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2003.11.22


第2話 黒馬(7)



 「気がつかれました?」
 ふと意識を取り戻すとセラが俺の顔を覗き込んでいた。なんか体の所々が痛いのだが。 あ、あのメズキって言う凶暴女にサバ折り喰らったんだったな。
 「あの女にリベンジ決めてきていいか?」
 ズタズタのぼこぼこにしてやるぜ。あんな初対面の俺様に凶悪な突きを繰出してきて、 それが効かないと分かったら諦めればいいのにサバ折りなんてしてきやがって。
 「ダメです。本当に怒らせたら暗殺されちゃいますよ。」
 めっと、子どもを叱る様にセラが言う。
 「ちぃ。今に見ておれ。」
 俺の主義はやられたらきっちり返してやる主義だ。
 「これと言ったけがはないそうですから、あいさつまわりを再開しましょう。」
 面倒だな。
 「面倒だ。あいさつに行くたびにさっきみたいなことをされるのは嫌だ。 さっさと魔法研究所とやらに行くぞ。」
 他に薬品研究所とか兵器開発研究所とかあるらしいじゃないか。魔法が使えるからって実験台にされたら死ぬわ。
 「でも、それぞれの部署と連携をして研究を進めていくのが基本ですからしっかりあいさつに行かないと。」
 連携?
 「俺の魔法研究はずっと1人でやってきたんだぞ?いまさら他のやつと協力してできるか!」
 いつまで寝ていてもしょうがねぇな。起きるか。
 「ダメです!黒馬と言う組織の一員になったのですから1人でやるなんてダメです!」
 セラが怖い顔して力説してくる。その勢いに圧倒されてしまった。
 「しょうがねぇなぁ。あいさつまわりはしてやるけど魔法が使えるからって何かの実験台にされたらそこでやめるからな!」
 それなりの兵器、毒物と言った危険な物を回避できるように魔法がかかっているから命に関わることは起きないと思うのだが、 世界最大規模の組織が抱える研究施設だからな。何があってもおかしくない。しかも悪の組織だからな、 きっと非合法な危ないことばかりしているのだろう。
 「実験台なんて誰もしませんよ。さっきのメズキ様は特別なんです。私もあそこで訓練を受けた初日にメズキ様に剣で突かれましたよ。」
 おい。
 「誰にでもやるのかよ。」
 てか、お前はその突きを食らって大丈夫だったのかよ。
 「私は全然反応できなくて、寸止めされてしまいましたけど。きっとエル様の時も寸止めしたと思いますよ。」
 まぁ、俺の体から30p離れた場所で弾き返すように設定してあるからな。寸止めするのならその内側で止めるだろう。
 「はいはい。あいさつまわりすればいいんだろ?さっさと行って終わらせるぞ。次はどこだ?」
 面倒だがセラの顔を立ててあいさつまわりをしてやろう。とりあえずベッドから降りる。
 「はい!次は兵器開発研究所管理責任者ウィルソン様です。」
 セラが笑顔で答える。こういう美人が怒るとかなり鋭いが、笑っている顔が一番綺麗だな。
 つーことで、ここはどこよ。医務室か何かか?カーテンに仕切られたスペースから出るとベッドがいくつも並んでいた。 そのいくつかのベッドが俺の所みたいにカーテンで閉じられている。誰か寝ているのであろう。
 「気がついたようだな。エル君。」
 きょろきょろしていると後ろから男の声で呼びかけられる。振り向くとドクタールックで頭に丸い鏡をつけたおっさんがいた。 ここの診療医か?
 「先生、ありがとうございました。」
 セラが頭を下げてお礼を言っている。それにつられて頭を下げてしまう。
 「エル様。こちら、ここの診療所で医者をしていらっしゃるジンナイ・テライ先生です。」
 ふ〜ん。野郎の名前に興味はないな。
 「ここは黒馬ビル内にある診療所なんですが、何か事故があった時など、病院より早いここで治療を受けることができます。 一応、黒馬所属の人は無料で診察していただけます。」
 便利だな。
 「まぁ、ここは暇なのに限る。あんまりけがしたり病気になったりするなよ。 ぶっちゃけ、誰もこなければ仕事せずに給料が出るからな。」
 さよか。
 「それでは先生、失礼します。」
 診療所を後にする。

 「診療所は1階にあるのか。」
 エレベータに乗って分かった。
 「兵器開発研究所は地下2階になります。」
 ちなみにメズキの凶暴女のいた戦闘員訓練施設は地下5階だ。
 数秒で地下2階に到着し、エレベータの扉が開く。

 「ウィルソン様、いらっしゃるかしら?」
 確認しておけよ。
 なんか自動車整備工場の様な部屋をセラに続いて奥へ進む。あんまり人がいないな。
 「いつもはいるんですけど・・・。」
 きょろきょろと部屋の中を探すと物陰でタバコをふかしているツナギ姿のにぃちゃんを発見する。
 「あの、すみません。」
 とりあえず、見つけた人に聞いてみようってやつ。セラがタバコのにぃちゃんに話し掛ける。
 「おう、何だ、ねぇちゃん。」
 タバコのにぃちゃんが口からタバコを放して明るく返事をする。感じはよさそうだな。
 「ここの責任者、ウィルソン様にお会いしたいのですが。」
 「いねぇよ。」
 にぃちゃんが笑顔のまま即答してくる。
 「今朝、新しい武器が完成してそのテストに出て行ったみたいでよ、皆、出払ってんだ。」
 何でお前はここにいるんだ?
 「俺は今朝、寝坊して遅刻しちまってよぉ、おいてかれちまったんだ。」
 そうか。
 「いつ頃、お戻りになるかしら?」
 セラが問う。
 「1週間くらい帰ってこねぇんじゃねぇの?」
 あいさつは来週だな。
 「そうですか。ありがとうございました。」
 セラが丁寧にお礼を言う。
 「なんだ、ウィルソンのおっちゃんにあいさつなんて新人か?て、するとあの噂のエル様か?」
 噂って何だ?
 「あ、はい。こちらが今度、魔法研究所に配属になるエル・ハウンディーア様です。」
 ちぃ―っす、とあいさつしてやる。
 「ほほう!魔法が使えるそうじゃねぇか!後でご教授願おうか!」
 わっはっは!とか、笑うにぃちゃん。
 「俺はジャン・ベルクマンだ。ここの兵器開発研究所で研究員やってんだ。よろしく!」
 ジャンってにぃちゃんが握手を求めて手を差し出してくる。気さくなにぃちゃんそうなので握手してやる。


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