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2004.2.22


第4話フェスレドへ(8)




 かれこれ2日過ぎて出発することになった。
 町に留まっている間に武器の調達や仲間探しが行われて新たに2人が新たなメンバーとして加わった。
 新たなメンバーの1人目は身長2mをゆうに越える巨体をした黒い鎧の戦士。使っている武器もめちゃくちゃでかい。刀身だけで俺の身長ほどもある。名前はゴンザレスと言う。でかいおっさんだな。
 2人目は1人目の連れだな。ぱっと見、性格のきつい悪女って言う感じの美女。よく見ると化粧の厚い年増だな。恐らく年齢は30超えているだろう。服装は紫と黒の体の線がはっきりしない魔法使いローブで露出度は低い。ここの世界の魔法使いはあんまり肌をさらさないようだな。色気がなくてちょっと面白くないな。見た目通りに魔法使いをやっているらしい。名前はレイシアと言う。けばいねぇちゃんだな。
 よくこんなやつらがこんなへんぴな町にいたなぁ。世界中を旅して回っている冒険者とかかな? 2人並ぶと身長差がかなりあってレイシアの頭がゴンザレスの胸の辺りまでしかない。
 ついでにフェスレドまでニーナも一緒に行くとの事。弓矢とか重火器の扱いは盗賊時代にかなり仕込まれたらしく、使い慣れている様子だ。
 と、言うことで再び12人となった。


 「後、何日くらいで目的地に着くんだ?」
 もうこの荷物運びの連中と一緒に旅して1週間になるから目的地の名前も忘れてしまったぜ。
 「私の占いですと、フェスレドに私たちが到着するのは13日後です。」
 シルビアが猫かぶりモードで答えてくる。2週間弱か。長い道のりだな。フェスレドって所に向っているんだっけな。
 「・・・? 俺の記憶が確かならば順調に行けば7日の道のりじゃなかったか?」
 最初にそんなことをキールが言っていたような気がする。
 「私の占いは全て的中します。私とカズヤ様がフェスレドに着くのは13日後です。」
 俺とシルビアの2人限定なのな。
 「占いなんて、いつやったんだ?」
 ここ最近、それらしいことはやっていないような気がするが。
 「この仕事を受ける前です。」
 この仕事を受ける前?
 「ああ! なんか宿で光っていたな。あれか。」
 そう言えば瞑想して何かしていたよな。あの時の蹴りは痛かった。
 「あの時、カズヤ様が邪魔をしてくださらなければ道中、何が起こるのか詳しく占えましたのに。」
 言葉遣いは丁寧だが、かすかに殺気が混じっている気がする。
 「それは悪かったな。あまりにも暇だったからな。言ってくれれば外に散歩しに行くとか、寝るとか邪魔しないようにできたのにな。」
 シルビアをからかうとかわいいし、面白いし、と言うこともあるけど。
 「おい。占いが百発百中なら俺とニーナの相性とか占ってくれよ。」
 シルビアの相性を聞いても答えてくれなさそうだから、あえて聞かないけど。
 「私の占いは未来予測しかできません。それに占いに時間がかかります。」
 さよか。
 俺の隣にニーナがいるから猫かぶりモードなのか? 本当に俺と2人きりにならないと本性を出さないな。まぁ、こっちの方が美女に見えていいんだけど。
 この日は何事もなく無事に終わった。


