BACK / TOP / NEXT

2003.10.26


第1話 スカウト(6)



 「何とか、飛行機に乗り込めましたね。」
 セフィラト空港の前で襲撃に遭ったが、俺の魔法で一掃した。その後、黒馬の仲間と合流できてなんとか飛行機に乗り込むことができた。
 ちなみにここの部屋にはソファとテーブル、テレビ、簡易バーとかって言うのが用意されていて、足がのびのびと伸ばせる部屋だ。
 「問題はここに来る途中で魔法をほとんど使ってしまったということだな。撃墜されたらやばいぞ。」
 まぁ、俺だけなら撃墜されても脱出して無事、着地する自信はある。しかし、セラも一緒に助けるとなると厳しいか。
 「さすがにエル様の乗る飛行機を撃墜するとは思えませんが。」
 まぁ、やつらが襲ってくるのは俺の魔法研究者としてのキャリアが欲しい訳で、俺に死んでもらったら困るんだよな。 そう考えると、俺の命だけは保障してくれそうだな。
 「それもそうだな。撃墜はなしとしてもハイジャックとかされたりな。」
 わはは、と笑ってみる。

 「本日は黒馬航空をご利用頂き、まことにありがとうございます。私は機長のダイゴロウ・イイヅカです。 ウィングス空港到着は同日8時24分の予定となっております。3時間のフライトをごゆっくりお楽しみください。」
 と言う機長からのアナウンスが入って俺たちの乗る飛行機が滑走路を走り出す。そして、空へ飛び立つ。
 てか、黒馬航空かよ!Black Horse Hotelの次は航空会社かよ!あの始めに迎えに来た時に黒馬運送なんてトラックがいたが、 この全部黒馬が仕切っている会社なのか?
 「そう言えば、言い忘れていたのですが、私たち黒馬は武力行使で勢力拡大していくことは稀でして、 主に経済分野を独占していくことで勢力の拡大を図る方法をとっております。 そのおかげで世界中のいたるところに私たち黒馬の設立した会社が進出しています。 例えばこの飛行機を飛ばしている『黒馬航空』、昨日、宿泊した『Black Horse Hotel』、運送会社の『黒馬運送』、 貿易会社の『黒馬貿易』などなど。あらゆる分野に優秀な会社があります。きっとエル様も私たち黒馬グループの作った製品を使っていらっしゃると思いますよ。」
 あ、そう言えば黒馬ブランドって結構使っているかも。他に雷鷲ブランドなんてのも結構使っているな。
 「雷鷲も似たようなことしているのか?」
 「まぁ、そうですね。私たちが新しい分野に進出すれば雷鷲もすぐに対抗してきますし、その逆もあります。」
 ちなみに、昨日、着ていた服は雷鷲ブランドだ。鷲のワンポイントマークがかっこいいんだな。 黒馬ブランドの黒い馬のマークもなかなかかっこよくて愛用している。
 そういえば色んな所で見かけるなぁ。多すぎて完璧に忘れてた。
 「地域へ勢力拡大は経済政策で行くのですが、対抗勢力に武力行使は当たり前にやっていますから注意してくださいね。」
 敵には容赦なく、その他のやつらにはいい顔をしておくってやつか?

