風呂の後は飯だな。シルビアとニーナを連れ立って夕食に行く。
夕食に行く途中、洗濯物は宿の人にクリーニングを頼んでみた。明日の朝にはできているらしい。一晩で洗濯物が乾くということは乾燥機とかあるということなのだろうか。
「謎だ。」
洗濯機とかあるんじゃねぇ?
しかし、厨房ではかまどを使っているのよなぁ。電気炊飯器なんて便利な物もなく、鍋で炊いている。てか、電気がない。電気製品は全然見当たらない。
あ、魔法があるから魔法で乾かすのかも。洗濯に魔法を使うのか。さすがは異世界だな。うむうむ。後でシルビアとかに聞いてみるか。
「カズヤ様。たまには魚も食べてください。」
シルビアの忠告。今日のディナーもヴェルニスのステーキ定食だ。
「好きな物を食べさせろ。魚の採れるような所に行ったら食べるから。」
この辺に川や池、海なんてものはない。魚はどこかから運んでくるのだろう。
「いつもヴェルニスのステーキですが、飽きませんか?」
今日のシルビアのディナーは鶏だな。毎回、違うメニューのようだ。
「飽きねぇな。好きな物は好きなんだ。そもそも俺のいた世界じゃ絶対に食べられなかったものだからな。」
ヴェルニスはこの世界ではポピュラーな食用の家畜らしいが、こんな物は地球にいない。
「ヴェルニスの食べられないような所にいたの?」
横にいたニーナが聞いてくる。
「ああ。俺って元々この世界の人間じゃないのよ。地球って言ってここからじゃどこにあるのかよく分からない所から来たんだ。こっちに来てすぐにシルビアって現地の住人と知り合えてラッキーだったね。」
無一文で宿と飯をどうしようかって状態だったからな。まさにラッキーだった。
「ふ〜ん。カズヤって異世界の人間なんだ。言葉とかちゃんと通じるよね。名前がちょっとかわっているけど。」
文字も一緒なんだよな。不思議だ。
「名前がちょっと変わっているといってもなぁ。お前らの名前って地球でも普通にいる名前だし、俺みたいな名前もここの世界にいるとは思うんだけど。」
まだ地球にはいなさそうな変な名前のやつには出会っていないな。
「私が知らないのですから、いませんよ。」
シルビアが断言する。
「いねぇのか。」
何で断言できるのだろう?
なんだかんだ言いながら夕食の時間は過ぎていく。いやぁ、平和だなぁ。
「で、今日はどこで寝よう?」
今回も男部屋に大部屋を1つと女部屋に小部屋を1つ用意してもらっている。おっさんたちがいる男部屋はいびきがうるさくて眠れたものではないだろう。女部屋にお世話になるとしても今回はレイシアがいるからな。ちょっと遠慮した方がいいのではないかと思う。シルビアとニーナは余裕で了承してくれると思うが。
「また荷台で寝るか?」
とりあえず、男部屋に行ってみるとベッドが8つしかない。
・・・。
「おう?」
男って俺を含めて9人になったのではなかったか?
「俺に床で寝ろと?」
ふと気付いたのだが、入り口横に布団が1つ置いてあった。
「・・・。」
確か、女部屋は4人部屋だったな。ベッドが1つ空いている。
「行くぜ!」
つーことで、女部屋にやってきた。
「男部屋のベッドが空いてなかったから、こっちの空いてるベッド貸してくれ!」
部屋に入るとニーナとシルビアがキャイキャイ言っていたが、けばいねぇちゃんの姿は見えなかった。
「どうぞ、使ってください。」
ラッキー!
シルビアとニーナはいびきなんてかかないのだ。あのけばいねぇちゃんはどうだろう?
「寝床が確保できたことだし、世間話に混ぜろ。」
シルビアとニーナの間に割って入る。
「あ、そうそう。ちょっと気になったことがあるのだが、聞いてもいいか?」
あれだな。
「何でしょう? 私に答えられることならお答えいたしますが。」
うむうむ。
「夕食に行く前に宿のおばちゃんに洗濯物を頼んだじゃないか。明日にはできるとか言っていたけど、どうやって一晩で仕上げるんだ? やはり魔法とかか?」
気になるぞ。
「洗濯機と乾燥機がありますよ。機械で一度に洗います。」
あるのか?!
