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2004.11.11


第5話・街(2)




 「1つ110Kか。」
 ポラスってピンク色のリンゴみたいな形をした果物だったのね。
 どの店も値段は同じだった。
 「RPGの世界かよ!」
 どの店に行ってもそろえたように同じ値段の値札がついている。商人連中が裏で話をして値段を合わせているんじゃないだろうな? それは法律で禁止されているはず。でもこの世界にもそんな法律があるとは思えないし。
 「これをどうにか値切って110K捻出するのか。」
 メモに書いてある値段より安く手に入れなければならない。俺の腕の見せ所って所か。そんなこと言っても値切るなんてやったことないんだよなぁ。
 まぁ、何とかなるか。
 何事も楽観的だな。
 高校や大学の入試もかなり楽観的だったな。
 色々と楽観的に見てやってきた。
 高校なんてどこでもいいから倍率の低そうな所を選んで受けたし、大学もどこでもよかったから簡単に合格できそうな三流大学を受けた。
 周りへの建前って物があるから色々と策略するのだけれど、いつもなんとかなった。
 今回もなんとかなるでしょう。
 「まずは服か。男に下着買って来いってふざけてるな。」
 Hカップか。なかなかだな。
 こう言う服のサイズとかは隠しておくような物の気がするのだが、俺に気を許してくれているのだろう。
 「デザインまで指定してあるよ。シルク100%でピンクの花柄・・・。」
 あえて布地の少ないきわどいやつを買っていってみようか。殴られるかもしれないが俺に下着を買いに行かせるシルビアが悪い。
 「やはりTだな。」
 あ、ランジェリーショップ発見。
 「行くぜ!」
 ヤバイよ。

 「・・・。」
 20%OFFのセール品でシルビアが指定したやつがあったからそっちを買ってしまった。
 「1つ3000Kの予定だったのに20%OFFで3つ買ったから1800Kも浮いてしまったぜ。」
 余裕でポラスを買う分の金ができてしまったな。
 「えっちぃ下着より金を取ってしまうなんて・・・。」
 後ろが細いやつは4000Kだったし。ケチって言うのもあるけど変なのを買っていって蹴られるのも恐いなぁ、なんて。
 「次はバックか。」
 俺のリュックはけばいばばぁとでかいおっさんから逃げた時に置いてきてしまったからな。新しく新調せねば。
 「やっぱり背中に背負えるやつだよな。」
 予算は3000Kか。メモのバックって書いてある右に『3000K』って書いてある。
 「背負い鞄で3000K・・・。」
 1種類しかなかった。しかもデザインがヘボヘボ。
 「こっちのバックの方が使い心地が良さそうだな。」
 色々とポケットがついていて、色々と引っ掛けるフックもあって、ベルトにつける小さいバックもセットになって5400K。結構な値段だな。
 「おっちゃん。これってもう少し安くなんない?」
 奥にいたおっちゃんにとりあえず交渉してみた。
 「ダメダメ。人気のやつだから安くできないよ。」
 諦めてはダメだ!
 「昨日、この街に着いたんだけどここに来る前に盗賊に襲われて荷物全部取られてしまったのよ。安くしてくれよ。」
 正確には盗賊に襲われたわけではないのだが、似たようなものだし。
 「そりゃ、運が悪かったな。お気の毒に。」
 お、同情を引けたな。
 「5400Kだ。」
 オイ。
 「安くしてくれよぉ〜。」
 泣き落してみた。
 「ダメだ。」
 ぬぅ。
 「ケチ。」
 けなしてみた。
 「そもそも予算はいくらなんだ?」
 予算か。
 「3000Kだ!」
 おぅよ!
 「ならこっちのが買えるじゃねぇか。こっちにしておけ。」
 えー、そっちのバッグはデザインがダサいじゃん。
 「こう言うちゃらちゃらしたのが色々付いているやつより、こう言うシンプルなやつの方が使い勝手がいいんだよ。」
 そうか?
 「これをおまけしてやるからこっちにしておけ。」
 巾着袋だ。抹茶色で柄のないやつ。いかにも100円って感じのやつだ。
 「まぁ、いいか。」
 とりあえず試しに背負ってみた。
 「ああ、言われてみれば色々付いていない方が動きやすくていいな。」
 背負い鞄にするのは戦う時に両手が使えるようにと言うこともある。激しく動く時に色々付いていない方が動きやすそうだ。
 「おっちゃん。これにするわ。」
 おまけつきでお買い上げ。
 デザインがダサいと言ってもよく見るとファンタジーっぽいかもしれないな。どの辺がファンタジーなのかよく分からないけど。