 「そう言えばハラヘッタ。飯!」
 すでに時計は5時を過ぎている。昼飯をこの機内で食べる予定だったからハラヘッタ。
 「はい。今、ご用意いたしますね。」
 といって、セラが部屋から出て行く。
 「全く、散々な1日だな。今朝、ホテルから出ると同時に襲撃され、雷鷲に捕まって護送中に黒馬のミサイル攻撃に遭い、 川を下って空港に到着したらまた雷鷲に襲われ、飛行機に乗ったら離陸後すぐにハイジャックされるという。」
 てか、確認していないのにハイジャックされるのを確信しているやつ。
 「エル様・・・。ハイジャックされてしまっているみたいです。」
 セラが両手を挙げた格好で部屋に入ってくる。
 「ハラヘッタ。ハイジャックされててもいいから飯を食わせろ。」
 腹が減ると血糖値が下がって怒りっぽくなる。
 「と、言ってますので、食事を用意させていただけないでしょうか?」
 と、セラが手を挙げたまま部屋の入口で言う。
 「まぁいいだろう。おかしなまねをするなよ。」
 なんかセラの後ろから男の声がする。ハイジャック犯の仲間か。セラが部屋から出て行って、 入れ替わりに黒髪の野郎が入ってくる。てか、いいのかよ。
 「お前がエルか。俺はガイン・イーグル。よろしく。」
 なんか自信に満ちた目をしているな。何の自信か良くわからんが、なんか何でもできるぞ、みたいな顔をしている。
 「エル・ハウンディーアだ。昨日の晩から何も食ってなくて空腹で死にそうだ。早く何か食わせろ。」
 昨日の夕飯は8時くらいだったからかれこれ21時間ほど絶食していることになるのか。 朝飯いらないからもう少し寝かせて、なんてだだこねるんじゃなかったな。朝飯はちゃんと食べましょう!
 「今、女が用意しに行ったみたいだから少し待ってろ。その間、話でもしよう。」
 野郎と2人きりで話なんてしたくないな。
 ガインと名乗るハイジャック犯が俺の向かいにあるソファに座る。
 「俺はお前が俺たちの活動に賛同して力を貸してくれることを願っている。」
 さよか。
 「俺たちの活動は世界を真の平和へと導くことにある。今、世界のいたる所で戦争が行われている。 その戦争をなくし、人々に平穏な暮らしをさせたいのだ。」
 まぁ、がんばってくれ。
 「いさかいの解決を話し合いだけで解決したいのだが、実際にはそうも行かず、やはり力が必要だ。 お前の持つ魔法の力があれば無駄な血を流さずにいさかいを解決できると思っている。 魔法は破壊の力だけではないのだろう?傷を癒す再生の力や、人の心に干渉する力なんかだ。 その力で世界を導いていけば血は流れなくていい。」
 まぁ、確かに破壊の力が魔法の全てではない。実際、俺様の使った魔法は大半が回復魔法、精神干渉魔法、移動魔法で攻撃魔法は大して使ったことがない。 昨日、今日は身を守るために多少使用したが、人を殺すまでの威力はないはずだ。
 「魔法は万能ではないぞ。」
 力説するガインにそう口を挟んでやる。
 「分かっている。お前の力だけで全てが解決するとは思っていない。しかし、真の平和へ近付いていくことはできるはずだ。」
 そうか?
 「お前に守るべき人はいるか?」
 いきなりガインがそんなことを聞いてくる。
 「その大切な人が戦争に巻き込まれたらどうする?ってつなげるのか?」
 ガインがぴくっと反応する。
 「そうだ。大切な人が危険にさらされない世の中を作っていこうとは思わないか?」
 そんなもん、人の心と運次第だ。
 「危険のない世界はないぞ。できるのは少なくすることだけだ。ちなみに俺様に大切な人はまだいないぞ。 親はすでに死んでいるし、恋人もいないからな。」
 セラとかリリスなんかが好みだが、どうするかな。
 「惜しいな。大切な人が1人でもいれば迷わず俺たちに賛同できるのに。 黒馬なんて犯罪組織に入ってみろ。その大切な人の全てに迷惑がかかるんだぞ? 国家警察や対抗勢力にプライバシーや命を狙われ、まともな生活ができなくなるぞ。」
 まぁ、世界征服をたくらむ悪の組織なんだよな。セラが白状していたしな。目的のためならば手段を選ばず、 それが法に触れている時もある時もあるとか。
 「俺をスカウトに来た子がお前の所は偽善者集団だとか言っていたが、それはどういうことだ?」
 まぁ、正義の組織と名乗っている時点で偽善者決定だが。
 「決して偽善で活動しているわけではないぞ。俺たちがしているのは平和推進活動だ。 まぁ、力が及ばずなかなか成功しない時もあるから偽善に見えるのだろう。 お前の力があれば俺たちの活動は成功し、偽善者集団とは言われなくなるだろう。」
 偽善者集団と言われているのは分かっているのか。なんか表情が硬いな。まだ原因がありそうだな。
 と、そこへセラが食事を持ってやってくる。


BACK / TOP / NEXT