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2003.12.12 (2004.3.30修正)


第4話・フェスレドへ(5)




 「くそ! 最悪だ! 今回は何だ! これで8人だ!」
 キールが荒れている。
 あの場所から移動し、ちょっとした岩陰でキャンプを張った。
 盗賊の襲撃で3人の仲間が帰らぬ人となった。仲間を失った陰気な雰囲気に今日の夕飯はあまり美味いものではなかった。
 「あの箱に何が入っているっていうんだ! 今までに宝石や金を運んだことはあるが、今回ほど襲われたことはないぞ!」
 そう言えばあの盗賊たちはあの鉄の箱を狙っていたな。まぁ、他はたいしたことのない雑貨ばかりで盗っても金にならないが。
 「おい。ちょっと手伝え。」
 キールが近くにいた男を呼ぶ。キールたち4人が鉄の箱の積んである荷車へ向かう。
 「開けるのか。」
 普通、中身を確認してから運ばないか?
 助けた盗賊の女は俺に抱かれてまだ眠っている。相変わらず体温は冷たいが、呼吸はしっかりしている。このまま抱いていれば大丈夫だな。
 ちょっと離れた所でシルビアはブスッとした顔でこっちを睨んでいる。
 そんなに睨むなよ。

 キールたちが鉄の箱を運んできた。鎖で縛って錠前がつけられている。
 「全く。中身を確認しておくんだったぜ。」
 キールが斧を持ってくる。鍵はないのかよ。
 鉄の箱にかけられたでかい南京錠へ斧を振り下ろす。しかし、カギは外れなかった。
 「あ、刃が折れた。」
 硬い錠前だなぁ。
 「魔法使いのねぇちゃん。どうにかならないか?」
 キールがシルビアを呼ぶ。シルビアもはこの中身が気になるのか箱の所へ行く。
 「・・・。封印の魔法がかけられてますわ。力尽くではまず無理ですね。魔法を解放しますね。」
 シルビアが静かに呪文を唱え始める。俺の位置からでは聞き取りにくいがシルビアの手に青い光が灯る。それを南京錠へ押し込む。
 「!」
 箱から衝撃波が放たれた。近くにいたキールたち4人とシルビアが5m程吹き飛ばされる。
 「つぅ・・・。どんな強力な封印がしてあったのかしら。」
 ジャラジャラっと言う音を立てて鉄の箱から鎖が外れ、ふたについていたでかい南京錠も外れて地面に落ちる。
 「開いたみたいだな。」
 さて、何が入っているのかなぁ? キールともう1人で鉄のふたを持ち上げる。
 「・・・剣か。」
 箱の中を覗き込んだキールが言う。剣ですか。
 「セケルステインですわ!」
 箱の中を覗き込んだシルビアが酷く驚く。驚いた態度をとりながらも口調は猫かぶりモードだ。さすがだな。
 「セケルステイン!? あの聖剣か!」
 一同にざわめきが起こる。
 俺の剣もセケルステインなんだよな。まぁ、4本あるって言うし。
 「狙われてもおかしくありませんわ。世界に4本しかない聖剣セケルステインの内の1本ですもの。」
 シルビアが箱の中から1本の剣を持ち上げる。ぐるぐるに変な模様の紙が巻かれている。
 「これが聖剣か。なかなか神々しいな。」
 そうか?
 俺にはぼろぼろの古びた剣にしか見えないが。
 「俺にも持たせてくれ。」
 シルビアがキールに剣を手渡す。
 ・・・普通に振り回しているな。
 ちょっとシルビアを手招きして呼ぶ。それに気づいたシルビアが俺の所にやってくる。
 「何よ?」
 なんか声が冷たいなぁ。
 「おい。俺の記憶が確かならば、セケルステインって選ばれた勇者しか持ち上げられないんじゃなかったか?」
 今までに俺の剣を持ち上げられたやつを見たことないからな。
 「あれは力を封印されているから誰でも持ち上げられるのよ。」
 なるほど。

 一同の手をぐるっと回って箱の中に返される。
 「今日の盗賊団はつぶしたが、すぐに他のやつらも襲ってくるな。明日は急ぐぞ。」
 今日は早めの就寝となった。


 「・・・・。」
 今日の夜もシルビアがやってきた。前には盗賊の女がいて、後ろがシルビアでなかなかムフフな状態だが、2人とも思い切り寝息を立てているし。
 もう毎日これで悶々としているんだが、どうしたものよ。
 この盗賊の女が意識を取り戻したら抱くか?
 それともシルビアの口をふさいで魔法の呪文を唱えられなくしておいて襲うか?
 今晩はこの盗賊から手が離せないので我慢するか。




 朝6時。出発。朝食は移動しながらだ。
 今日の夕方には町に着くらしい。予定としては1日遅れているとのこと。まぁ、3回もモンスターや盗賊に襲われたからな。
 盗賊の襲撃を警戒していたが、今日は何事もなく町に到着した。

