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2003.10.13


第1話 スカウト(5)



 その後、魔法を見たいとか言って駄々をこねるリリスを無視するのに苦労していた。 シャイリースの野郎もリリスを抑えるのを手伝ってくれたから助かった。 まぁ、こんな所で攻撃魔法とか使われたら困るからな。
 そこへ運転席から追手が来たことの報告が入る。
 「来たか。おかしなまねはするなよ。」
 シャイリースって言う野郎が俺の横から立ち上がる。迎撃に行くらしい。
 「オグ。しばらく任せるぞ。」
 と言って、トラックの後ろから出て行ってしまう。って、このトラックって時速80km/hくらいで走っているんだぞ。 まぁ、やつが死んでも俺は困らない。
 野郎が隣から退いて一息ついている所でいきなり爆音が鳴り響く。何事かと思って、トラック最後尾についた窓から外の様子を見てみる。
 「人間技じゃねぇよ。」
 俺が窓から外を見たのは真っ二つになったヘリが落ちていく所だった。シャイリースの剣がきらめく度に追手の車が真っ二つに裂ける。
 「聖剣技って言うらしいですよ。」
 と、セラが言う。
 「何だそりゃ?どっかのファンタジーRPGの世界じゃないんだぞ。まぁ、魔法使っている俺が言えた事じゃないが。」
 あ、ミサイル。ふと、シャイリースの向こうを見ると無数のミサイルが飛んでくる所だった。
 「なんかミサイルが飛んでくる。」
 『え?』
 車内の皆が一斉にそんなこと言ってこっちを向く。
 「とりあえず、俺が守るのは女性優先な。」
 セラ、リリス、オグを背にして魔法発動の準備をする。

 ゴン

 天井に誰か乗った様な音がした。窓の外にいたシャイリースが見えないな。天井に乗ったのはシャイリースっぽいな。
 「聖剣技・舞(まい)」
 そんな声が上から聞こえる。それと同時にトトンっと言う天井の上を走ってジャンプした様な音がした。
 「人間技じゃねぇよ。」
 窓の外でミサイルが次々に切り裂かれていく。その間をシャイリースが剣舞を踊る様に動き回っている。
 「あ、1発落とし損ねてやんの。」
 って、こっちにミサイルが飛んでくるし!
 「障壁方陣!!」

ドォーーン!!

 乗っていた車がミサイルの直撃を受ける。後部座席の大半が吹き飛ぶ。俺の後ろにいた女たちは俺の魔法の障壁で守られ、無傷だが、 前にいた兵隊さんはミサイルで吹き飛んでしまった。ご愁傷様です。
 「エル様!前からも!」
 セラの声に振り返ったが新たに障壁を展開して運転席を守るのは無理だ、と思った時にシャイリースが走り込んでくる。
 「飛び降りろ!」
 と、シャイリースが言う前に俺様はセラを連れて飛び降りていました。シャイリースはオグとリリスを脇に抱えて飛び降りる。 他、生き残りの兵隊さんもシャイリースの後に続いて飛び降りる。その背中で乗っていた車がミサイルを受け、爆発する。
 「飛行方陣!!」
 シャイリースたちは道路脇に着地するが、俺たちは空の上に飛び上がる。
 「皆さん、さよーなら〜!」
 「あ、エル様!!」
 下でリリスが俺を呼ぶ声がする。また会えることでしょう。
 「逃がすか!!」
 ぐお!シャイリースがジャンプしてせまってくる。
 「捕まるかよ!噴水呪符!!」
 手元で札が青い炎をあげて燃え尽きると同時にシャイリースに大量の水が降り注ぐ。
 「ぐおおおお!!!」
 シャイリースは大量の水に押し流されて落下していく。
 「貴様なんかに捕まらねぇよ!」
 シャイリースたちを後に、俺たちは空の彼方へと飛び立っていくのであった。


 「す、凄い。飛んでる。」
 セラが俺の首に力いっぱいしがみついていてちょっと苦しい。
 「危ないから滅多に使わないんだがな。降りるぞ。」
 飛行方陣はまだ動作が不安定でちょっと気を抜くと効果が切れて危ないのだ。
 すとっと、人気の少ない川原に着地する。
 「さて、これからどうする?迎えは来るか?」
 こんな所から歩いて行くのはたるいな。後、移動系で残っているのは水上滑方陣と潜水方陣、飛走方陣の3つだけか。 効果は漢字を見れば大体分かると思うが、水上を滑る様に移動する魔法と水中を移動する魔法、飛ぶ様に高速で走る魔法だ。
 「ここで通信機を使うと雷鷲に場所を教えてしまってダメですね。アジトか合流ポイントまで自力で行くしかありませんね。」
 めんどくさ。
 「んで、それってどこよ。」
 セラが丘に上がって周りを見渡して確認している。
 「この川に沿って下流に行くとセフィラト空港に出ます。そこで仲間と合流できます。」
 そう言えば飛行機に乗るとか今朝、言っていたな。
 「んじゃ、ちょっと来い。魔法でちゃっちゃと川を下ってしまうから。」
 呼ぶとセラが小走りに俺の所へやってくる。
 「横抱きにするのが楽しいけど、疲れるからおんぶだな。背中に負ぶされ。」
 セラに背中を向けてしゃがむ。
 「あ、失礼します。」
 と言って、セラが負ぶさってくる。胸の感触がなかなか。
 「んじゃ、行くぞ。水上滑方陣!」
 魔法発動と同時に川へ飛び込む。セラがちょっと悲鳴を上げたが、無事、水上へ着水する。そのままスケートで滑るように水上を行く。
 「わぁ、エル様の使える魔法を発表したら凄いことになりますよ。」
 凄いことって?
 「空を飛んだり、水上を走ったり、水のない所から水を出したりって、発表されている中でまだ成功例がないんですよ。」
 そう言えば聞いたことないな。
 「能ある鷹が爪を隠してんじゃねぇのか?俺みたいにさ。」
 世界人口は現在、100億超。多分、他にも使えるやつがいると思うぞ。

 しばらく水上を滑っていくのであった。


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