 その後、日用品を色々と仕入れて、最後にポラスを買いに行く。
 「一山520Kか。」
 5つで一山だ。1つ110Kだから30K安い。
 「500Kしかないんだな。」
 最初の下着で1800Kも浮いたのに1300Kはどうしたのか。
 かっこいいナイフを見つけてしまったんだよ!
 この果物屋に向かう途中に武器屋があって、その店先にかっこいいのがあったのよ。
 一目惚れっていうやつ?
 あんまりちゃらちゃらした玩具みたいなやつじゃなくてかなり実用的なナイフだ。手に持ってみたら俺を待っていたかのごとく手に馴染むのよ。
 片刃でちょっとした鍔が付いているやつで、ちょっとした短剣って感じのナイフだ。投げるのにも使えそうだ。
 2000Kだった。
 所持金が1800Kでちょっと足りなかった。しかし、気合で1300Kに負けさせた。世の中、気合さえあれば何とかなるものだとマジで思ってしまった。
 「20K負けてもらうか。」
 交渉開始だ。
 「おっちゃん。これを500Kで譲ってくれ。」
 ずいっと500K硬貨を腕を伸ばして突き出しながら店のおっちゃんに言う。
 「駄目だ。」
 即行で断られたな。
 「500Kしかねぇんだ。500Kにして。」
 ここで引いてはいかん。強気に交渉しなければ。
 「他に行きな。」
 おっちゃんがしっしっと手を振っている。
 「いや、これが食べたいんだ。500Kで譲って。」
 絶対にここで500Kで売ってもらうんだと言う勢いがなければダメだ。
 「20K足りないなら、諦めな。」
 強情だな。作戦を変えるか。
 「実は連れが熱を出して、ポラスが食べたいってうなされながら言うんですよ。でも、今の手持ちは500Kしかなくて。どうかあいつのために500Kでこれを譲ってください。」
 ちょっと目を潤ませるような表情で。
 「1つ110Kだぞ。」
 そんなことは始めから知っている。
 「熱にうなされながらもこれが食べたいって言ってんだよ! 腹いっぱい食べさせてやりたいじゃないですか!」
 ちょっと力説する感じで声量をあげて。俺の声におっさんが怯み、周りの買い物客もこっちを注目している。物陰でこそこそ何か言っているおばちゃんがいるが、気にすまい。おっちゃんを怯ませればこっちのものだな。
 「そ、そうか。わかったよ。500Kで持ってけ。」
 値引き交渉成功。ラッキー。
 「ありがとねー!」
 カゴのポラスを紙袋に入れてもらって宿に走った。
 やればできるものだな。親切な人ばかりでよかった。


 「帰ったぞ!」
 ノックもせずにいきなりドアを開けてやる。まだ体を拭いている途中だったらよかったのになぁって期待からこんなことしてみたのだが、シルビアが大人しくベッドで寝ていた。
 「おせぇよ!」
 結構元気そうだな。
 「ほら、買ってきてやったぞ。」
 横になったシルビアの目の前にポラスの入った紙袋を置く。
 「カズヤにしてはたくさん買って来れたじゃないの。ガキだと思って舐めてたけどちょっと見直してやる。」
 それはよかったな。
 シルビアが起き上がろうとしてちょっと苦しそうだったもので手を貸して起こしてやる。
 「ああ。さすがにまだ回復しねぇな。」
 10日も絶食して返事もまともにできなくなるくらい衰弱していたからな。
 「皮むけ。」
 シルビアが紙袋からポラスを1つ出して俺に突きつけてくる。
 「了解した。」
 リュックからおつかいで買ってきた皿とフォークを1つずつ出してシルビアに持たせる。それから部屋にあった椅子を引っ張ってきてシルビアのベッドの横に座る。
 「俺の世界にこんな果物ないからな。」
 1300Kに値切って手に入れたナイフでポラスの皮をリンゴの皮むきの要領でくるくるとむく。
 「よく切れるナイフだなぁ。俺の目に狂いはなかった。」
 全然引っかからないぜ。するすると皮がむける。
 「ナイフなんて頼んだっけ?」
 シルビアが首をかしげる。何を頼んだのかちゃんと思えているみたいだな。
 「思い切り値切って買った。700Kも値切ってやったぜ。」
 そんなこと言っている間に皮がむき終わる。びろろんっと全部繋がっているぜ。さすが俺様だな。
 「結構、いい買い物したみたいじゃないの。」
 食べやすいように切り分けてやろうと思ったら真ん中にでかい種があるのかナイフが引っかかった。
 「桃みたいな感じになっているのか。」
 外見はピンク色のリンゴなのにな。
 真ん中の種を避けるようにして半月型に切り分けて皿に載せてやる。それを待ちかねたようにシルビアが嬉しそうにフォークで刺して口に運ぶ。
 美味そうな顔をするのがかわいいな。
 一切れ切り出すとすぐにシルビアが食べてしまう。
 「おい。俺にも喰わせろ。」
 切ってすぐに口に運んで食べようかと思ったがシルビアが次を急かすので喰えない。
 「私のなんだから喰うな。」
 ひでぇな。
 最後に種を避けて円筒状になったのを口に運ぶ。
 「味は桃だな。」
 結構ジューシーで美味いな。
 「モモって何だ? カズヤの世界にある食べ物か?」
 モモを知らないのか?
 「こんな味の果物だよ。ちなみに俺の世界にはポラスなんて果物はないからな。」
 いまさら気付いたのだが、いつの間にか呼捨てになってる。
 「もう1個喰わせろ。」
 まぁ、この言葉遣いで様付けって言うのもあれだったし、気にしないでおこうか。呼捨ての方が彼氏彼女って感じでいいし。
 「はいはい。今、皮をむきますので少々お待ちを、お姫様。」
 シルビアがご機嫌な顔で俺がポラスの皮をむくのを眺めていた。


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