「ねびー。」
本日は6時起きだ。
「ほら! きびきび歩く!」
へいへい。そう言えばきびきびってどういう意味だよ。多分、しっかり動け、と言う意味だと思うが。
今、街の北門に向かっている。昨日、出会った人相の悪い荷物運びのおっさん供と待ち合わせをしているのだ。おっさんの護衛なんて願い下げだが、仕事だからしょうがないな。
「来たな。もうすぐ出発の準備ができるからしばらく待ってろ。」
とりあえず、キールのおっちゃんにあいさつしに行く。
「ぼろぼろの荷馬車だな。」
荷物の詰め込まれている荷台はかなり板で補強してあり、ぼろぼろだ。まぁ、しっかり打ち付けてあるから崩れることはないと思うが。
「あれは賊に襲われた時にやられたんだ。どうもよくわからんが、今回の旅は賊の襲撃が多くてな。荷物を運んだら追加料金を請求しなければ元が取れんぞ。」
そう言えば前任の護衛さんがその襲撃にやられてしまって新しい護衛が見つかるまでここの街で足止めを喰らっていたんだったな。
「それじゃ、フェスレドまでしっかり護衛を頼むぞ。荷物を守りきれなければ1キュートも払わんからな。」
へいへい。
ジャスト7時。荷物運びの一団はフェスレドへ向けて出発した。
フェスレドへはここから街を2つばかり経由していくらしい。大体、順調に進めば、7日ばかりの道らしい。
「あれって、何が入ってんだ?」
荷物の大半は日用雑貨や家具、調度品など。大して高価な物は運んでいない。まぁ、数が凄いからそれをごっそり取られると凄い額になりそうだが。その中に鉄の箱でしっかり守られた物が1つある。
「宝石か、お金か、そんな所じゃない?おっきい箱よね。あのくらいの箱なら、箱だけで私たちの全財産と同額くらいよ。」
現在の所持金、160万弱。そんなにするのかよ!
「中身も含めると、うん億って単位じゃない?」
う〜ん。
旅は荷車だ。荷台を引いている動物が馬ではないから馬車と言うのはおかしいし、牛でもないから牛車とも違う。俺の住んでいた世界には存在しない動物だ。一見、馬かと思ったがどっしりした体格に足が6本生えていた。ゴスラと言って、主にこういう荷車を引くのに使う家畜らしい。ゴスラ車?
一団の運んでいる荷台は3つ。一団の人数は俺ら2人を含めて12人。人相の悪いおっさんばかりだ。
「よお、ねぇちゃん。昨日は市場で派手に暴れていたな。しっかし、壊したのをあっという間に直した術はなかなか凄かったぜ。魔法使いは皆、あんなことができるんか?」
そう言えば直していたな。
「さぁ? あまり見かけませんね。でも、壊れてすぐの物にしか効果はありませんよ。」
「3日くらい経ったのはダメか。」
「ダメですね。」
ん? あのぼろぼろの荷台を直そうと言うのか?
