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2003.11.23


第3話 魔法文明(1)



 セラ手製の美味い夕飯の後、研究室(俗に言う趣味部屋)にて魔法について講義を開始する。
 「これから俺様の魔法について講義を開始する。てか、たいした内容じゃないから気楽に聞いとけ。」
 セラがなんかバッチリ、メモ帳にペンを持って物凄い真剣な眼差しで俺を見ているので、気楽に聞け、と付け加えておいてやる。 しかし、セラの姿勢はたいして変わらないし。
 「えっと、まず、魔法について語るには魔法文明について語らねばなるまい。 セラ君。魔法文明についてどのくらいのことを知っているかな?」
 生徒は1人しかいないからな。
 「今から約4000年前に滅びた、現在の文明の前身となる文明です。
 魔法文明の時代に生きた人々は魔法の様な超能力を使用し、自然の全てを支配していたといいます。
 その栄華を極めた魔法文明が滅びた理由として、強大な力が暴走して文明を滅ぼした、と言う説や、 凶暴なモンスターが大量発生してそれが文明を滅ぼした、と言う説など色々な仮説が立てられていますが、 いまだに原因はわかっておりません。
 現在、魔法文明があったと言う痕跡は地中に埋まる遺跡と言う形で見ることができます。 遺跡から発掘される魔法文明の遺産は我々に大きな恩恵を与えてくれます。 しかし、そのリスクなのか魔法文明の遺跡には大量の凶暴なモンスターが生息しています。
 現在、遺跡を発掘しているグループで最も規模の大きいのは我々黒馬グループの発掘チームと我々と敵対する雷鷲グループの発掘チームです。 今の所、我々黒馬グループが発掘に成功して出土品を独占できている遺跡は4つあります。 対する雷鷲グループは6つあります。他に発掘された遺跡は世界中に3つあり、 その内1つは観光名所となっています。
 えっと、私の知っていることはこのくらいです。」
 俺の知らないことまで知ってやがるし。
 「ああ、そう言えば一般公開されているローラチア遺跡。俺も行ったことあるぞ。なかなか面白かった。 でも立ち入り禁止の所が多かったり、ヘボヘボな物しか展示してなかったりでちょっと不満だったな。」
 1日に平均で1000人ほど入る有名な観光名所だ。ちなみにローラチアっていう所にあるからローラチア遺跡だ。
 「まぁ、それはいいとして、君の知るとおり、魔法文明が滅びた後に今の文明が栄えているわけだ。」
 滅びた理由は色々あるが、俺の信じているのは力の暴走で滅びたって言うやつ。 滅びたって言うか強過ぎる力を封印して文明を捨て去ったというやつやな。これは俺の独断なので何の根拠もない。
 「まず、魔法文明の遺跡は地中に埋まっている。 何か災害のような物があって地中に沈没したというのが定説だ。俺の意見としては故意に埋めたんだと思うが、 まぁ、その辺はよく分からん。」
 突然の災害で埋まったのなら一緒に埋まっているはずの人って言うのが全く埋まっていないのよね。 遺跡内に生息するモンスターに骨も残さず喰われたというのが定説だが、ちょっとくらい残っていてもいいだろう?っていうやつ。
 「魔法文明の遺跡から発掘されるのは大きく分けて3つある。
 1つ目は魔法文明時代に作られた品物だ。現在の科学力では構造の分からない物が数多く存在する。 もちろん兵器なんかも出てくる。薬なんかはかなり凄い。飲むと瀕死の傷が一瞬で回復するなんて物もある。
 2つ目はモンスターだ。魔法文明の遺跡には宝を守る番犬のごとくモンスターが大量に生息している。 モンスターを発見した、と言うことは近くに魔法文明の遺跡があるというのに等しいくらいだ。 実際、現在発見された遺跡はモンスターが見つかって、その周辺を調査した所で入口を発見したというのが全てだ。 物凄く危険な生物だな。
 3つ目は遺跡その物だな。遺跡その物も立派な発掘品だ。特に壁画なんて最高。たまに魔法の奥義とか書いてあるからな。 遺跡内部の写真なんて集める価値はある。
 以上3つが魔法文明の遺跡から発掘される物だ。」
 そう言えば自分の手で遺跡発掘したいなぁ。発掘された物を買うと物凄い値段になるのだが、自分で発掘すればただだからな。 まぁ、発掘するための設備費はかかるけど。
 「えっと、続きな。魔法文明時代に作られた物の中で『魔法書』と呼ばれる魔法について記録された書物がたくさんある。 魔法書の媒体は紙だったり、CDみたいな電子媒体であったり、色々だ。 一番多いのはCDだな。小さいのに大量のデータが記録できるって言ってたくさん使用されていたようだ。」
 現在、いたる所で使用しているパソコンは実の所、魔法文明の遺跡から発掘された技術を使用している。 だから遺跡から発掘されたCDはそのまま普通に使えるのだ。 データ構造が微妙に違ってビット列になってしまうこともあるが、そのくらいは翻訳するソフトが出回っている。
 「CDのデータは色んな所をハッキングすればただで手に入ったから結構持っている。 だけど、俺の研究でたいして使えないものばかりで持っているだけ、って言うやつ。」
 持っているけどあまり見ないってやつ。
 「ここで俺の魔法研究の仕方を教えてやろう。まずは書庫から持ってきた魔法書の写し、紙バージョンをぱらぱらっとめくって観察してください。」
 書庫から持ってきた魔法書の写しをセラに渡してぱらぱらとめくらせて観察させる。
 「ぱらぱらと見ていくと魔法書の中に大きく分けて2種類の情報があるのがわかるかな?」
 セラが首をかしげる。魔法書に書かれている物がただの記号列にしか見えていないようだ。
 「まず1つ目は、常人には解読不可能な記号列だな。そしてもう1つ、図だ。文字と一緒に図が入っているだろ? 記号列が劣化してつぶれたわけじゃないぞ。」
 セラがうん、と頷く。
 「俺の魔法研究はその図だけを見るのだ。」
 文字は全く解読せず、図だけ見る。卑怯だな。
 「大抵の科学者はがんばってそのわけの分からん記号列を解読しようとするんだ。 文字の説明を読んで図の意味がわかる、とか言ってな。でも、図だけ眺めるだけでも内容はわかるんだな。」
 新聞は見出しだけ読むってやつだな。
 「こちらの2つをごらんあれ。」
 魔法書の写しの1ページと、俺の作った魔法カードだ。
 「あ、同じ図柄ですね。」
 魔法書の写しに描かれている図と、魔法カードに描かれている図は同じ図だ。
 「同じ図だ。ここから写しただけの物だからな。」
 そうなんだ。
 「ま、こういうことだな。」
 俺様がなぜ、文字を解読していないのに魔法を実用段階に持っていくことができた理由が分かったかな?
 原理は分からないのだが、図を別の紙に写して念を込めたら魔法が発動してしまったっていうやつ。
 「・・・・要するに、魔法の原理については何も分かっていないということですね?」
 なんかセラが飽きれた顔をしている。
 「原理は分からずとも使えればいいのさ!パソコンの中身がブラックボックスでもゲームが動けばそれで楽しいのと同じさ!」
 わはははは、と笑ってごまかしてやる。


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