「・・・。」
毛布に包まり、寝ている所へもそもそと俺の毛布に入ってくる気配。
「・・・。」
そして静かな寝息。シルビアか。
そう言えば毎日だよな。寝る時は別々に寝るのに途中でシルビアが俺の布団の中にやってくるというのは。
まぁ、セックスするわけでもなく、普通に寝息を立てて寝ているだけだ。寝顔がかわいいから起こすのもあれだし。
「まぁ、いいか。」
何はともあれかわいい女の子の添い寝だからな。なかなか嬉しい。
次の日。シルビアに叩き起こされて朝食後、出発した。
始めは順調であったが、昼前にモンスターが出現した。
「行け! カズヤ様!」
シルビアが俺たちに向かって突っ込んでくるモンスターを指差して言う。相変わらずだな。
「はいはい。」
鞘から剣を抜き、モンスターへ向かって走り出す。
モンスターの特徴は、ぶっちゃけでかいトカゲだな。草のない荒野だから色は乾いた土の色だな。
数は4体。動きはそんなに速くない。
「ファンタジーの世界なんだから剣士にも必殺技とか言って派手なかっこいいやつが欲しいよな。」
とか思いつつここ最近、剣を手に入れて振り始めた若造が必殺技もないよな。
走って突っ込んでくる俺にトカゲの1匹が跳ねて飛び込んでくる。それをぐっと一歩踏み込んで口から切り裂いて返り討ちにする。
さらに2匹同時に飛び込んでくる。それと同時にもう1匹が足に噛み付こうとしていた。
横に跳んで3匹を避け、横を通り過ぎた空中の1匹を背中から叩き切る。さらに足元の1匹の頭へ剣を突き刺す。
方向転換し、俺の足に噛み付こうとした所の頭を剣で突き刺し、4匹目を倒す。
剣初心者にしてはなかなかやるな。さすが俺様だな。
昼食は午前中に倒したトカゲの丸焼きであった。
「・・・。トカゲか。爬虫類って食べたことないのよな。」
皿に盛られたその肉はトカゲと言われなければ普通の肉だな。
「・・・。私は食べたことあるけど・・・。」
不味かったのか?
シルビアがトカゲのステーキにナイフを入れ、口に運ぶ。
「まぁ、不味くはないわね。」
普通に喰ってるし。
塩加減がちょうどよく、なかなか美味であった。
荒野の向こうに夕日が見え始めた頃、盗賊が攻め込んできた。
先制で飛ばしてきた矢と銃弾をシルビアが魔法で弾き返す。しかし、シルビア1人で一団の全てを守りきれない。他の連中は荷台の陰に隠れて防いでいる。
ざっと見た所、盗賊はゆうに100を超える大群だ。面倒だな。
「護衛のにぃちゃん、ねぇちゃん! しっかり働けよ!」
夕飯係のおっさんがショットガンを持って荷車の上に上がってくる。そのショットガンを盗賊の一団に向けて引き金を引く。
先頭の1人が倒れた。
気がつくと荷物運びのおっちゃん達が全員で銃を構えて盗賊団に発砲している。それに負けじと盗賊団も矢と銃弾を放ってくる。
「とりあえず、がんばれ。」
遠距離攻撃手段のない俺はやることがない。シルビアが魔法で展開した防御シールドの後ろに隠れて応援するのみ。
「こら! あんたもサボらないで応戦しろ! その剣には遠距離攻撃の能力もあるんだからね!」
と俺をしかりつつ、次の呪文を唱えるシルビア。
「この剣にそんな能力が!」
ビームとか出るのか!
とりあえず、鞘から抜いて構えてみた。
・・・・・・。
「どうやって出すんだ?」
全く分からん。
剣を振ってみたり、天にかざしてみたり、前に向かって突いてみたりするが、全くビームとか出ない。
そんなことをしている間に盗賊団が近くまでやってきた。
「ほら! 役立たず! 出番よ!」
はい。行って来ます。
とは言うものの人間相手にするのは初めてだな。
俺に人間か切れるか?
