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2004.10.10


第5話・街(1)




 「ああ、ハラヘッタ・・・。」
 荒野をさまよって10日目。湧き水もなければ木もなく、モンスターも現れず、10日間何にも食べてない。さすがに10日も飲まず喰わずだとしんどい。
 あのけばいばばぁとでかいおっさんのこと、レイシアとゴンザレスさえ裏切らなければこんな事にならなかったんだよ。ニーナやキールたちもあんなことにならずに済んだし。
 「ああ、ハラヘッタ・・・。」
 思い出すたびに怒りが湧いてくるが、ハラヘリ過ぎて怒り狂う余裕はない。
 「ん?」
 ふと顔を上げて見たら、地平線にうっすらと何か見えた。蜃気楼か。いや、こんな気候で蜃気楼なんて出ない。10日間さまよってそんなものが見えた事はない。一見すると岩山が横に広がっているように見えるのだが、よく見ると・・・。
 「あれは・・・。」
 うぉ!
 「街だ! 間違いねぇ!」
 街の入り口らしきゲートが見える。そこに入っていく台車が見える。店の屋根が見える。人だ!!
 「シルビア! 起きろ! 街だぞ!」
 背負っているシルビアの体を揺らして知らせてやる。
 「うぅ・・・。」
 返事をする気力もないみたいだな。非常にまずいな。
 俺はこっちの世界に来てたっぷりといいものを食べて蓄えていたからもう少し大丈夫だが、シルビアは見た目通りに弱かったなぁ。
 「ほら、シルビア。もう少しで街だ。がんばれ。」
 背中のシルビアを背負い直して先を急ぐ。
 飯を喰うのだ!

 「街だ! 飯! 水!!」
 飯屋発見!!
 飯!
 水!
 全速力で突撃する。
 「水をくれぇ!!」
 飯屋の入り口で思い切り叫ぶ。店の中にいた全員が俺を注目する。
 俺は飯を喰うのだ!
 「そこのねぇちゃん! 特上の水を2つくれ! 即行で。後、ヴェルニスのステーキ!!」
 ずびしっとウェイトレスのねぇちゃんを指差して注文する。それにそのねぇちゃんが慌てて店の奥に走っていく。
 「うっしゃあ! 飯だ!」
 う〜ん、周りの客が食べている飯の匂いが堪らん・・・。
 「お。」
 飯屋に到着したことにはしゃいで忘れていたが、背中でシルビアが死にかけていたのだった。
 ぐったりしたシルビアを空いているテーブルの椅子に座らせた所にさっきのねぇちゃんが小走りで両手に水の入ったグラスを持ってくる。
 「お、来たな。シルビア、水が来たぞ。」
 ウェイトレスのねぇちゃんからグラスを1つ受け取ってシルビアの口に持っていく。
 「ん・・・。」
 シルビアの乾いた唇にグラスの水が触れるとシルビアが突然動き出し、グラスの水を一気にあおろうとする。しかし、それを押さえつけて止めさせる。
 「水・・・。」
 こう言う状態で一気に水を胃に入れたら体に悪い。
 「ゆっくり飲め。もう街に着いたんだから。」
 少し暴れるシルビアを押さえつけてゆっくり水を飲ませてやる。暴れると言っても体力の限界はすでに来ていて、大した力もないのだがな。
 シルビアがグラス1杯の水を飲み干してやっと落ち着いたらしい。
 「水のおかわりとこいつに10日絶食していても食べられるようなやつを何かちょうだい。」
 もう1つのグラスを受け取ってウェイトレスのねぇちゃんに追加注文する。それにウェイトレスのねぇちゃんが店の奥へ走っていく。
 俺はくいっと水をあおる。
 「おお。五臓六腑に染み渡るとはこんな感じだな。水が美味い。」
 カラカラに乾涸びていた体に水が染み渡っていく感触がする。
 水が体に染み込んでいくような感触を味わっている所にヴェルニスのステーキが運ばれてくる。グリーンサラダ付だ。ついでに水のおかわりも。
 「いただきます!!」
 早速、ひと口。
 「美味い。」
 もう泣きそう。
 数分で大きなステーキを平らげてコップの水を飲み干し、やっと落ち着く。
 「ああ、死にそうだった。」
 そこにシルビアのために頼んだものが運ばれてくる。なかなかいい香りだ。スープか。
 「ほれ、シルビア。飯が来たぞ。」
 シルビアが上半身をテーブルに突っ伏してぐったりしていた。その横に空になったコップがあった。
 「うん・・・。」
 俺の呼びかけにシルビアが起きる。
 なんかもう体力の限界みたいでスプーンをまともに使うこともできないみたいだ。さすがに10日の絶食はシルビアに耐えられなかったか。
 「ほら、スプーンを貸せって。」
 シルビアの手からスプーンを取って食べさせてやる。
 弱っているシルビアって素直だなぁ。

