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2004.11.12


第5話・街(9)




 『戦記の間』から出て、次に進むと『勇者の間』って言うのがあった。そこでは4人の聖剣の勇者について紹介されていた。
 ここでも壁のスクリーンを使ってプレゼンテーションが行われていた。以下、その概要を説明しよう。

 全ての災厄を滅ぼすと言われるセケルステインを振るうことのできる者を聖剣の勇者と呼ぶ。
 聖剣の勇者は災厄が世界を襲う時に現れ、世界を滅ぼさんとする災厄を打ち滅ぼすのである。
 世界にセケルステインは4本存在する。世界を襲う災厄の度合いによって出現する聖剣の勇者の数が変わる。
 90年前に到来した災厄・ダルメス大戦で出現した聖剣の勇者は4人いる。歴史上稀に見る最大級の災厄であった。
 1人目はかつてのフェスレド王宮騎士団団長アティニア。騎士団を定年で引退するまでセケルステインを振るい続けたそうだ。
 2人目はセルシア王国の第1王子アレン・セルシア。セルシア最後の王族だったアレンがダルメス皇帝との戦いで倒れたことでセルシア王国は2度と復興することはなかった。今も王城が遺跡として残っているらしい。
 3人目はルオンセ王国第3王子ウォーレン・ルオンセ。現在は、ウォーレンの曾孫がルオンセ王国の王をしているとのこと。
 4人目は当時最強の傭兵と謳われたレオ。ダルメス皇帝討伐後、去って行ったレオの行方は不明らしい。
 アティニアの使っていたセケルステインはフェスレド王城に保管されている。祭事には一般公開され、我こそが勇者だって言う若者がこぞってセケルステインを手に取り、持ち上げようとするのだそうだ。アティニアが引退した後、誰一人持ち上げた者は現れていないらしい。
 まぁ、セケルステインを振るえるやつが現れたら一大事なのだからそれは当たり前か。
 ウォーレンのはルオンセ王城に保管されているらしい。もう何十年も一般の目に触れていないので、本当なのかルオンセの王族にしか分からないらしい。
 レオのは行方不明だそうだ。アティニアのとウォーレンのがちゃんと王城に保管されていれば、あのレイシアとゴンザレスが奪っていったセケルステインはレオの使っていたセケルステインってことになるだろう。ウォーレンのが何十年も日の目を見てないって言うからウォーレンのかもしれないけど。
 そして、アレンの使っていたのは聖地グランディフィールドにて眠っているとか言っていた。まぁ、実際は俺が持っているのだけれど、誰も気付いていない様子だ。部屋の中央にセケルステインのレプリカが飾ってあるのにな。
 壁には4人の写真が飾ってある。美形ばっかで嫌になるな。アティニアが美女で良いとして、野郎供も美形ってなぁ・・・。シルビアがその写真と俺の顔を見比べて俺以外に気付かれないように嫌そうな顔をして舌打ちしていた。
 全く、失礼な女だ。


 『勇者の間』から進むと、次は『巫女の間』であった。シンシアとその他、シルビアを除く4人の聖剣の巫女について紹介されていた。
 ここでも同じくプレゼンが行われていた。

 聖剣の巫女とはセケルステインを振るう聖剣の勇者に仕える従者である。
 巫女はミスティアナにある『巫女の郷』にて育成され、郷で最強の魔法使いがその任に当たる。
 聖剣の巫女は先代の巫女が死ぬか、引退することで代替わりする。
 聖剣の勇者1人につき1人の巫女がつく。
 通常、巫女は聖地グランディフィールドにて眠りについており、災厄が訪れて現れた勇者によって起こされる。
 90年前に到来した災厄では聖剣の勇者と同じ数、4人の巫女がグランディフィールドでの眠りから起こされた。
 1人目はアティニアの巫女、アリシア。
 2人目はアレンの巫女、シンシア。
 3人目はウォーレンの巫女、フレア。
 4人目はレオの巫女、セレナ。
 それぞれの写真が壁に飾ってあった。
 俺の独断と偏見ので特徴を述べると、4人ともかなりの美女である。
 一番年配そうなのがフレアだ。見た感じは落ち着いた初老の女性だ。結構、シワが目立つ。しかし、美女だ。あの老いた顔でこれだけ美しいと思えるのは凄いな。若かった頃はどれほどの美貌であったのだろうか。
 それから、アリシアは冷静沈着と言った雰囲気の女性だ。他の3人のようにひらひらとした魔法使い風のローブ姿ではなく、動きやすそうな格好をしている。武術もそれなりなのかもしれない。
 それで、シンシアはおしとやかそうで優しそうな女性だ。シルビアとは大違いだ。
 セレナもおとなしそうな顔なのだが、体の線はかなり艶かしい。なんか気が弱くて断れない性格と言う印象を受ける。
 この部屋にてシルビアの説明はシンシアの後を継いだのがシルビアって言うやつくらいで、他には何の説明もなかった。
 シルビアが何故、紹介されていないのかって言って不機嫌そうにしていた。まぁ、周りの客には分からないように猫被っていたけれども。


