「改めて、セラ・ベルガナと言います。」
現在、ごそごそと引越しの準備をしている。
「早く片付けないと過激派が突入してきますので、急いでくださいね。」
過激派って何だよ! 過激派って。今朝まで極平凡なサラリーマンだった俺様がなぜに過激派に襲われなければならんのだ。
「あ、忘れてました。こちらが契約書になります。こちらにサインしていただきますと、
正式に私たち、黒馬のメンバーとなります。」
びっしりと細かい字でいっぱい書いてあるな。こういう契約書はめまいがしてもちゃんと読まねばならんぞ。
「この命の保障はしませんって、なんだ?」
真ん中辺りに小さく書いてあった。
「えっと、一応、悪の犯罪組織ですから、さっきの雷鷲みたいな偽善者集団に襲撃されたり、国際警察に幹部が指名手配されていて、たまに銃撃戦とかあったりしますから、自分の身は自分で守ってくださいということです。」
おい。
「でも、エル様は大切なお方ですから、私が命に代えましてもお守りいたします。安心してくださいね。」
守る方と言うより守られる方って感じの女だよな。
「まぁ、それなりにリスクはあるよな。」
まぁ、大丈夫だろう。
契約書を読んでいる間もセラが引越しの準備をしていた。
「ん、大体OKだな。世界征服をたくらむ悪の軍団と言うことを頭においておけば納得のいく内容だな。」
他のグループに捕らえられた時、口封じのためにこちらが殺すこともある、とか、組織存続のため、やむを得ず切り捨て、収容人員とともに基地を爆破して証拠隠滅することもある、とかちゃんと書いてあるだけいいか。
「ここにサインだな。」
「あと、押し印か拇印をしていただきたいのですが。」
なんかサイン欄の隣に(印)とか書いてあるし。
サインをしようとペンを紙につけた瞬間、異変に気付く。
「伏せろ!」
叫ぶと同時にセラを押し倒す。
「エル様! 私を抱きたいのでしたらサインをして・・・。」
まぁ、抱きたいのは山々なんだが、今は違う。突然の銃撃音。窓ガラスが粉々になる。ああ、大家さんになんと言おう。ちゃんと弁償してくれるんだろうな?
銃で砕け散った窓からなんか特殊工作員みたいな格好をした黒いやつらが侵入してくる。
「風塵呪符!!」
手に持ったお札が緑の炎を上げて燃え尽きると同時に突風が巻き起こり、窓から侵入してきたやつらを吹き飛ばす。
これは俺様の開発した魔法の1つだ。俺様の魔法については後でじっくり説明するが、特殊な模様の書かれたお札を媒介に発動させるということだけ今は理解していただければいいと思う。
「過激派だなぁ。セラ、迎えはちゃんと来るのか?」
と言いつつ、次の札を取り出し、部屋のドアへ投げつける。氷結呪符。札の張り付いた場所から凍り付いていく。これでドアは開かなくなり、ドアからの新手を防ぐことができるぞぃ。
「そろそろ来ると思うのですが。」
セラが連絡を取ろうと言うのか小型の通信機らしき物に話し掛けている。
「よし、裏の森に回せ!」
部屋の4角に1枚ずつ札をぺたぺたと貼り付け行く。
「セラ! こっちに来い。」
セラが小走りに俺の所へ来る。
「なんでしょう?」
「転送方陣!」
手に持った札と部屋の4角に貼った4枚の札が同時に黄色の炎をあげて燃え尽きると同時に部屋の物が忽然と姿を消す。
「・・・。」
セラが絶句してしまった。
「転移方陣!!」
部屋から俺様とセラの姿も消える。
「ふ、驚いたか? 空間を超越して瞬間移動を行う転移方陣の威力は!」
セラはまだ絶句している。
「お、迎えが来たな。」
向こうに黒い高級車の様な装いの車とでかいトラックがやってくる。
「は! こ、ここは裏の森ですね。」
セラがきょろきょろと周りを見渡している。
「なんだ? 思考が止まっていたのか?」
黒馬からのお迎えの黒い車に乗ってその場からおさらばする。
でかいトラックに“黒馬運送”なんて書いてあるし、本当に世界征服をたくらむ悪の組織なのかってくらい可愛らしいマスコットが描かれている。
引越し用に持ってきたトラックらしいが、荷物は無いので空だ。
「エル様。追手が来ました。」
運転手の黒いグラサンに黒いスーツを着込んだ男が言う。その助手席に乗っていた同じ格好の男が銃を持って窓を開ける。
「この車に銃撃は効きませんから安心してくださいね。」
セラも俺の隣で銃を構えている。
「・・・、追手って雷鷲か?」
とりあえず訊いてみた。
「雷鷲の様ですね。スカウトに失敗したら襲撃するなんて私の言った通りの偽善者集団だったでしょ? あの女の言う偽りの正義なんて言葉に惑わされなくてよかったですわ。」
助手席に座っている男が発砲している。ついでに車の装甲が銃弾を弾く音も聞こえる。
「なんか今朝まで極平凡なサラリーマンだったのに凄いことになっているなぁ。そろそろ昼だけど、俺って朝飯食ってないからハラヘッタんだけど。」
んな場違いな意見を出すやつ。
「あいつらを振り切って、アジトに着くまで我慢してください。」
セラが困った顔をしている。
「て、ことは、あいつらを早く追い払えば早く飯が食えると。」
「まぁ、そうですね。」
「んじゃ、ちょっと窓開けて。」
「危ないですよ。」
「この大魔法使い様々にあんなちゃっちぃ豆鉄砲が効くと思うのか?」
この時代、銃の所持は合法で、街を歩いているとたまに銃撃戦に遭遇するからな。その対策も魔法でバッチリだ。
「・・・。」
ウィーンとモーター音を上げて俺の横の窓が開く。そのすぐ外で助手席に座っている男が発砲している。
「倍化法陣。」
助手席の男の発砲を遮るように魔法円が出現する。それに驚いた男が発砲をを止める。
「この魔法陣越しに狙って撃て。」
男が俺に言われた通り、空中の魔法円越しに発砲する。
どぉーーおおおん!!!
発砲の衝撃で車が少しバランスを崩す。後ろでバズーカを撃ち込まれた様な爆音が鳴り響いた。ちなみに、助手席のおっさんが使っていたのはちゃっちぃピストルだ。
後続の車は1つもいなくなった。と言うか、さっきの1発を受けて吹き飛んだ。ちなみに、引越し用に来ていたトラックは目立つからとか言って別ルートを走っているから大丈夫だ。まぁ、あれじゃ目立つよな。
「さすが、俺様の魔法だな。よし、早くランチに行くぞ。」
車の中はしばらく無言であった。
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