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2004.11.2


第5話・街(4)




 「なぁ、1000くらい小遣いをくれ。」
 小遣いの交渉をしてみた。
 「イヤ。」
 そう言い捨てて布団を被ってしまうシルビア。
 「そう言わず、1000Kくらいいいじゃねぇか。」
 ベッドの反対側に回って交渉を続ける。しかし、シルビアが寝返りを打って反対側を向いてしまう。
 負けじとベッドの反対側へ移動する。
 「そんな何万も要求しているわけじゃないんだから。ね?」
 またシルビアが寝返りを打って反対側を向いてしまう。再び俺も場所を移動する。
 「シルビアちゃん。頼むよぉ〜。」
 今度はシルビアが「ぐー」なんてわざとらしいいびきをかいて狸寝入りを始める。絶対に小遣いをくれる気なんてないな。
 「おのれ。こうなれば実力行使!」
 がばっとシルビアに飛びつく。財布はシルビアが寝ている間も胸元に入れて持っているのだ。
 「きゃあ! 変態! 雷の精霊よ! 我が敵・・・」
 雷?!
 俺の本能が危険を察知してシルビアからとっさに離れる。それと同時にシルビアの魔法が発動し、シルビアの目の前で火花が散る。
 「ちぃ。体力は戻っていなくても魔法は使えるのか。」
 うかつに襲えないな。
 「闇の精霊よ、彼の者を眠りにいざなえ。」
 眠りの魔法!?
 それから逃れるすべもなく、その場で意識を失ってしまうのであった。目覚めたのは日も沈んだ夕飯時だった。

 次の日。
 「500Kでいいから小遣いをくれってば。」
 朝起きてから小遣いの要求を再開した。
 「お前みたいなガキにくれてやる金なんてないわ!」
 シルビアがベッドの上に横になったまま俺に向かって吐き捨て、反対を向いて布団を被ってしまう。
 「暇だから本とか買って読みたいんじゃあ!」
 独りで街をぶらぶらしても面白くないぞ。
 「暇って、もっと色々とやることあるだろうが。」
 シルビアがまたこっちを向いて言う。
 「やること?」
 何だ?
 「とりあえず、腕立て伏せ100回。」
 はい?
 「その次は腹筋運動100回。それから背筋運動100回。それが終わったらスクワット100回。それを100セットくらいやれば暇潰しになりますわよ。」
 シルビアがおっほっほっほ、とか笑いながら言う。
 「俺に筋トレしろと言うのか!」
 腕立て100回もしたら筋肉痛でこっちが動けなくなるわ!
 「ほら、腕立て腕立て。私が数えてやるから構えて構えて。」
 なんか嬉しそうだな。
 「100回できたら500Kあげるからね。」
 よっしゃあ!
 上着を脱いで腕立て伏せに構える。いやぁ、筋肉ないなぁ・・・。
 「はい、1、」
 シルビアの声に合わせて腕を曲げる。
 「2、」
 いやぁ、腕立て伏せなんて何年ぶりにやっただろう?
 「3、」
 高校入ってからやってないから5年ぶりくらいかな? いや、もっと前だな。
 「4、」
 もう腕がきつくなってきた。
 「5、」
 ぐぅ。
 「6、」
 ぬぅ。
 「7、」
 はあ!
 「8、」
 ふん!
 「9、」
 うぉお!
 「10!」
 もうきつい。
 「11、」
 かなりきつい。
 「12、」
 めっちゃきつい。
 「13、」
 もろきつい。
 「13、」
 げらきつい。
 「13、」
 ん?
 「待てや! 13が3回も続いたぞ!」
 シルビアが「えへ」とか言って舌を出す。
 「ばれちゃあ、しょうがねぇな。何回からだっけ?」
 オイ。
 「16から。」
 「んじゃ、6、」
 気合じゃあ!
 「7、」
 気合じゃああ!
 「8、」
 気合じゃあああ!
 「9、」
 気合じゃああああ!
 「10!」
 ん?
 「11、」
 お?
 「待てや! 21だろうが!」
 またシルビアが「えへ」とか言いやがるし。
 「はいはい、21ね。21、」
 22なんだけどまぁ、1回くらいいいか。
 「22、」
 あれから10回に1回はシルビアがわざと数え間違えて邪魔をするのであった。

 「78、」
 ここで、
 「79、」
 止めたら、
 「80!」
 男じゃ、
 「80、」
 ねぇって、
 「また間違えたぞ!」
 もう気力だけで腕立て伏せをしているのにしっかりツッコミを入れる。1回も引っかからないのでシルビアが面白くなさそうに「むぅ」とか言って眉間にシワを寄せる。
 「ぶぅ、81、」
 また1回間違えたぞ。これで7回くらいカウントより多くなったんじゃないのか。
 「82、」
 く! 気合を入れねば!
 「83、」
 うぉおお、ラスト17!
 「82、」
 ラスト18!
 「81、」
 ラスト19?
 「待てぃ! カウントが減ってる。」
 もう汗だくで肩が痛いんだからそう言うことは止めろって。
 「ちぃ。ばれたか。」
 ばれたかって、まだ1回も引っかかってないんだよ。
 「ラスト10だ。90からカウントしろ!」
 シルビアが面白くなさそうに「はいはい」とか言って返事をする。
 「90、」
 ラスト10!
 「91、」
 ラスト9!
 「95、」
 ラスト5!
 「97、」
 ラスト3!
 「92、」
 ラスト8?
 「ラスト10くらいちゃんと数えろ! 95からだ。」
 ああ、明日は筋肉痛だな・・・。
 「95、」
 ラスト5!
 「84、」
 ラスト4!
 「65、」
 ラスト3!
 「44、」
 ラスト2!
 「ん?」
 ラスト1!
 あ。間違って「ん?」って言うシルビアの声に腕を曲げてしまったじゃないか。
 「早くつっこめ!」
 ツッコミをいれて欲しかったのか・・・。
 それを無視してくっと最後の1回伏せて100回終了!
 「ほら、100回腕立て伏せしたぞ。500万Kよこせ。」
 気合で100回してやったぜ。もう汗びっしょりだ。
 「ちぃ。5回で悲鳴を上げると思ったのに。」
 とか文句をいいながら胸元から首に紐で提げた財布を引っ張り出して硬貨を1枚取り出すシルビア。
 「ほらよ。大事にしやがれ!」
 シルビアが投げた硬貨を受け取って確かめるとちゃんと500K硬貨だった。
 「おお、500K。もう動けん・・・。」
 ぐったり。
 「ほら、次は腹筋運動100回!」
 もうイヤ。
 床に突っ伏したまま1時間くらい動けなかったのであった。それから腕がだるくて、次の日は筋肉痛で腕があげられなかったのであった。


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