 「よし、今日は宿に入るぞ。それから武器と仲間の補充だ。」
 キールがそう宣言してとりあえず目に付いた宿屋に入る。
 『マリベラの宿』。ここの経営者がマリベラって言うのか?
 1階は酒場か。ファンタジーに出てくる典型的なやつだな。2階が宿になっていると言う。
 とりあえず、腹も減ったし、他のメンバーに続いてテーブルを囲む。
 「いらっしゃい。なんにする?」
 ちょっと太目の人の良さそうなおばさんが注文を取りに来る。相変わらずファンタジーのあれに出てきそうなキャラだな。
 「ああ。一晩、宿をとりたいんだ。部屋は空いているか?」
 俺らは3人で一部屋使いたいな。
 「ああ、どうぞどうぞ。空いてますよ。大部屋を一部屋でいいかしら?」
 まぁ、野郎だけならそれでもいいのだがな。
 「ちょっと女がいるからもう一部屋。」
 手を挙げながら言ってみる。
 「あいよ。2人部屋でいいね。」
 まぁ、女の数は2人だけど。いつもシルビアは俺に添い寝だからな。1つ足りなくてもいいか。
 「んじゃ、それで。」
 そういうことで、今日の宿を確保し、夕食となった。
 昨日の陰気な事件を忘れるかのごとく皆、酒をあおる。


 「うぅ・・・ん・・・。」
 俺は酒もそこそこに盗賊の女を前に抱いて食事をしていた。う〜ん、ヴェルニスのステーキはなかなか美味だのぅ。そこで盗賊の女が意識を取り戻したようだ。
 「・・・ステーキ。」
 寝ぼけているな。
 一口サイズにナイフで切ってフォークで盗賊の女の口に運ぶ。女がそれを口に含み、もぐもぐとゆっくり噛み始める。
 「・・・・・・ん?」
 女の寝ぼけていた頭が次第に覚めてきた様だ。
 「んん?」
 女がきょろきょろと首を回して周りを確かめている。
 「んん!」
 口に含んでいた肉をごっくんと飲み込む。
 「この前の! ここはチティスのマリベラの宿?!」
 来た事があるのか? ちなみにこの町はチティスというらしい。町の入り口に「チティス」って書いてあるのを見かけた。
 「あ、あたし、おなかを剣で切られて・・・。」
 女が腹の傷があった場所を触って確かめている。シルビアの治療ですでに痕も残っていない。
 「また、治してくれたんだ・・・。」
 そういいながら俺に背を向ける。
 「おなかすいた。」
 あ。
 「俺の酒! ステーキ!」
 俺に止める隙を与えずに俺の前にあった俺の夕食が全て片付けられてしまう。しかも手づかみで。
 「もうちょっと食べたい。」
 頬にステーキのソースをつけ、目をウルウルさせて俺のを方を向く。少し酒が入ったせいか、真っ青だった顔に少し赤みが入る。
 「まぁ、いいか。おばちゃ〜ん! ステーキ定食2人前追加ね!」
 おっさんたちに酒の入ったグラスを運ぶおばちゃんが明るい声で返事をする。
 「後、ぶどう酒もちょうだい! ボトルで! グラスもう1個!」
 盗賊の女が手を挙げて言う。
 おい。
 ところでシルビアはどこに行ったんだ? 盗賊の女に席を譲って立ち上がる。そこで店内を見渡してみる。
 「あ。」
 シルビアは1人寂しく端っこにいた。
 ワイングラスを片手に暗闇の包む外を窓から眺めている。時々、酔っ払いがシルビアに声をかけるが無視。肩に手が置かれると冷たく払って無視。
 「何やってんだ?」
 俺に構ってもらえなくてすねてんのか?

 「おい、こんな所で何、してんだ?」
 ぽんっとシルビアの肩に手を置いてみる。しかし、冷たくぺしっと払われて無視されてしまう。
 「なんだ? 外にマッチョマンがヌードでも披露しているのか?」
 それにシルビアが反応し、俺の左足を思い切り踏みつけてくる。しかも尖ったヒールが!
 「ぎゃあああ!」
 靴に穴が開いただろ?! うお? ・・・おお、開いてねぇな。
 ふと、俺の姿を笑顔で眺めるシルビアが目に入る。
 「貴様! 人の痛がる所を見て笑うな!」
 シルビアが笑っている。機嫌は直ったようだな。
 「カズヤ様。食べられてるよ。」
 と、シルビアが指差す先で・・・。
 「うお?!」
 盗賊の女がステーキ定食の2食目、俺の分を食べていた!
 「貴様! 俺のステーキを食うな!」
 急いで行ったが、盗賊の女の所にきた時にはすでに片付いていた。


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