 次の日の昼頃。
 「トカゲが10で、モグラが4か。モグラが厄介だな。」
 望遠鏡を覗くキールが言う。少し離れた所に砂煙が舞っている。
 「トカゲってこの前、焼いて食ったやつ?」
 意外と美味かったし。
 「そうみたいですね。それからモグラは地中を高速で移動できる怪物ですね。地中から噛みつかれない様に気をつけてくださいね。」
 気をつけてくださいねって。
 「俺に行けと言うのか?」
 シルビアがそれを肯定するようににこっと笑う。
 「地中を高速で移動して獲物を狙うモンスターってどっかの小説で読んだな。確か、1ヶ所に止まっていちゃならないんだったよな?」
 よなって聞いても分からんか。
 「地中から地上へ出るのに時間差がありますから出てくるまでに移動することができれば捕まることはありませんね。そういう意味で絶えず移動していれば捕まりませんね。」
 ほほう。
 「んじゃ、ちょっくら今日の昼飯を狩ってきますか。」
 もう食べる気満々だし。
 「おい、小僧。敵を侮るものじゃないぞ。」
 別の荷台に乗っているでかいおっさんが声をかけてくる。
 「小僧って言うな。これでも20歳越えているんだからな。」
 まぁ、予想としては10歳以上差があると思うけど。
 でかいおっさんに言い返したのだが、無視して先に行ってしまった。でかい図体と鎧のわりに意外と動きが速いな。
 「カズヤ様もいってらっしゃい。」
 シルビアが笑顔で背中を押す。それに荷台の柵を乗り越えてしまう。地上4mはある荷台の上から落下し、思い切り背中を打ってしまう。
 「ぐうぅ。シルビア、後で絶対に犯(や)る。」
 腰をさすりながら先に走って行ったでかいおっさんに目をやるとなかなか凄いことになっていた。
 俺の身長ほどもあるでかい剣を軽々と振り回し、剣を振るうたびに1匹ずつ確実に倒れていく。
 「俺の出る幕ないじゃん。」
 楽でいいけど。
 「小僧! そっちに1匹行ったぞ!」
 ヌボーッと観戦していたらでかいおっさんから警告の声がかかる。それに我に帰るとこっちに向ってトカゲが1匹走って来るのが見えた。
 「任せろ。」
 シャキンっと剣を抜き、こっちに向ってくるトカゲに突進する。
 「うらっと!」
 このトカゲって襲い掛かる瞬間に跳ねてこっちに突っ込んでくるのよね。それをくっと体を横にずらして交わし、すれ違い様に胴切りにする。
 「いやぁ、全くよく切れる剣で。」
 俺みたいな細腕でも怪物が簡単に倒せるのだからな。
 ふと向こうを見るとでかいおっさんが残りの怪物を片付けてこっちに帰ってくるところだった。
 「早く乗れ! 出発するぞ!」
 荷台の上からキールが声をかけて皮袋を投げてよこす。皮袋に俺の倒したトカゲを詰めて荷台に上がる。このトカゲは今日の昼飯だ。
 でかいおっさんがドスドスと走ってきて荷台に乗ると一団はすぐに出発した。


 「今日のランチはトカゲだ!」
 でかいトカゲだからな。1匹を12人で分けても十分な量になる。ちょっと塩をかけて火で炙るだけという簡単な料理だ。肉が新鮮だからこれでもなかなか美味である。
 「おい。こんな荒野でそんな料理をしたら他のモンスターが集まってきてしまうのではないか?」
 肉を料理しているエプロンのおっさんにでかいおっさんがなんか言っている。そう言えばよく考えればそうだよな。肉を焼く時の香ばしい美味そうな匂いはモンスターでなくても引き寄せられてしまうぜ。
 「大丈夫だ。一緒にモンスターが嫌う香も一緒に焚いている。」
 そんな物があったのか。
 でかいおっさんの相方、けばいねぇちゃんは何をしているのかなって首を回すと、向こうで何か考え込んでいる様子だった。あんな肉汁たっぷりな肉を食べたら太っちゃうとかか?
 「カズヤ様。あの女には気をつけろよ。あんたの剣を見てからあんな感じだから。」
 シルビアがこそこそっと耳打ちしてくる。言葉遣いが通常バージョンだ。
 「これが聖剣だってばれたんじゃねぇ?」
 むやみに世間へ聖剣の勇者が現れたことを知らせないためにできるだけ内緒にしているのだ。まぁ、剣の姿を変えているわけではないので、剣を見れば分かるやつには分かってしまうと思うが。まぁ、俺みたいに力のないやつが全ての災厄を滅ぼす勇者になんかなったものだから色々と面倒なのよな。
 「まぁ、いざとなりゃ記憶を消して口封じすりゃぁいいけど。」
 おい。
 「肉が焼けたみたいだからもらって来い。」
 本当にこいつって俺の従者なんだよな? とか思いつつも取りに行くやつ。
 俺、シルビア、ニーナの3人分を受け取る。う〜ん、美味そうな匂いじゃねぇか。今日は仕事をしたからな。美味しく食べられそうだ。
 シルビアとニーナに皿を渡し、早速、食べ始める。フォークで押さえてナイフで一口サイズに切り分け、ぱくっと頬張る。
 「う〜ん、肉汁のわりにさっぱりとした肉で塩加減もバッチリだ。」
 こっちの世界に来て美味いものばかり食べているような気がするのは気のせいだろうか。元の世界にいた時は食生活がかなり乱れていたからな。余計そう思うのだろう。なんだかんだ言って毎日3食ちゃんと食べているし。


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