朝の通勤ラッシュの中をセラが法定速度50キロオーバーで走り抜け、15分で黒馬ビルに到着する。
今朝も後ろに乗っていたルーファは15分間無言であった。
「おい。もっと安全運転しないか?」
お前の運転はマジ恐いぞ。
「えへ!」
セラが思い切り笑顔でごまかす。このかわいさに普通の男ならころっと騙されるぞ。
「さ、行きましょう。」
セラが笑顔のまま何事もなかったかのごとく車を降りる。まぁ、いい。とりあえず下車。
「最初はメズキ様とゴズキ様ですね。」
ああ、馬面と牛面か。
「あ、私の上司じゃん。地下の訓練施設に行くの?」
地下に訓練施設なんてあるのか。
「そうですね。」
と、言うことでルーファも一緒に行くことになった。
「ここが戦闘員訓練施設だよ。」
4重のセキュリティチェックがあってやっとたどり着いた。なんかコンクリート剥き出しの壁が奥まで続いているし。
「あ、ゴズキ副隊長はもういるみたいだよ。」
と、ルーファが言う。どこに牛面がいるんだ?まぁ、なんかおー!おー!みたいな叫び声が聞こえるが、
これが牛面の声か?
「私、着替えてくるから、じゃね!」
ルーファが走り去っていく。元気な女であった。
「それでは私たちも行きましょう。」
セラに続いておー!おー!って言う声に向かう。
おー!おー!って声はハゲでマッチョのゴツイおっさんがでっかい鉄鎚を素振りしている掛け声であった。
その向こうで物凄い冷たい表情のめちゃくちゃ美人の女がそれを眺めている。
「エル様。あちらにいらっしゃるメズキ様に粗相がないようにお願いいたします。」
セラがこそこそっと小声で俺に耳打ちしてくる。あの美女がメズキか。全然馬面じゃねぇじゃん。
「おはようございます!メズキ様、ゴズキ様。」
セラがぴよっと進み出て頭を下げる。
「おお!セラ、久しぶりだな!日々、鍛錬しとるか!」
がっはっはっは、とハゲでマッチョのおっさんが物凄い声量で言う。コンクリート壁の地下室に響く。
「はい。こちら、ご紹介いたします。今度、魔法研究所に配属になったエル・ハウンディーア様です。」
セラが2人に紹介するので、とりあえず「よろしくお願いします」と無難なあいさつをしておく。
「エル様、こちらが戦闘部隊隊長メズキ様です。そしてあちらが副隊長のゴズキ様です。」
メズキが見下すような目で笑顔を作ってこっちを見る。ゴズキの方は俺の両手をがしっと掴んで「よろしく!」なんて熱血なあいさつをしてきた。
「お前があの噂のエル様か。魔法が使えるんだってね。」
メズキが見下すような冷たい視線で俺をあざ笑うかのごとく言う。なんだろう?この蛇に睨まれているような錯覚は。
「まぁ、それなりに。」
それなりにな。
「ふふ、ちょっとお手並み拝見させてもらっていいかしら?」
と言って壁にかかった剣を取って俺に向ける女。練習用らしく、刃は潰されていて切れることはないが、
殴られたらかなり痛そうだ。
「一応、魔法使いですから、剣は全くダメですよ。」
触ったこともないぞ。
「ふふふ。ならその魔法でいなしてごらんなさい!」
いきなりの鋭い突き。体の真ん中、みぞおち直行コースだ。しかし、
常時使用している銃弾をも弾き返す護衛鎧方陣がオートでメズキの突きを弾き返す。
「きゃあ!エル様!大丈夫ですか!」
セラが泣きそうな顔になって心配してくる。
「なかなかやるみたいね。練習用の剣で先が丸めてあるから死ぬまで行かなくても悶絶するくらいの突きだったのに。
ふふ、弾き返してくれるんだもんね。」
マジでびびったぞ!何してくれるんだ?この女は。
「がっはっはっは!メズキの突きを弾き返すやつなんざ、久しぶりだな!」
ゴズキのおっさんはがっはっは、と盛大に笑っているし。
「魔法の力かい?凄いね。あれだけ支払っても欲しくなるわけだね。」
メズキもふっふっふっふ、なんて笑い始めるし。
「もう!エル様は戦闘訓練を受けた人じゃないんですから!」
その笑う二人に怒るセラ。メズキって怖いなぁ。
「あ!生きてる!うそ!メズキ隊長の突きを交わしたの!凄い凄い!」
なんか後ろからルーファが飛びついてくる。交わしたんじゃなくて弾き返したんだがな。
「あら?ルーファのタックルは弾かないのだな?」
メズキが不思議そうな顔をしている。
「女の子の抱擁まで弾き返したらもったいないだろうが。」
ルーファってかなり胸でかいなぁ。背中が気持ちいい。
「ふふふ。そうか。」
メズキまで抱きついてくる。こいつも引き締まったプロポーションがなかなか魅力的だな。
「ふふふ。落ちなさい。」
突然、メズキの腕に力が入る。
「ぐえ!」
サバ折りってやつか!い、息ができん!
「きゃああ!エル様!!」
あああ、目がかすむ。
メズキの抱擁で悶絶してしまうのであった。こういうやつの対策もしておかねばならんな。
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