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2003.10.13


第1話 スカウト(4)



どおん!!

 「なんだ?今の揺れは。」
 なんか激しい揺れだったのでさすがに目を覚ます。
 「エル様!捕まっちゃいました!」
 がぼーん!なんか空中に浮いているぞ。
 「磁石か。考えたな。銃弾は弾き返せても磁石にはくっつく。」

ベコ!ベコ!

 ぎょー!ドアが剥がれる。
 「いやぁ〜。流石だのう。」
 「エル様!昨日、使ったテレポートする魔法は使えませんか?」
 アパートの部屋から脱出した時に使った転移方陣だな。
 「いや、あれは1枚しかなかったんだ。」
 昨日の夜に補給しておくんだったな。
 「エル様!下がってください!命に代えてもお守りいたします!」
 セラが俺と場所を換わろうと上に載ってくる。
 「待て待て。こんな狭い所で座席の変更は無理だって。」
 セラが俺の太腿の上に座る形になってしまう。
 「ああ!!エル様ったら不潔!!」
 車の外からそんな声がする。どっかで聞いた声だな。
 「座席交換しようとしたらたまたまこんなになってしまっただけだからな。勘違いするなよ。」
 不潔とか言われて条件反射的にこんな返事をしてしまう。
 昨日、アパートに侵入してきたやつらと同じ格好のやつらが車内に乗り込んでくる。
 「おとなしく、ご同行願おう。」
 八方から銃を突きつけられてはさすがに抵抗は無理だな。しかも足の上にセラが座っているし。


 「エル様!おけがはありませんでしたか!」
 どっかの隠しアジトみたいな場所へ連行された。 俺たちを連行してきた黒服の武装集団の1人がマスクを取って俺に飛びついてくる。 移動中の車両には乗ってなかったな。まぁ、何台か周りを囲んでいたし。
 「昨日、会ったな。」
 昨日、俺をスカウトしに来た丸顔の可愛い胸のでかい女。名前は忘れた。
 「リリスです!エル様が悪の組織に連れて行かれて心配でしたぁ。」
 目をウルウルさせてそんなことを言うやつ。くー、可愛いなぁ。
 「リリス。この男が例の魔法研究家か。想像より若いな。」
 奥の方から野郎がやってくる。
 青い癖の無い長髪。コバルトブルーの鋭い目。見るからに俺の嫌いなタイプなキザ野郎だ。
 「情報では23歳ですよ。」
 キザ野郎の後ろからなんか優しそうな女が出てくる。
 空色のショートカットが清楚な感じを漂わせており、笑顔が美しい。胸は、無いな。あってもBだな。
 「ふん、まぁいい。すぐに次の作戦に行くぞ。ボディーチェックは済んだな。」
 ここに来る途中の車内でボディーチェックされました。俺様のポケットからは紙しか出てこなかった。 メモ帳と言って返してもらっている。しかし、メモ帳ではなく、魔法発動に使う札である。 セラや運転手の野郎とか3人は色んな所から銃とかナイフとか出てきて取り上げられた。
 「すでに完了しております。引き続き次の作戦へ移ります。」
 と、俺たちを連行してきた武装した野郎がキザ野郎に敬礼している。
 「迷惑かけるなよ。エル様。」
 青髪のキザ野郎が俺に言う。めちゃくちゃ皮肉を込めたセリフだな。あの髪を燃やしてぇ。逃げる時にやるか。
 「ごめんなさいね。シャイリースったらあの年でまだ子どもみたいなんだから。」
 と、シャイリースの傍らにいた優しそうな女が謝ってくる。この女に免じて髪を燃やすのは止めておいてやろうか。


 結構大き目のワゴンの後部に乗せられる。左右の座席が向かい合う形になっているやつ。俺と一緒に連れてこられた3人の内2人は別車両だ。 セラが向かいに座っている。俺の隣にあのキザ野郎と昨日の丸顔の女、リリスだったか、が座っている。セラの隣にキザ男の傍らにいた女とキザ野郎に敬礼をしていた武装男が座っている。 他にも武装男と同じ格好のやつら(性別の判定不可)が4人ほど乗っている。んでついでに運転席とその助手席に1人ずつ。
 「ちょっと窮屈ですけど、我慢してくださいね。」
 と、リリスが笑いかけてくる。このキザ野郎の隣って言うのが最悪だな。
 「この偉そうにふんぞり返ったキザ野郎はなんなんだ?あっちのねぇちゃんと席交代してくれねぇ?」
 リリスにそう囁いてみる。頭の後ろでキザ野郎がむっとしている。
 「シャイリース様です。私たち雷鷲最強の剣士として名高い人なんですよ。 安心して護衛を任せてください。」
 ほほう。雷鷲最強の剣士ね。てか、剣って言うのがアナログだな。
 「んで、向こうのねぇちゃんは?」
 ついでだからな。
 「あちらはシャイリース様のパートナーをしているオグさんです。」
 オグか。後でこっそりナンパするか。
 「そんなことより、空港に着くまで時間があるから魔法について教えてよぉ!」
 と、リリスがねだってくる。
 「魔法なぁ。どこまで知っているんだ?」
 人によって理解している所って千差万別だからな。
 「えへへ。興味はあるんだけど、何にも知らないのよね。」
 まぁ、大半はこういうやつだ。色んな先入観のやつがかなりいる。魔法は杖がないと使えないとか、悪魔と契約せにゃならんとか。
 「んじゃ、基礎の基礎から教えてやろう。」
 なんかリリスが目を輝かせている。こいつの年齢ってどのくらいなんだ?18禁のあれができるくらいの年齢には達しているのだろうな?

 「まず、魔法と言うのは“人為的に発生させた特殊な磁場の様な力により、超自然的な現象を発生させる技術”のことだ。 ゲームとかに出てくるあれに似たような物だが、あんなんして使えるやつははっきり言っていない。」
 大昔はいたらしいが、現在はいない。
 「魔法研究と言うのは太古の昔に栄えた俗に言う“魔法文明”の遺跡を発掘して得られる魔法書を解読することだ。 魔法書の解読により、魔法の力を発動させるためのプロセスを発見するのだ。 つまり、太古の昔に失われた“魔法”と言う遺産を復活させることが魔法研究の全てだ。」
 ちなみに魔法書は言うまでも無くたくさん発掘されている。俗に言う紙に書かれた書物であったり、 CDのような電子媒体であったり、壁画であったりと発掘される魔法書の形は色々だ。
 「俺の研究も魔法書の解読がメインだ。原書は高いからそのコピーを研究している。」
 俺の持っている資料は全て複製だ。原書は月給20万弱だったときの年収を1000倍しても足りないくらいの価格となっている。 自分で発掘した方が安いっていうやつ。
 「なんか知らんが、実用段階に入っているのって俺様だけらしいな。」
 「そうなんですよ!魔法研究の権威といえばもっとたくさんいるんだけど、実際に使える人ってエル様だけですからね!」
 「ふ、天才だからな。」
 その事実は昨日、知ったばかりなのだがな。


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