 『巫女の間』を後にして次の部屋にやってきた。
 「すげぇ。シルビアばっかだよ。」
 一部屋シルビア尽くしであった。
 その名も『シルビアの間』って言うのだから凄い。さっきの『巫女の間』でほとんど紹介がなかっただけにもの凄い扱いだ。
 部屋の真ん中に金色に輝くシルビアの全身像なんかあったり、壁に何枚ものシルビアの大きな写真が飾られていたり、マネキンが立っていたりする。
 その光景にシルビアが絶句している。
 「あ。シルビアは9月19日生まれか。」
 カレンダーって元の世界と同じなのだろうか・・・。
 シルビアが生まれてからたどった年表みたいなのがあった。生まれた年はエス新暦1209年ってなっている。
 「私の誕生日には豪勢なプレゼントを期待しているぞ。」
 シルビアが耳元でこそっと囁く。
 「あと10ヶ月以上もあるじゃん。俺の誕生日が7月17日だから先によろしく。」
 ざっと見てみるか。

 エス新暦1209年9月19日:父ゴードンと母ルーナの間に生を受ける。
 1221年:12歳より巫女の郷に移り住み、学び舎に入学する
 1223年:14歳にて学び舎を卒業。最年少、最短記録を更新。
 1229年:20歳の時、聖剣の巫女となる。
 1230年:ダルメス皇帝討伐後、聖地グランディフィールドにて眠りにつく。

 21歳?
 「お前、封印されていた時間を引くと21歳じゃん。」
 かろうじて俺より年上だな。丸1年離れていないけど。
 「今年が新暦1310年だから101歳かぁ。」
 101歳でこの童顔・・・。絶対にありえん。
 「なんか、後ろを振り返ったら注目の的になっていたんだけど・・・。多分、お前に注目が集まっているのだと思うが。」
 ふと、振り返ったら囲まれていた。
 「私の美しさに皆が見とれているのよ。」
 おほほ、とか言って猫かぶりモードで振り返って人々に手を振る。
 「し、シルビア様ぁ?」
 まぁ、さすがに部屋いっぱいにシルビアの写真やら像やら置いてあればばれますわな。人々の中にいた青年が声を裏返して驚いた声を上げる。
 「まぁ、私ごときをかのシルビア様と見間違えてくださるなんて光栄ですわ。」
 にこっと笑ってごまかすシルビア。
 「そっくりさん?」
 別の人からそんな声があがる。
 「そんなに似てますか?」
 右手を頬に当てて首を少しかしげる。
 皆して部屋に飾ってあるシルビアの写真と俺の横にいるシルビアの顔を見比べている。いくら見比べてもそんなに違いがあるはずがない。
 「本当にただのそっくりさんか?」
 そっくりさんじゃなくて本物なんだけどな。
 「そんなに似ていると言われるのは初めてですわ。」
 頬を染めて照れる様な仕草をしてみるシルビア。演技なんだよな・・・。まぁ、確かに似ているとは言われたことなかっただろうな。何せシルビア本人なのだから。
 「一緒に写真を撮っていただけませんか?」
 また別の青年が拳くらいの球体を手に持って振りながら訊いてくる。あれってカメラなのか? 魔術式写真機?
 「待てぃ! 人の女に手を出すな!」
 シルビアの肩を抱いて引き寄せて人々を指差しながら叫んでみる。
 「ま、まさか。聖剣の勇者?」
 はい?
 「さもなければあんな男が彼氏のはずない!」
 オイ。
 「そんな、まさか! 災厄が!」
 おいおい。
 「おい、コラ! 俺がこの女とつりあわないとでも言うのか!」
 一同一斉に頷いて見せたり。
 「ぶっ殺す!」
 背中の剣を掴む。
 「待って! 暴力はいけないわ。」
 シルビアが俺の頬を撫でながら困ったような表情を見せる。
 「見かけは確かにつりあってませんもの。」
 このアマ。
 「ここから出るぞ。胸糞悪い。」
 ここで背中のセケルステインを抜いてしまったら完全にばれてしまうな。シルビアがそっくりさんで通っている内に出よう。
 シルビアの腕を引っ張って足早に部屋を出る。


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