 この世界の決まりってものでこの飯屋の2階が宿で、2人部屋を取る。
 スープを腹に入れて落ち着いたシルビアは寝てしまったものだからそのまま部屋のベッドに転がしておいた。
 「久々の風呂!」
 もう2週間近く風呂に入っていなかったからな。しかも渇いた荒野を旅してきて全身砂だらけだぜ。
 風呂に入って垢を落としながらふと思ったのだが、俺って何でこんなに元気なのだろう?
 そんな俺も限界だったみたいで風呂から上がったらそのままベッドに直行してしまうのであった。


 次に日。
 「生きてるか?」
 シルビアはまだベッドから動けずにいた。
 「あぅ〜。お風呂に入りたい。」
 こいつも2週間近く風呂に入っていないんだよな。
 「脱げ。濡れタオルで拭いてやる。」
 思い切り弱っているからな。そのまま押し倒してってやるぜ。日頃の恨み。散々晴らしてやるぜ。
 「バカ。アホ。変態。スケベ。恥知らず。」
 人が親切で言っているのに。
 「紙と何か書く物を借りてきて。」
 何だ?
 「おら、早く取って来い。」
 全く、人使いの荒い所は弱っていても変わらないなぁ。そもそもこいつが俺の従者で、俺が主人なんだぞ。
 そんなことを思いつつも宿のおばちゃんの所に紙とペンを借りに行く。
 「ほら、借りてきたぞ。」
 シルビアに紙とペンを渡すと、紙にさらさらと何か書き始めた。
 「これ買ってきて。」
 おつかいですか!
 しかも買ってくる品の横に値段まで書いてある。
 「これ、お金。」
 渡されたお金はピッタリで全く余らない様子。
 「行く前にタオルとお湯を持ってきて。」
 タオルとお湯?
 「自分で体を拭くつもりか? 弱っているんだから宿のおばちゃんに拭いてもらえばいい。」
 呼んできてやろうかって訊いたら首を振って拒否してきた。
 「私の胸にあるこれを見せたら世界の災厄を滅ぼすために戦う偉大な聖剣の巫女である麗しの女神シルビア様だってばれちゃうじゃない。」
 オイ。
 でも久々に深い胸の谷間を見た。やっぱり深いなぁ。十分、パイ●リできるな。
 シルビアの胸には青いひし形の石が埋まっている。
 俺がこの世界に来て始めて倒したモンスターから出てきた石だ。それを石像の胸元に開いたちょうど石がはまりそうな穴にはめ込んだら、石像がシルビアになったんだよな。
 好みの顔を選んで置いてよかった。
 なんか、聖剣の巫女である印なんだそうだ。
 「だから、俺が拭いてやるって。」
 俺になら聖剣の巫女だって秘密にする必要はない。
 「あんたなんかに体、拭かれたら腐るわ! 変態! さっさと行け!」
 この女は。
 拳を握り締めつつも女には優しい俺。さすがは俺。バスルームに行って桶にお湯汲んでタオルを用意してやる。
 なんか帰ってきたらシルビアがベッドの上でしおらしくしていた。
 「カズヤぁ。ポラス食べたい。」
 はぁ?!
 「ポラスって何?」
 マジで知らん。
 「ポラス食べたいなぁ・・・。」
 買って来いというのか?
 「金。」
 びしっと手を出すとシルビアが欲しそうな目をウルウルさせながら俺の目を見つめてくる。
 「さっき渡された金がピッタリなんだからそのポラスってやつの代金。」
 それでもシルビアは俺の目を見つめ続ける。
 「どれか値切ってポラスを買う代金を捻出しろと。」
 シルビアがにこっと笑顔を作る。
 オイ。
 「ポラス食べたいの。」
 ああ。


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