現在、宿に入ってボーっとしている。シルビアはなんか瞑想中。体を淡く青い光が包んでいて近寄りがたい。何をしているんだ?
かれこれ瞑想をはじめて1時間になる。ああ、パソコンいじりてぇなぁ。向こうにいた時は毎日ネットして遊んでいたのになぁ。
剣でも磨くか。昨日は帰ってからそのままだったからな。血のりがこびりついてしまっているんじゃないか?
う〜ん。なかなか綺麗になった。色々雑貨を買い揃えた時、一緒に剣を磨く道具も買った。全部で300キュートくらいだったな。
鞘の方もちょっといじるとぱかっと2つに割れてな、中もちゃんと掃除できるのだ。剣を綺麗にしても、それを収める鞘が汚れていてはせっかく綺麗にした剣が台無しになってしまう。
と、言うことで、鞘も綺麗にする。
暇だし。
剣の手入れも終わり、あまりにも暇なので持ってきたノートに日記なんて書いてみた。向こうに帰ったらこの日記をWeb公開してやろう。サイトを作りたかったけど、公開する内容がなくて困っていた所だったんだ。
いい体験ができてラッキーだぜ。
いい体験と言うか、俺が帰る日はくるのか? まぁ、シルビアによると帰る方法があるらしいが、俺が帰る気になるかどうか。こっちにいればシルビアって言う可愛い従者もいるし、ファンタジーの世界みたいに剣や魔法、魔物とかって言うのがたくさんあるし。
まぁ、とりあえず、思い出を記録だ。
「えっと、今日って何日だ?多分、10月の4日だな。昨日、月曜だったから火曜日だ。ケータイでチェック! おし、間違いないな。あ、バッテリーのメーターが1つになってる。充電するやつ持ってきてないから、しばらくしたら死亡だな。まぁ、いい。どっちにしろ圏外だ。持っていても時計にしか使わん。」
ケータイをバックに片付けて執筆開始。
「昨日は平和な一日ではなかった。大学からの帰宅途中、異世界へ迷い込み、いきなりモンスターに襲われた。とりあえず、落ちていた剣で一刀両断にして助かった。えー、モンスターの持っていた青いひし形の石をその先で見つけた女の石像にはめ込むと、口の悪いねぇちゃんに変わった。シルビアって言うらしい。口は悪いが勇者の従者らしい。その勇者って言うのが、モンスターを倒す時に使った剣を持っている俺様のことだ。えっと、その後、謎の宗教団体の寺院で一夜を明かし、新たなる土地へ旅立つのであった。えっと、日付変わって、その日は酒場へ仕事をもらって、モンスター退治をした。が、が、名前忘れた。兵士のおっちゃんと共にモンスターの巣に乗り込み、頭の3つあるトリフェイスライオンなるでかいモンスターをぶっ殺した。その夜は仕事の依頼主の館でパーティーが催され、声がかれるほど演説させられるのであった。んなもんか。」
暇なのでわざと声に出してみた。なんかシルビアの集中力が切れたようで、体を包んでいた青い光が薄くなっている。
「うっさい! なに、あほなことほざいとんじゃ! あのオヤジはガストロだ! 書き加えておけ! ついでに私の名前の所を“美しいシルビア様”にしておいてよ!」
おい。
「追記。兵士のおっちゃんの名前はガストロっていうらしい。さらにシルビアは自分のことを平気で美しいシルビア様と言う。ゲホォ!!」
いきなりシルビアが背中に蹴りを落としてきた。息ができん。
「このシルビア様が交通手段を調べている間に何、遊んでんのよ。これから仕事を取りに行くわよ。ついてらっしゃい。」
と言って、シルビアがさっさと部屋から出て行ってしまう。
「ここは昨日の酒場とは違うな。“旅立ちの巣”なんて常連客のできそうにない店の名前だな。」
シルビアが先に入っていってしまう。
「フェスレドまで行きたいの。誰か私たちを護衛に雇ってくださらないかしら?」
護衛っすか。護衛としてなら一応、仕事だから金がもらえる。1円も交通費がかからないし、報酬がもらえるという。
「ねぇちゃん。そんな細腕で護衛なんてできんのか?」
がはははは、と下品な笑いがあがる。シルビアはどっからどう見ても、護衛なんて物騒な仕事をするような顔に見えないよな。逆に護衛してもらわねばならないお姫様って感じだ。まぁ、黙っていればね。
「私たちの実力が見たいのかしら?」
シルビアが殺人級の笑顔を茶化してきた野郎に向ける。
「はっはっは! 見せてもらおうか!!」
ガバッと抱きつこうと突っ込んでくるやつ。
「ぐはあ!!」
それをシルビアがあっさり避ける。野郎は頭から床に突っ込んでしまう。アホだ。
「あ、危ない。」
と、全然危なくないような警告だったが、一応、警告した。シルビアへ1本のナイフが飛んできた。軌道からして肩の辺りに刺さるか。
・・・・。
この世界のナイフはこんなにゆっくり飛んでくるのか?物凄いスローモーションで飛んでいる。よくこのスピードで床に落ちずに、まっすぐ飛んでいるな。
とりあえず、ペシッと取ってやる。刃なんて掴んだら痛いから、柄の部分だな。
「・・・・。」
なんか知らないけど、酒場の中が静まり返っている。
「どうしたんだ?」
「ふん、俺のナイフを空中で受け止める奴がいるとはな。」
ナイフの飛んできた方向から男の声がする。
日に焼けた体格のいいおっさんがテーブルでナイフをいじっている。しかも、それを再び投げてくるし。
「・・・・。危ないって。」
今度はピスッと取ってやる。人差し指と中指で挟む感じな。ピースだからピスね。今度はおおって歓声がわくし。
「にぃちゃん。その細腕でなかなかやるな。」
あ、笑ってる笑ってる。
「それで、フェスレドに行く方。誰かいらっしゃらないかしら?」
またシルビアが殺人級の笑顔でそんなこと言っている。
「分かった。俺たちがお前たちを雇わせてもらうぜ。」
と、ナイフを投げてきた無礼なおっさん。
「あら、ありがとうございます。」
「仕事の話をするからこっちに来てもらおう。」
このナイフのおっさんはフェスレドへ物資を運ぶ途中の一団のリーダーであった。
この町にくる途中、盗賊に護衛がやられてしまい、新たな護衛が見つかるまでこの町に立ち往生していたところだそうだ。
名前はキールと言う。他の仲間も人相が悪いのう。
町から町へ物資を運ぶ途中でモンスターや盗賊に襲われるなんて物騒な仕事をしていると人相が悪くなってしまうのか。
まぁ、悪い人たちではなさそうだ。
「それじゃ、出発は明日の朝だ。朝7時に北門だ。遅れるなよ。」
「はい。では、失礼します。」
こうしておしとやかにしていればかわいいのになぁ。
「ああ、疲れた。敬語使ってかわい子ぶっていると肩こるぜ。宿に帰ったら肩揉め。私のおかげで仕事にありつけたのだからな。」
酒場から出てきてすぐかよ。肩だけじゃなく、腰やお尻、胸まで揉んでやるぜ!
しかし、ガードが固かった。