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2003.10.26


第1話 スカウト(7)



 「お待たせしました。」
 ごろごろと料理の載った荷台を押してセラが部屋に入ってくる。なかなかいい匂いだ。さらに腹が減ってくる。
 「なかなかいい匂いだな。」
 と、俺の前に座るハイジャック犯が言う。食べる気か?
 「予定にない貴方の分はありませんからね。諦めて退いてください。」
 ハイジャック犯が眉をひそめる。
 セラが俺の前のテーブルに料理を並べていく。
 「どうぞ、エル様。」
 いただきます。いきなりメインらしき肉料理を口に運ぶ。う〜ん、美味美味。
 「おい。目の前にむさくるしい野郎の顔があると飯が不味くなる。退いてセラに席を譲れ。 お前は疲れている女性に席を譲ってやるという優しさはないのか?」
 びしっとハイジャック犯のガインにフォークを突きつけて言う。俺の言葉に従ったのか、ガインが席をセラに譲る。
 「私も朝ごはん食べてなかったんですよ。」
 と、セラも俺の分と一緒に持ってきた自分の分の食事をテーブルに置いて、ガインの退いた席で食べ始める。
 「お前らの食事を見ていたら俺も腹が減ってきたな。お前ら黒馬の幹部はいつもそんな豪華な食事をしているのか?」
 なかなか豪華な食事だよな。俺がサラリーマン時代には滅多にお目にかかれなかったくらいのメニューだ。
 「これは黒馬航空ファーストクラスのお客様にお出ししているメニューですよ。 黒馬航空ファーストクラスをご利用いただければ食べられます。」
 と言って、セラが食事を載せてきた荷台から何かパンフレットみたいなのを出してガインに渡す。 それは黒馬航空の宣伝パンフであった。
 「は!料金がめっちゃ安いな!今度、私用で飛行機使う時は黒馬航空を使うか。」
 おいおい。
 「そんなことよりだな、お前の力を我々に使えば世界が真の平和へぐっと近付くんだよ!」
 と、横でガインが力説している。
 「お、この白いやつめちゃくちゃ美味いな。なんて料理?ってか、何これ?」
 「白子じゃないですか?良くわからないですけど。」
 と、俺らはガインの力説を無視して食事に舌鼓を打っている。 てか、ハイジャックされていて横にその犯人がいるのに緊張感ないなぁ。
 「聞けよ!」
 横でガインがきれてるし。それを無視して食事を続ける。
 そこへガインの懐から何かピーっと言うアラームが鳴る。
 「!!」
 それにガインが驚いて部屋から出て行く。何事だ?
 「エル様。ソファの下にパラシュートがついてますから。」
 パラシュート?
 「下の仲間が作戦に入ったんだと思いますよ。こんな上空で銃撃戦になるとは思いませんけど、 万が一ってありますからその時はパラシュートを着けて、そこの緊急脱出口から脱出することになります。」
 緊急脱出口って書いてあるし。
 「それなら早く飯を平らげてしまわないとな。」
 何かあってもいいように目の前の食事を急いで食べてしまおう。また次の食事が20時間後とか言ったら困るからな。

 数分後、なんか機体が揺れてきた。
 「なんかやけに揺れるな。」
 「機体に穴とか開いちゃったかしら?」
 と言いつつ、セラがソファの下からパラシュートを取り出し、装着している。俺も装着するか。
 パラシュートを着け終わった所で、いきなり傷だらけの野郎が部屋に入ってくる。
 「エル様!雷鷲のやつらが機体に穴を開けてしまいました!」
 や〜ん。
 「ぐあ!!」
 突然、報告にしてきた野郎がぶっ倒れる。その背中はバッサリと切り裂かれていた。
 「悪いな。間もなくこいつは墜落する。俺たちの脱出ポットにおとなしく乗ってもらおうか。」
 と、ハイジャック犯のガインが血塗れの剣を持ってそんなことを言っている。
 「俺たちはお先に降りるぞ。」
 ガションッと緊急脱出口のドアを開ける。それと同時に吸い出されるようにして外に放り投げられてしまう。
 「おおおおおお!俺ってスカイダイビングは初めてだ!」
 空を飛ぶのはやったことあるけど。
 ぱさっとパラシュート展開。俺の下でセラもパラシュートを開いている。
 ふと横を見ると煙を上げている飛行機がどんどん高度を落としていくのが見えた。セフィラトからウィングスまで陸の上を飛んでいくわけだから、 落ちたらかなりの被害が出るなぁ、と思いつつ、今の俺には何もできないのでそのまま見送るしかない。

 俺たちがまだ空を漂っている間に飛行機は緑の多い山の中腹に墜落した。街中よりは幾分被害は少ないだろう。
 俺たちの他にパラシュートで飛んでいるやつらがかなりいる。飛行機に乗っていたやつらの大部分は脱出したようだ。 その向こうにパラシュートのついた結構でかいカプセルが飛んでいる。 ガインの言っていた脱出ポットか?デザインがダサいな。
 とりあえず、セラから離れないように調節しつつ、降下していくのであった。


 「エル様!」
 道路脇の草原に降り立った。セラも近くに降りたのですぐに合流できた。
 「さて、これからどうする?」
 「えっと、街まで歩きですか?」
 セラの顔がちょっとひきつっている。
 「迎えは?」
 「通信機を使うと雷鷲に場所が知られてしまって大変です。」
 ぐ。
 「ここどこ?」
 「良くわかりません。あ、あの看板に“ヴァスタ”って書いてありますよ。上から見た時は近くに家とかありませんでしたね。」
 ヴァスタなんてマイナーな地名でよく分からん。
 「とりあえず、どっちに行けばいいんだ?」
 ああ、道のどっちを向いても地平線が見える。
 「あっちです。私たちの乗っていた飛行機は向こうからあっちに向かって飛んでいましたから、向こうに行けば目的地のウィングスに近付けるはずです。」
 面倒だから魔法使うか。
 「あっちだな。魔法使って行くからこの前みたいに負ぶされ。」
 セラに背中を向けてしゃがむ。
 「また、失礼します。」
 背中にセラが負ぶさってくる。大きな胸の感触がなかなか。
 「行くぞ。飛走方陣!!」
 ポケットから出したくしゃくしゃのお札が燃え尽きると同時に足の裏が光りだす。
 「しっかり捕まっていろよ!」

ドン!!

 1歩目を思い切り蹴る。
 「きゃああ!」
 物凄いスピードで走る。飛ぶように走る。実際、次を蹴るまでに時間があるから飛んでいるに近い。
 「わぁ、すごい!」
 セラが俺にしがみつく腕に力を入れながら、背中でこのスピードに感動している。

 数分後、ビル群が見えてくる。


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