「奪え! あの鉄の箱を奪うんだ!!」
リーダーらしい一番ごっついおっさんが叫ぶ。まぁ、あの鉄の箱が一番高価だしな。
「1人も近づけるな! 返り討ちにしろぉ!!」
こっちのリーダー、キールが叫ぶ。両手に何本もナイフを構え、得意の投げナイフで次々に盗賊を倒していく。
シルビアが盗賊団に巨大な火球を放り込む。それに何人か巻き込まれて倒れる。
「仕事だし、やらなきゃやられるか。」
俺に向かって剣を持った男が3人突っ込んできた。
「ちぃ! やっぱり切れねぇ。」
盗賊なんてやつらでも人間だ。モンスターみたいに切れない。
モンスターは本当にファンタジーの世界と言う感じがして殺していると言う実感がない。ゲームの中で何回も倒しているから、その感覚で殺せるが、人間はさすがにダメだ。
剣で横一線。俺に突っ込んできた3人の剣が根元からぶち折れる。
いやぁ、よく切れる剣だな。しかも結構でかいから威力もある。
次々に敵の武器をぶっ壊していく。至近距離で銃を撃ってくるやつもいたが、なぜかその弾丸がこの前の矢やナイフの様にゆっくり飛んできた。余裕で交わし、返り討ちにする。
盗賊たちはすぐに逃げ出した。キールたちが追撃を始める。
「カズヤ! あいつらを皆殺しにしてこい!」
シルビアが荷台の上から叫ぶ。
「やだね。」
周りには何十体もの人間が横たわっていた。血塗れの死に顔が気持ち悪い。
その死体の中から呻き声が聞こえる。声の方を見ると死体に埋もれて呻き声をあげているやつがいた。
「シルビア! 来い! まだ息があるやつがいる!」
荷台の上にいるシルビアを呼ぶ。俺の声にひょこっと顔を出してくる。
「盗賊なんてとどめを刺しなさいよ!」
やれやれ。
「てか、またお前か。」
呻き声をあげていたのは昨日の女だった。今回は脇腹を剣に切り裂かれていて出血がひどい。口から血を流し、かなり衰弱している。
「魔法使いのねぇちゃん! 助けてくれ!」
荷台の上にいるシルビアの所に仲間のおっさんが血相変えて走り寄ってきた。傷だらけでなかり血を流している。
「じっとして。すぐに傷を治すわ。」
といいながらシルビアがおっさんに手を伸ばす。
「俺は後でいい! あいつを助けてくれ!」
おっさんが向こう側を指差す。この位置からじゃ見えねぇな。くそ! こっちにはこねぇな。
「ほら、がんばれ。」
女を抱き上げ、シルビアの向かった先へ移動する。もう虫の息だな。
荷車を回って反対側に行くとシルビアが魔法で傷の手当てをしていた。シルビアの魔法でひどい傷がたちまち消えていく。
「すげぇ! さすがだ! ありがてぇ!」
シルビアを呼びに来たおっさんが涙を流しながらシルビアにお礼を言っている。
「シルビア! こいつも手当てしろ!」
シルビアが俺に気づき、向こうからも走ってきた。
「盗賊なんてとどめを刺しなさいよ。・・・。」
といいつつも魔法で傷をふさぐシルビア。あれだけ血を流していた傷がたちまち消えてなくなる。
「出血が酷くて血が足りないわ。このままじゃ凍えて死んじゃう。」
シルビアが女の頬に触れながら言う。
「輸血でもするか?」
こいつの血液型は何だ?
「ばか。輸血する機材がないのよ! あんなに女が抱きたいって言っていたんだから体温で暖めてあげれば?」
シルビアが俺を睨みながら言う。
「こんな弱った女を抱く趣味なんてねぇよ! やましい気持ちで抱くんじゃねぇからな!」
傷の手当てはしたが、血の気がなくぐったりと意識を失ったままの女を抱えて荷台に上がる。俺の荷物から毛布を取り出し、女を抱きしめながら毛布に包まる。
「冷たい。」
女を抱きしめた感触は冷たかった。昨日、シルビアに抱きついた時は柔らかくて温かかったな。
少し高い荷台の上から下を見下ろすとたくさんの人間が死んでいた。向こうに帰ってくるキールたちが見える。
荷台の横でシルビアに手当てを受けたのが4人と、向こうに見えるキールたちが3人。
・・・。
3人足りないな。