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2003.12.22 (2004.3.30修正)


第4話・フェスレドへ(6)




 「ニーナです。」
 盗賊の女が言う。夕食後、風呂に入って部屋に落ち着いている。
 「ニーナか。」
 とりあえず、名前を聞いてみたんだわ。
 「改めて私達も名前を名乗りますね。彼がカズヤ様で、私がシルビアです。」
 隣にいるシルビアが笑顔で言う。この笑顔は猫かぶりモードだな。
 「で?」
 そう言えば、こいつってどうしよう? マジで奴隷にしてシモの世話をさせるか?
 「貴女、盗賊なんて野蛮なことはやめてまっとうな仕事に就きなさい。貴女くらい若ければいくらでも見つかるわ。」
 例えば娼婦とか、売春婦とか、とかとかって俺もたまってんなぁ。
 「無理だよ。生まれた時からずっと盗賊だったんだよ? いまさら何ができるって言うの?」
 やはり娼婦とか? てか、それはもういいな。
 「とりあえず、酒場のウェイトレスとか、お屋敷や商店の下働きとか、というのはどうでしょう? これといった特技はいりませんし、一生懸命にやればすぐに打ち解けることができると思いますよ。」
 なるほど。こいつのメイド服か。なかなか似合いそうだな。
 ちなみに身体的特徴をあげてみよう。上から行くとまず、手入れがされていないのか艶のないミカン色の髪が首の辺りで束ねられており、背中の中ほどまで髪が伸びている。輪郭はいいものを食べてないのか頬とあごの辺りがスッキリとした細型で、さっき酒とステーキを腹に入れたからか少し赤みを帯びた白い肌をしている。手入れはされていないようだが、意外と綺麗な肌だな。目は垂れ目だ。笑ったらかわいいだろう。んでもって、細い首があって、なかなかでかい胸があって、きゅっと引き絞られた腰があって、走り回って鍛え上げられ、引き締まった小ぶりの尻と太腿があって、と言った感じだ。
 ちゃんと髪の手入れをして、唇にちょっと紅でも入れればかなりいけるぞ。
 「下働きって掃除したり、料理したり、雇い主の夜伽したり?」
 夜伽って、まぁ、かわいいメイドちゃんにしてもらいたいが。
 「夜伽はちょっと知りませんが、始めの内は掃除や皿洗い、洗濯と言った雑用でしょう。」
 シルビアがにこっとな。その笑顔はそういう雑用をやったことのないお嬢様みたいな顔だぞ。
 「今、やっていることと変わんないよ。夜伽がないって言うのなら楽かもしれないけど。」
 オイ。
 「まじめそうな方をご紹介しましょう。」
 お前、どこかに知り合いいるのか?
 「え! ホント? でも、あいつらから逃げると何をされるか分からないし・・・。」
 ニーナが腕を組んで考え込んでいる。
 「あいつらって誰だ? お前と一緒に俺たちを襲った連中は全滅したらしいぞ。」
 ニーナが俺の言葉に顔色を変える。
 「あ! そう言えば、100人ちょっとの人数でたった10人くらいの荷物運びの一団を襲ったのに、何であなたたちが生きてんの?!」
 ああ、そう言えばな。何であの大群に襲われて、たった3人の犠牲で済んだんだろう?
 「皆さん、かなりの使い手らしいですよ。」
 そうなのか?
 「大半はお前の魔法でぶっ飛ばしたんじゃねぇのか? キールのナイフでさすがに100人も相手にできないだろ? 銃とか持っているやつもいたし。」
 俺みたいに銃弾を避けるなんて芸当はできないと思うぞ。
 「いつも夕食を用意してくださるあの人は、素手で銃弾を受け止めていましたよ。」
 マジか?!
 「カズヤ様だって一度に4、5人を相手に押していたではないですか。」
 押していたって言うかな。
 「俺は1人も殺していないぞ。まぁ、剣をぶち折って、その飛んだ刃が当たったとか、銃弾を避けて後ろにいたやつに当たったとかはカウントしないが。」
 さすがにそこまで確認できなかった。
 「横から剣の刃だけ飛んできたのはそのせい?」
 ニーナがなんかこっちを睨んでいる。
 「うお? 流れ弾に当たったのか。不運な。」
 全く不運だな。
 「ま、あいつらが死んでせいせいしたからいいけど。ちゃんと傷も治してくれたし。」
 全く悲しみにくれると言う雰囲気はないな。
 「生き残ったのが私だけって言うのなら、教えちゃってもいいか。2回も助けてもらった義理もあるし。」
 そうそう、こいつにどうやって借りを返してもらおうか。
 「あなたたちを襲って鉄の箱を奪って来いって言う依頼があったのね。ボスが割りのいい仕事だって喜んでいたわ。」
