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2005.3.6


第6話・城(4)




 「死んだ。」
 走り始めて40分くらい経った頃、やっとスタート地点に帰ってきた。体力の限界で潰れてしまう。
 「大丈夫か?」
 疲労で朦朧とした意識の中、そんな声が聞こえてきたが、答えることができない。
 「モート教官! ダメみたいっすよ。」
 後、20分くらいこうしていれば復活すると思うから放っておいてくれ。
 「本当に勇者なのか?」
 この声はモートのおっさんだな。
 お前ら、聖剣の勇者がどこかの超人とかと勘違いしているんじゃないか?
 「まともに剣を振ったのは昨日が初めてって言うのはウソではないのかもしれないな。」
 ギアトさん。信じてなかったのか?
 「疲労で動けないだけの様だから、少し休ませておけば大丈夫だろう。ほら、お前ら。準備体操が終わったら素振り行くぞ!」
 やはり俺に体育会系は合わないぞ。

 20分後、復活した。
 「まだふらつくけど、何とか動けるようになったな。」
 これは明日まで回復しないな。明日は筋肉痛決定だな。
 「動けるようになったか。なら、練習に入りたまえ。」
 練習?
 ぐるっと周りを見ると、それぞれが剣を持って組み手をしていた。
 「打ち合いなんてできないっすよ。端で素振りでもしてますから。」
 見習い騎士って言ってもなんかやけに動きがいいぞ。2回も打ち返せないと思うぞ。
 「そうか? 皆、勇者殿と打ち合ってみたいと言っているのだがな。」
 止めてくれ。
 「はっきり言って、聖剣がなければ素人以下っすよ。」
 全く持って本当に。
 「それでしたら聖剣を使ってみてくださいな。ちょうど、お持ちいたしましたから。」
 お持ちいたしましたからってお前。
 「うぉ、シルビア!」
 なんか、シルビアとシロがいた。
 「ほれほれ。聖剣があれば素人じゃないんだろ? あたしはまだあんたが聖剣を振るっている所を見たことないんだから、見せてくれぃ。」
 シロがシルビアの頭の上で無責任なことを言ってる。
 「なんで持ってくるかなぁ。」
 シルビアが早く受け取れと言わんばかりに突きつけてくるので聖剣セケルステインを受け取ってやる。
 「これが噂の聖剣ですかな?」
 モートのおっさんと、ギアトさんが興味津々と言った顔で覗き込んできた。打ち合っていた騎士見習いの連中も手を止めてこっちに目を向けている。
 「持ってみますか? マジで重いっすから、腰にだけは気をつけて。」
 鞘から抜いて地面に突き立てる。
 「いや、やめておきます。私たちが聖剣の勇者ではないということはすでに分かっておりますから。」
 ん?
 「そう言えば、盗まれた聖剣はまだ見つかっていないのですか?」
 おとといの話だな。俺たちが城に忍び込んで噴水を見に行ったその時に盗賊が侵入して盗み出していったらしい。
 「全く足取りがつかめていない様ですな。あの厳戒態勢の中で聖剣を封印して、無事に城外へ逃げ延びるのですから、相当の魔法使いですぞ。途中で転移魔法を使ったようですし。」
 盗賊は見つからないか。
 「シルビアが協力しても無理?」
 訊いてみた。
 「聖剣の封印に強力な魔具を使っているようで、気配が全くつかめませんの。」
 無理らしい。
 「シロにも無理?」
 シルビアがダメならシロで。
 「なして、あたいみたいな猫に探せるって?」
 ダメか。
 「聖剣なんて盗み出して何に使うんだろうな。」
 凄い力を持っているのは分かるけど、剣に選ばれなければ持ち上げることもできない剣なのに。
 「一番分かりやすいのは聖剣に秘められた強大な魔力を取り出して魔具や魔法生物を作ることかしら。聖剣セケルステインはこのアユズカカニの中で最も魔力を秘めたものの1つですから。まぁ、聖剣から魔力を引き出せばその気配を感じ取って私がここにその聖剣を召喚してあげられるのですけど。」
 魔具とか、魔法生物とかってなかなかファンタジーですな。
 「そう言えば、もう1本、セケルステインが奪われたよな。」
 俺の声にギアトさんとモートのおっさんが恐い顔をする。
 「もう1本のセケルステインが奪われたですと?」
 知らなかったのか?
 「このフェスレドに向けて荷物を運ぶ一団が封印された聖剣を1本運んでいたんですよ。レイシアってケバイババァとゴンザレスってデカイオヤジに皆殺しにされて奪われたんですよ。」
 あの時の怒りは忘れられるものではない。
 クソ!
 「それは知らなかったですな。もう1本、聖剣がこのフェスレドに運び込まれようとしていたとは。」
 知らなかったのか。
 「犯人の捜索とかされてないわけ?」
 もう事件から2週間過ぎているのに。
 「荷物運びの一団が盗賊に襲われて全滅するということはよくあることですからな。」
 よくあることか。まぁ、振り返ってみればかなり力のある者を揃えておかなければ盗賊かモンスターにやられてしまいそうな道だったな。
 「レイシアとゴンザレスは重罪人って指名手配しておいてくださいよ。魔法使いで厚化粧の女と、マジででかい戦士の男の2人組だから目立つと思うから。」
 絶対に見つけたらただじゃおかねぇ。
 「すぐにでも指名手配いたしましょう。」
 目立つ2人組だからな。すぐに見つかるだろう。


