「エル様。今日から本格的にお仕事をしていただくわけですが、何をなさいます?」
朝食を食べている横でセラが今日の予定をどうするか聞いてくる。今日の朝食はハムエッグだ。卵がちょうどよく半熟でなかなか美味い。
「お前とセ○クス。」
びしっとセラのチョップが額にヒットする。さらっと澄ました顔で流すと思ったが、思わぬツッコミだな。
「魔法書に書かれている言語の勉強なんてどうですか?」
全くやる気ねぇみたいだな。てか、声が冷たくなった気がする。怒っているのか?
「昨日、講義してやっただろ?文字なんて読めなくても魔法は使えるようになるんだって。」
俺は自慢じゃないが魔法研究者のくせに魔法書が読めないからな。
「文字が読めるようになれば魔法が発動する原理も分かってくるようになると思いますが。」
なんかセラの声が冷たい。
「そんな勉強より、遺跡発掘したい。黒馬が発掘している魔法文明の遺跡って結構あるんだろ?
俺も発掘現場を見てみたい。」
これはマジ。ずっと発掘現場を見てみたかった。しかし、一般には危険だからと許可が下りることはない。
「遺跡ですか。そうですよね、魔法の研究者なら魔法の原点である魔法文明の遺跡を見たいですよね。」
セラの声がいつもの優しい声になる。
「やっぱりエル様でもモンスターを相手にするのは危険ですから、モンスターのあまり出ない遺跡を見学しに行きましょう。
もう大分発掘されてしまった遺跡なんですけど、一般公開されていませんから楽しめると思いますよ。」
お!いけるっぽいな!
「それでいいや。行くぜ!早速行くぞ!」
セラはじっくり時間をかけて攻めて行けばいい。こうやって長く仕事をしていれば次第に素直になるだろう。
「あ、少し書類手続きとかありますから行くのは明日になります。」
やはり今日中に行くっていうのはダメか。それでも明日、行けるって言うのは手続きが早くていいな。
またいつも通り法定速度50キロオーバーの運転で黒馬ビルにやってきた。さすがに3回目になると少しは慣れるが、
セラに声をかけるのはちょっと怖いから15分間無言であった。
「私、これから書類手続きをしてきますので、エル様は研究室で研究員の皆さんと雑談でもして過ごしていてください。
魔法文明の文字を勉強していただけると嬉しいのですけど。」
まぁ、趣味で魔法研究するのならまだしも、魔法研究で金をもらうわけだからちょっとくらい勉強した方がいいよな。
「シャロン辺りにでもご教授願おう。」
昨日、聞いたのだが、魔法研究所責任者シャロンは10種類ある魔法文明の言語を全て読めるのだそうだ。
「研究室までの道のりって覚えてます?」
あ。
「昨日はあいさつまわりであっちに行ったりこっちに行ったりして道なんて覚えてない。」
案内してもらわねば確実に迷う自信があるね。
「このビルって広いですからね。研究所までご一緒します。」
それは助かる。
魔法研究所は黒馬ビルの4階にある。エレベータで4階まで上がると降りてすぐの所に研究所が入っている。
入口からエレベータまでの道順と4階と言うことだけ覚えておけばいいな。
「到着しました。それでは私は手続きに行ってきますね。」
そう言うセラとエレベータの中で別れる。
「おはよう!」
俺のあいさつに「おはよう」と言う返事は帰ってくるが、雑誌から顔を上げることのない研究員仲間の3人。
シャロンは来ていない様だ。
「おい。いつも朝はこんな感じなのか?」
その問いに野郎その1が顔を上げる。
「シャロンさんが来るまでこんな感じだな。シャロンさん、いつ来るか分からないからあんたも何か本とか持ってきた方がいいぞ。」
今日は手ぶらだ。
「雑誌ばっかで仲間内で雑談とかしないのか?」
俺の問いに答えてくれた野郎その1の所に椅子を運んで雑談モードに入る。
「雑談はするけど、まだこの雑誌が読み終わってないからな。読み終わったら雑談に切り替わるな。」
早く続きが読みたいから他に行けって言っているような感じだな。まぁ、野郎と話していても楽しくないな。
女の所に行こう。
「おはよう!新しい仕事が入ったよ!終わったらこの金で飲みにいくよ!」
椅子を運んでいる所にシャロンが登場。紙の束を片手にはしゃいでいる。
「まだ9時過ぎですよ。今日は早いっすね。」
野郎その1が雑誌から顔を上げて言う。今日は早いっていつもはどのくらいに来るんだ?」
「ほらほら仕事仕事!新しい魔法書よ!今日はこれの解読ね。この前は焼き鳥だったし、研究費も上がったから今回はもっと高いのいく?」
おお、新しい魔法書とな。てか、仕事の後は飲みに行くのが慣例なのか?
「とりあえず、そこで立っている君。これを5人分にコピーしてきて。」
と言ってシャロンがコピーの束を俺に渡す。
「とりあえず、コピー機ってどこにあるんだ?」
まぁ、新人だから雑用くらいはやってもいいが。
「ああ、昨日、来たばかりだったわね。う〜ん、案内するわ。」
シャロンに続いて研究室奥に向かう。
シャロンは相変わらず露出度の高い服の上に白衣を羽織る服装をしている。
プロポーションが抜群にいいからその白衣の後姿もなんとも艶かしい。
「これがコピー機ね。研究費の大幅アップのおかげでついに買い換えちゃった新品なのよ。大事に使ってね!」
なんかゴミみたいな紙の山の中にピカピカに光るコピー機が置いてあった。
「使い方は、そこのマニュアルを読んでやってね。後で教えてくれると助かるなぁ〜。」
買い換えたばかりで使い方が分からないのかよ。
「これは前の職場で使っていたから。まず、電源を入れて、ここにこの束を置いて、ここで用紙サイズと印刷数の5部をセット。
ポチッとスイッチを押せば印刷開始っと。」
一際でかい『スタート』ボタンをぽちっと押す。すると1枚ずつコピー元の紙が取り込まれて印刷がされる。
「意外と簡単だったわね。」
横に置いてあるマニュアルの本はめちゃくちゃ分厚い。まぁ、トラブルシューティングとか色々書いてあるのだろうが、
必要なことはあれだけだ。
「それじゃ後はよろしく♪」
しばらく印刷される風景を眺めていたシャロンが去っていく。100枚以上あるみたいだから時間もかかるだろう。
後は印刷が終わるまで待っていればいいのでその辺に置いてある紙束を物色しようか。
「これって全部製本されていない魔法書のコピーじゃん。」
おお!俺の見たことのない挿絵が。後でコピーして持って帰ろう。
ほこり塗れになりながら物色を続ける。
「お、出来上がったな。」
印刷が終了した。一抱えもあるコピーの束を運ぶ。
「できたぞ。」
部屋に戻ると皆、雑誌を読んでいた。シャロンも爪とぎなんてしていた。
「あ、できた?そこのテーブルにおいて。」
どさっとな。俺用に1枚ずつ取っていく。ちゃんと1部ずつ分けてくれる機能もあるのだろうがそのやり方は知らない。
「155ページあるから1人31ページのノルマで解読してね。」
155÷5(俺を含み)で31っすか?
「あ、俺って魔法書の文字読めない。」
昨日、説明した通り、俺は魔法書に書かれている文字は全く読めない。
『え?』
一同が驚愕の顔で俺を注目。皆、俺がスラスラと解読できる物とばかり思っていたようだ。
『・・・・・・。』
しばらくの沈黙の後、野郎その1が俺に魔法書の読み方を教えながらの解読となった。
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