 何?! 黒幕がいるのか。べたな展開だが、とりあえず、驚いていてやろう。
 「依頼主にはボスしか会っていないからどんなやつか知らないけど、あの喜び様からして前金に結構な額をもらったみたい。」
 金持ちか?
 「なぁ、めちゃくちゃベタな展開であれなんだが、そのままベタな展開で行くと仕事に成功して荷物を奪っていってもその依頼主に皆殺しにされていたぞ。しかもな、ベタな展開で行くとその依頼主が強力な力を持った魔法使いかなんかで、自分のことが外部に漏れない様に生き残りを探して殺して回っていると思うんだ。どうよ?」
 なんかニーナとシルビアが驚いているな。
 「そのベタな展開で行くと私、どうなっちゃうの?!」
 なんかニーナが泣きそうだな。
 「とりあえず、8割がた死ぬな。それも俺ら主人公一行と別れてすぐに路地裏かなんかで。」
 ちなみに主人公は俺でいいのか?
 「あんたたちと別れなきゃいいの?」
 主人公一行って言うのにツッコミはないのな。
 「その場合、後になって100%死ぬな。一番多いのが、悪の魔法使いと決着をつける時だな。その次に最初に遭遇した時か。ホントさくっとグベッ!!」
 ニーナのアッパーがあごにヒットする。
 「え〜ん! 私まだ若いのにぃ〜!」
 がばっとニーナが横にいたシルビアに泣きついて胸にぐりぐりしている。シルビアはなだめる様にニーナの背中をぽんぽんと叩いている。なんか、ニーナの顔がシルビアの谷間に完全に埋まってしまっているのはどうよ?
 「カズヤ様。恐い事、言っていじめないでください。」
 シルビアがニーナを慰めながらこっちを睨んでくる。
 「ホントにベタな展開で行くとそうなんだって。こういうベタなストーリーの小説とかRPGとか結構あるからな。」
 結構あるって言ってもぱっとタイトルが出てこないな。
 「物語の世界じゃないんですから。現実は小説より奇なりってどこかの偉い人も言っていたことですし。」
 どっかで聞いたことのあるようなないような。
 「まぁ、直接会ったわけじゃないし、大丈夫だろ?」
 さすがにこんな使い古しの展開にはならないだろう。
 「いや、実はすでに来ていたりな。」
 ?
 「ぬおぉ!!」
 いつのまにか横に男がいた!
 「きゃああ! あなた、突然なんですか!」
 シルビアがニーナを抱いたまま男から離れる。俺も脇に置いてあった剣を取って男から離れる。
 「本当にベタな展開で申し訳ないのだが、お前たちには死んでもらう。」
 ぎゃああああ! なんか、いかにもって感じのやつだな。黒を基本とした宝石のいっぱいついた魔法使い風のローブを身につけ、奇妙な形をした杖を持っている。顔はブサイクだ!
 「アホか! ホントにこんなベタな展開で来るなよ! 舐めとんのか?」
 しかもここでジャキンって俺の剣を抜いたら「何?!セケルステインだと?!」とか言って逃げ出すんだろ?
 つーことで、鞘からジャキンって剣を抜いて男に向ける。
 「ふ。この私に剣で立ち向かうと言うのか! 跡形もなく消えうせるがいい!!」
 うぉ! 予想と違うし!
 男が呪文を唱え始める。
 「カズヤ様! 呪文が完成する前に!」
 うっしゃぁ!!
 「死ね。」
 先制攻撃に間に合わなかった。男の手から紫色の光線が放たれる。いやぁ、イメージ通りの色で感激だな。
 「主人公が死ぬかよ!」
 ひらりっと交わして男の懐へ飛び込む。
 「何?!」
 魔法使いなんて懐に入られたら雑魚だ。
 「うりゃ!」
 胴体真っ二つコース!
 「く!」
 男が体をひねって交わしてくる。しかし、手ごたえあり。男のローブが切れ、真っ赤な血が噴出す。
 「もういっちょぉ!」
 横になぎ払った剣の勢いをそのままに体を回転させて打ち込む。
 「くそ!」

ぶん!

 剣が空振る。その場に男の姿は見えなかった。瞬間移動で逃げたか。
 「無事か!」
 2人を確認。
 「大丈夫です。大した力はありませんでしたね。」
 こんな時でも猫かぶりモードを解除しないとは、なかなかやるな。
 シルビアとニーナに被害どころか、部屋も全く荒れた様子はない。この騒ぎに誰か駆けつけて来ないので下の連中は気付いていないようだ。
 「ちょっくら荷物の確認に行ってくるわ。」
 もう1本のセケルステインの入った鉄の箱は中に運び込んでキールたちが椅子にして守っているから大丈夫として、他の荷物がめちゃくちゃになっていたら報酬が出ないかもしれない。
 「カズヤ様。お気をつけて。」
 猫かぶりモードのシルビアは美人だのぅ。


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