「洗濯板でごしごしと洗うわけじゃないのか。ちゃんと洗濯する機械があるのか。なるほど。」
この世界にも洗濯機とかあるのか。動力は電気じゃないのよな。
「洗濯機とかの動力って何なんだ? 電気とか使ってなさそうだが。」
照明はランプを使っているのな。時々、石が光っているような物も見かけるけど、大抵はランプだな。
「蒸気と人力です。あんなにたくさんの洗濯物が一度に洗えるのですから便利ですよね。」
蒸気と人力?! 実物が見てみたいな。
「カズヤ様。デンキとは何ですか?」
電気はないのか。
「地球で最も多く使われているエネルギーの1つだな。」
工学系大学の学生らしくちょっと詳しく電気について説明してやる。
こんな感じで世間話をしながら夜が更けていく。
「あら。あなたは皆さんと飲まないのかしら?」
大分、話し込んだ所でけばいねぇちゃんのことレイシアが部屋にやってくる。相変わらず厚化粧で。ちゃんと風呂に入って化粧を落としたんだよな?
「まぁ。」
なんか下では宴会していたよな。
「もう休みたいの。出て行ってくださる?」
もう寝る時間か。
「あっちの部屋にベッドが空いてなくて、こっちにはベッドが1つ空いているから、今晩はこちらで寝ようかと思っているのですが。よろしいですか?」
とりあえず、シルビアとニーナには了解を得ているから、後はこのねぇちゃんに了解を得なければ。
「そう。」
どうでもいいわ、の様な顔して背中を向ける。一応、了解らしい。
「明日も早いし、寝るか。」
つーことで就寝。
全員がベッドに入ったところでシルビアが指を鳴らす。すると部屋の明かりがふっと消える。
魔法って便利だなぁ。わざわざ明かりのスイッチを切りにベッドから出なくてもいいんだからな。明かりを消してベッドに行くまで暗闇の中を歩かねばならんのは危険だし、いいなぁ。
まぁ、寝よう。
そう言えば、昨日の夜も寝る時はニーナと一緒にどっかに行って寝たけど、しばらくして俺の所に来たな。あれだけの美女に添い寝してもらえるのは嬉しいのだが、何なんだろう? 単に寂しいだけと言う子どもじみた理由なのだろうか。まぁ、同じ布団で寝るだけで何するわけではないのだが。
まぁ、いいか。寝よう。明日も早い。むこうの世界にいた時は8時に起きれば学校に十分、間にあったのにこっちの世界は6時起きだからな。それで7時には出発すると言う。
眠いな。
まぁ、むこうの世界にいた時は大抵、日付が変わってからの就寝だったのにこっちに来てからはかなり早くに就寝していると思う。時計がよく分からないから何とも言えんが、多分、早めに寝ていると思う。少なくとも日付は変わっていないはず。
シルビアとどうやってムフフな関係にしていくか計画を練りながら眠りにつくのであった。
「・・・。」
なんかもそもそと布団に入ってくる気配で目が覚める。俺の背中の辺りに落ち着くと何をするわけでもなく寝息を立て始めるやつ。
ちょっと首を回して確認。金色の長い髪をした女。案の定、シルビアか。
う〜ん。何なんだろう? 寝る時に添い寝しろと誘っても拒否するのになぁ。いつか理由を問いたださねばな。
まぁ、いい。いつものことだ。気にせず寝よう。
夜は過ぎていく。
「朝か。」
今日はニーナに起こされた。
シルビアは荷物の整理をしていた。俺の荷物もまとめられている。シルビアがやってくれたのだろう。なんだかんだと言っても色々と世話を焼いてくれるのよな。つまり素直じゃないと。
けばいねぇちゃんのことレイシアはすでに部屋にいなかった。恐らく、眠っている間に崩れた化粧を直しに行っているのだろう。ああ言う厚化粧は作るのが面倒臭そうだよな。俺には真似できん。
化粧と言えばシルビアとニーナはスッピンだよな。2人とも化粧道具も持っていない。まぁ、化粧しなくても十分にかわいいからする必要もないのだが。
「おはようございます。昨日、カズヤ様が頼んでいた洗濯物は私が受け取っておきました。」
俺が起きたのに気付いたシルビアが俺に挨拶してくる。なんか忠実な従者って感じだな。ニーナがいるから猫かぶりモードなのだろう。
「ああ、ありがとう。」
2人で宿に泊まった時はボディーブローで起こされたっけなぁ。懐かしい思い出だ。まぁ、まだ1ヶ月経っていないけど。あれは痛かったなぁ。しばらく息ができなかったもののなぁ。
顔でも洗ってくるか。
朝食後、出発。
「明後日にはフェスレドに着くから、気合入れていくぞ!」
キールの声に一同がおーっと気合の声が上がる。
「フェスレドに着いたらカズヤとシルビアともお別れだね。いい職場を紹介してくれるんだよね。」
今日はシルビアを挟んだ向こうに座っているニーナが言う。
「はい。任せてください。」
シルビアの占いが気になるところだが、明後日にはフェスレドに着くのか。このおっさん連中ともお別れだな。またシルビアの2人きりになるのか。
ああ、猫かぶりモードが解除されてしまう。こっちの方が美人で、普通に従者って感じでいいんだけどなぁ。