 何だかんだやっている内に朝飯の時間になった。
 「見習い騎士の朝練はどうだった? 私が見に行ったら地面に潰れていたけど。」
 そこからいたのか。
 「もうヤダ。」
 ほんの2時間の訓練で嫌になった。
 「まだ若いんだから、体を鍛えないとダメよん。」
 シロが何か言ってる。
 「まだ若いって、もうハタチ過ぎているしなぁ。後は老いるだけさ。」
 いい事のねぇティーンエイジだったなぁ。
 「聖剣の勇者って災厄を滅ぼす使命を果たすまで老いないって知ってた?」
 え?
 「マジ?」
 何年かかってもいいから絶対に災厄はぶっ潰せってことか?
 「まぁ、使命を果たしちゃうと聖剣を持っていても普通に老いるんだけど。まだ災厄がなんなのか分かっていない状態だから、体を鍛えるのは今からでも遅くないぞ。」
 俺は思い切りスポーツには向いていないんだけどなぁ。
 「朝飯喰ったらまた練習に出るんだろ?」
 どうしよっかなぁ。
 「基礎体力と筋力が足りないからなぁ。あれに混ざる前に走り込みとか筋力トレーニングをせねばついて行けねぇよ。」
 朝はウォーミングアップのランニングでダウンしていたからな。
 「なんでお前みたいなひょろひょろのガキが聖剣の勇者なんかに選ばれたんだろうな。それの巫女に選ばれちゃった私はもっと不幸・・・。」
 悪かったな。
 「それじゃ、シロ。午前中はこいつがちゃんと筋トレするか監視するのよ。私はまたここの魔法使いたちに手解きしてくるから。」
 無理にトレーニングして筋肉を付けなくてもその内に鍛えられると思うがなぁ。この世界には自動車とかないから、旅のメインは徒歩になってしまうだろうからな。
 シルビアが朝食を食べ終わって席を立とうとした所でドアがノックされる。メイドちゃんが皿を下げに来たのかな?
 「お食事中に失礼します。」
 俺が返事をすると、入って来たのはメイドちゃんであった。しかし、いつものメイドちゃんではないようだ。
 「どうかしましたか?」
 シルビアが丁寧な物腰で尋ねる。
 「国王がお呼びでございます。すぐに来ていただけますでしょうか。」
 国王のおっちゃんが?
 「これからうかがいますわ。」
 飯も食い終わっているしな。
 「ご案内いたします。」
 メイドちゃんの案内に続いて部屋を出る。


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