「仕方がないな。フェスレドについたらその報酬でこの荷台は買い替えだな。」
まぁ、ぼろぼろだからな。こうして乗っかっているのも怖いくらいだ。
「矢とか銃には気をつけろよ。前の護衛はそれでくたばったからな。」
剣と魔法の世界にもそう言うのはあるのか。銃は欲しいな。そんなのを持っている賊がいたら奪うか。
街を出発して1日目の旅は何事もなく平和に終わった。
しかし、2日目の昼過ぎ、賊は来た。
「のおおおおお!!」
奇襲の始めは矢の雨だった。崖の上から無数の矢が降り注いでくる。
「風の精霊よ! 我に向かう矢を弾き返せ!」
雨のごとく降り注いだ矢はシルビアの魔法で弾かれ、辺りに散らばった。一団に被害はないようだ。しかし、すぐに第2射が放たれた。
「復讐の精霊よ! 敵の命と引き換えにかの矢を放った射手へ返せ!」
おい。敵の命と引き換えに敵を攻撃するってどんな契約だよ。シルビアの魔法で俺たちに降り注ごうとしていた無数の矢が反転して返っていく。
その後、悲鳴がして第3射はこなかった。
「ふ、この私に逆らおうなんざ怖い物知らずもいい所だ。」
さすがだなぁ。
「追撃だ! 行くぞ!!」
そこへ、キールのおっさんの声がする。一団の半分、6人が崖を上っていく。
「カズヤ様。あの上に飛ばしてやるから、この女神シルビア様に矢を撃ち込んだ痴れ者にとどめを刺して来い。」
いつから女神になったんだ? 俺が了承する前にシルビアが、俺に魔法をかけて崖の上に吹き飛ばす。
「うひょおぉぉーーーーー!!!」
崖の上は矢に撃ち抜かれた野郎供が累々としていた。止めを刺さなくても大半は致命傷じゃん。
「って、生き残りは向こうか。」
砂煙を上げて走り去っていく一団が見える。
「これだけ大量の死体を見るのって初めてだな。死体を見るのなんてばあさんの葬式以来だ。」
そこへ突然、矢が飛んできた。油断していたが、飛んでくるスピードが遅い。昨日のキールが投げたナイフくらいのスピードか。この世界の矢はこんなにゆっくり飛ぶのか?
って、そろそろそれがおかしいことに気付くって。
俺に向かってきた矢を手の甲で弾き落とし、矢を放ったやつを確認。そいつはすぐに見つかった。
太腿に矢を刺してその場から動けないようだ。俺に矢を弾かれたことに驚愕して矢を放った時の姿のまま固まっている。
「仲間においていかれたか。」
よく見ると若そうだな。なかなか綺麗な顔立ちをしている。胸があるな。女らしい。
「く、来るな!!」
俺に矢を放った賊が恐怖に引きつった顔を俺に向けて必死に逃げ出そうとじたばたしている。
「まぁ、いくらなんでも人を斬るわけにはいかんよな。」
相手のみぞおちに蹴りを叩き込んで悶絶させ、失神させる。
「しばらく寝てろ。」
そこへ崖をあがってきたキールたちが現れた。さすがにあの切り立った絶壁を登ってくるのには時間がかかったな。
「おお! 全部、お前がやったのか!」
地面に伏した賊たちを見てキールが驚いている。
「いや。全部、シルビアの返した矢に撃ち抜かれたやつらだ。その生き残りはとっくに逃げていった後だ。」
すでにその姿を確認することはできない。
「逃げられた後か! やつらは完璧に叩きのめしておかないとすぐに帰ってくるからな。まぁ、仕方がない。こいつらの身包みを剥いで埋めるぞ。手伝え。」
身包み剥ぐんかい。まぁ、埋めてやるだけまだましか。
崖を上って来た内3人が穴を掘り、キールを含む残りの3人が矢に討たれて息絶えた賊の身包みを剥いでいく。
「まぁ、こいつは手当てして奴隷にでもするか。」
さっき俺に矢を放ってきたやつを背負って、その場から離れる。
「何、賊なんて拾ってきてんのよ! 私はとどめを刺して来いって言ったのよ!」
とどめって俺、そういう趣味じゃないし。
「いいじゃねぇか。女、子どもには親切にしろってどっかの人が言っていたんだから。」
とりあえず、足に刺さった矢を引き抜く。それに女が激痛の悲鳴を上げて目を覚ましてしまう。
「いきなり抜くのは痛いよ。」
真っ赤な鮮血が地面を染める。
「がーん! シルビア! ヒーリング!」
シルビアが呪文をつぶやき、血の流れ出す太腿へ触れる。真っ赤な鮮血の噴出していた太腿からすぐに穴が消える。
「これで大丈夫よ。」
傷の消えた女は気を失っていた。しょうがないな。荷物と一緒に積み込んでおくか。
日も暮れかかった頃、賊の埋葬を終えたキールたちが帰ってくる。その背には賊から巻き上げた物がたくさん背負われている。
「それ何?」
とりあえず、聞いてみた。
「ちょっとは赤字の足しになるだろう。この赤字もあいつらみたいな盗賊や魔物のせいだからな。」
どさどさっと荷物を積み込み、一行は出発する。