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2003.11.1


第1話 スカウト(11)



 「俺、エル・ハウンディーア。そっちの黒髪がセラで、こっちがルーファだ。君は?」
 「リタって言います。」
 列車の進行方向を前にして座席を説明しておくと、俺の左手に窓。正面にリタ。右隣にルーファ。右斜め前にセラだ。
 列車に他の乗客が見えないのが怪しいが、まぁ、気のせいでしょ。
 「リタちゃんか。ウィングスまで5時間。旅の友に君みたいな可愛い子が増えてラッキーだよ。」
 わはは!と、かなり不自然に明るく振舞っているが、リタちゃんは警戒してしまっているな。
 「ウィングスに一人旅って言っていたけど、いつもはどこに住んでるの?」
 まぁ、話をしているうちに和むでしょ。
 「あ、えっと、ニューヨークです。皆さんは?」
 「俺はウィングスに引越しなの。そっちは同棲で、こっちは良くわからん。」
 同棲って言うのにセラが少し困った顔をする。
 「私はウィングス在住だよ。」
 ほほう。ちょくちょく遊びに来てセラとの愛の育み邪魔されそうで嫌だな。
 「大学進学って言っていたよね。どこの大学?俺はセフィラトにあるエスビンゲン情報科学大学なんていう3流大学の卒業なんだけど。」
 かなり遊んでいましたな。親の残してくれた遺産でバイトもせず、遊びほうけていた。 んで、勉強もせずテストでしっかり点数取れていたものだからな。
 「ニューヨーク周辺の大学をいくつか受験して合格発表待ちなんです。皆さん、大学のサークル仲間とかだと思っていたんですけど、違うんですか?」
 大分、和んできたな。
 「全くもって違うぞ。あのおっさんなんて定年間近のじぃさんだからな。」
 「あ、見た目相応の年齢だったんですね。あのふけ面を理由にパシられているのだとばかり思っていましたよ。」
 まぁ、そんな感じに使っているけど。
 「そう言えば俺が23って言ったけど、お前らって何歳なんだ?セラは20代で間違いねぇとして特にお前が気になる。」
 低く見れば16とかに見えないこともないし、高く見れば30代前半くらいに見えるし。
 「私みたいな乙女に歳を聞くなんて失礼だけど、特別に教えてあげるわ。」
 ルーファが人差し指で頬をぐりぐりと突いてくる。
 「お前と同い年だよ。」
 ぐりぐりって、止めろよ。
 「23か。まぁ、そのくらいだよな。んで、ちなみにお前は?」
 ついでにセラにも聞いてやる。
 「え、今年ちょうど二十歳になったばかりです。」
 「おお!ハタチか!ほほう。黒馬に就職して2年くらいか?ルーファは10年くらいやってそうだけど。」
 ルーファが再び人差し指で頬をぐりぐりと突いてくる。痛いからやめろって。
 「まぁ、2年目です。」
 「私はまだ5年目よ。マルコスはもう40年くらいのキャリアだけど。」
 皆、18くらいからか。
 「黒馬ってあの2大企業の内の片方ですよね。出張ですか?」
 2大企業?黒馬ってそんなに有名だったのな。知らんかった。
 「まぁ、出張だな。そう言えばあのおっさん遅いな。何、やってんだ?」


 その頃、マルコスは人知れず戦闘中であった。
 「おらあああ!!」

どごぉ!!

 「ぐあああ!!」
 マルコスの鋭い回し蹴りに銃器で武装した雷鷲の戦闘員が端まで吹き飛ぶ。その巻き添えに何人かが倒れる。
 「ぐ、つえぇ・・。」
 マルコスの回し蹴りを喰らった戦闘員がぐったりと気を失う。
 「撃て!撃て!相手はたった一人だぞ!」
 4丁の銃がマルコスに向けられ、引き金が引かれる。

ドン!ドン!ドン!

 「おらああ!!」
 銃弾がマルコスに向かって何発も放たれる。しかし、マルコスに全く傷がつかない。
 「く、何だこいつ!!」
 銃が効かないと思ったのか銃撃が止む。
 「このままウィングスまで行かせてもらうぞ。」
 マルコスの握られていた拳がゆっくりと開く。そこからぱらぱらと何かが落ちる。 床に落ちたのはさっき放たれた銃弾であった。それに雷鷲の戦闘員が後ずさる。
 「しばらく眠っていてもらおう。」
 「ぎゃああ!!」
 マルコスの蹴りで雷鷲戦闘員が全滅する。
 「ふぅ。車内販売なんてやっていないじゃないか。仕方がない。戻るか。」
 マルコスの去った後には叩きのめされた雷鷲戦闘員が無数に横たわっていた。


 「あ、おっさん!おせぇよ!何時間かかってんだよ!」
 マルコスのおっさんが後ろの車両からやってくる。
 「車内販売はやっていなかったぞ。」
 マルコスのおっさんは手ぶらだ。
 「何?!しょうがねぇなぁ。車内販売がねぇのなら昼飯どうする?次の駅で降りて買うか?」
 今、10時50分。昼飯にはまだ時間があるが。
 「この電車って駅で何分も止まりませんよ。」
 と、セラが言う。
 「うっそ〜ん。やはり朝飯は食ってくるべきだな。ハラヘッタ。何か食うもんねぇの?水はたくさん出せるんだけど。」
 魔法使ってな。
 「あ、そう言えば昨日、ガインって人からもらったお菓子がありました。」
 ガイン?どっかで聞いたな。
 「これです。結構美味しかったですよ。」
 リタがバックからお菓子の箱を出してくる。
 「・・・『雷鷲饅頭』っすか。」
 ガインってそう言えば、昨日のハイジャック犯。
 「ガインって、あのガイン・イーグルですよね。こんなの食べて大丈夫ですか?」
 セラが心配そうな顔をしている。リタが食ったって1つ空いているから毒は入っていないと思うが。
 「ガインさんと知り合いなんですか?親切な方ですよね。ガインさんのお仲間はちょっとあれでしたけど。」
 ・・・・。
 「知り合いって言うか、昨日、ちょっとな。」
 ハイジャック犯だしな。
 「ねぇねぇ!ガインって誰?誰?」
 そう言えばルーファは昨日、飛行機に乗っていなかったな。


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