保ね。リューダかクープが手に入ればいいんだけど、200万ぽっちじゃ無理ね。一応、見に行ってみるけど。」
リューダは空飛ぶでかい人を乗せる鳥だな。クープはまだ見たことがないが、陸移動用の動物らしい。
「さ、行くわよ。」
シルビアがさっさと行ってしまう。しばらくああいうファンタジーの世界まっしぐらな装備はできないのか。てか、俺としては戦士より魔法使いの方が好みだったんだがなぁ。まぁ、シルビアが魔法使いやるって言うから、しょうがなくナイト様をやらねばならんか。その前に俺って勇者様なんだよな。
「カズヤ様ぁー。塩味とコンソメ味、どっちがいい?」
買い物はシルビアに任せるさ。こっちの世界のことは全く知らないからな。
「塩。」
そう言えば久しくスナック菓子なんて食ってないな。
「塩ねぇ。ま、私も塩が好きだから塩でいいや。後は水筒。あ、カズヤ様はあの透明の瓶があるからいいわよね。」
あのオレンジジュースの入っていたペットボトルのことか?
おい。
塩味の携帯食(乾パンの様なやつだな)、水筒、毛布×2、レインコート等を買い揃えて5万ほどになった。
全て俺の持って来たリュックに詰め込まれる。
「よし! 入ったわ!」
「おい、そんなに無理して詰め込まなくても良いだろうが。と言うか、なぜに俺が全部の荷物を持たねばならんのだ?」
シルビアは財布の入っているらしい小さなバックしか手荷物がない。しかし、俺の荷物は登山に持っていくバックパックかと見間違えてしまうくらい膨らんだリュックだ。この中に2枚の毛布、雨具、常備薬、ナベ、食器、その他多数の物が詰まっている。
「何? このか弱い私に荷物を持たせる気?」
「か弱いか?」
ドス!!
シルビアのボディーブローがモロに入る。
「ああ? 私ほどか弱くてはかない美少女がいるか?」
たくさんいると思うぞ。
「もう許さん! 過重荷物プレス!!」
シルビアが詰め込んだリュックをシルビアに抱かせる。
「きゃあ!!」
シルビアが荷物の重さに耐え切れず、下敷きになってしまう。
「重い! カズヤ様! 退かして!! 退かせ!!」
シルビアが身動き取れずにじたばたしている。もう少しこのままにしておこうか。
「邪悪なる我が敵よ! 我が前より退け!!」
シルビアが突然、呪文を詠唱する。んな所で魔法なんて使うな!!
シルビアの放った衝撃波が荷物を吹き飛ばす。ついでに俺も。
「これでこの過重荷物の重さが分かったか! わははは!!」
ちゅどーんっと道の反対側にある店へ突っ込んでしまう。シルビアの周りにいたやつらもシルビアの魔法で吹き飛ばされて色々な所に突っ込んでいる。
「あの馬鹿が!」
俺の突っ込んだ店先はぼろぼろに破壊されてしまった。
「アホ! これどうすんだよ!」
店の人の目が怖い。
「時の流れよ! 我が呼び声に振り返り、逆流せよ!!」
シルビアの魔法で破壊された物がたちまち元の姿を取り戻していく。
「皆さん、大変ご迷惑をおかけしました。さ、カズヤ様。行きますよ。」
そくささっと俺たちはその場から立ち去った。その後、そこはいつも通りの姿を取り戻していた。
「しばらくその荷物を持って歩け! 体力づくりにもなるわ。」
結局、荷物はそのままだ。大地を踏みしめている感触が普段より強い。
「次はリューダね。それでお金が余ったらあんたの防具を買ってあげるわ。」
残り165万でいくら余るのか。リューダが大して高くないことを期待する。
「2人乗りの小さい物でしたらこちらですね。280万です。」
ぶ!! 新車並! しかも、他のリューダについている値札を見たら300万とか400万とか。俺たちが使っていた5人乗りの標準サイズのリューダなんて1000万もするし!
「ミスティアナまでの片道だけでしたらおいくらになるのかしら?」
リューダの購入は諦めたようだ。生き物だからな。餌代が結構かかりそうだ。165万しかないのに全然足りねぇ。
「ミスティアナですか。エスメラ、パメラダ、モジェスタと経由して120万くらいになりますね。」
なぬぅーーー! 交通費だけで120万かよ!
「ああ、しばらく考えさせてください。」
と、シルビアが言ってリューダ、クープ販売店を出る。
「・・・、今日は宿に泊まって交通手段を調べるわ。全く、あんたみたいに貧乏勇者様を世話する羽目になるなんてついてないのかしら。ああ、ついてねぇー。今までの歴代勇者は自分のリューダを持っていて、こんな交通費を工面するなんてことなかったのに! ああ、ついてねぇーのー。」
悪かったな。金がなくて。
「次はあんたの防具ね。その代わり安物よ。」
おお!
と、いうことで、防具屋に来た。店の中には鎧や盾、兜などなど、色んな防具が飾られている。
「値段とあんたの機動性を考慮に入れてこれがいいんじゃない?」
まぁ、すっきりとコンパクトなプロテクターだな。価格は57800キュート。高いのか安いのか。
「試着できるのかしら?」
OKらしい。一応、シルビアに手伝ってもらって着けてみる。結構重たいな。剣が軽いから問題ないか。一応、鉄製の様な気がするが、なんか違うな。
「これの素材って何?」
叩くと鈍い金属音がするんだ。鉄ならもっといい音がするはずだ。
「マルティア鋼。今、流行の丈夫で長持ちするって言うやつよ。酸を受けても溶けないんだって。」
それはそれは。
他の防具を見ると安いので20万、高いのは1億とか並んでいる。てか、この57800キュートって一番安いじゃん!!
「滅多に当たんないんだからこれでいいでしょ? ちゃんと心臓とかの急所はカバーしているし。」
まぁ、これ以上重くなってもしょうがないしな。
つーことで、マルティア鋼のプロテクターお買い上げです。