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2003.11.24


第3話 魔法文明(4)



 「今日は何をしていらっしゃいました?」
 仕事が終わり、今はセラと並んで駐車場に向かっている。
 「魔法書の解読をしていた。」
 今日の魔法書は『イングリッシュ』と呼ばれる種類の言語で書かれていた。 比較的現在使われている言語に近く、発見される数が多いのですらすら読める魔法研究者は多い。 今日の魔法書の解読は昼過ぎに終了していた。午後からは翻訳に間違いがないかチェックしていた。 俺はひたすら野郎その1に解読の方法を習っていた。
 仕事終了後の飲み会は高級料理店で宴会をしようということになって、来週ということになった。 今日は普通に解散となった。
 「少しは読めるようになりました?」
 セラがなんか嬉しそうだ。
 「今日は1ページ解読したぜ。」
 2/3くらい野郎その1に教えてもらったがな。
 「そのコピーの束はなんですか?家に帰ってからも勉強するんですか?」
 セラが本当に嬉しそうにしている。真面目に勉強してくれることがそんなに嬉しいのか。
 「ああ、研究所にたくさん見たことのない魔法書が置いてあってな。その挿絵部分だけコピーしてきた。 明日は新しい魔法を拝ませてやるぞ。」
 実験もかねてな。
 「明日は発掘現場の見学ですからあまり夜更かししてはダメですよ。」
 あ、そう言えば。
 「明日、行けることになったのか。どこどこ?」
 めっちゃ楽しみ。
 「ヤスニソス遺跡です。私たち黒馬が独占発掘している遺跡の中で最大規模の遺跡ですね。 もうほとんど発掘が済んでいて新しい発見は時々しか出てこないみたいですけど、 遺跡の規模はローラチア遺跡の比じゃありませんから楽しみにしていてくださいね。」
 ローラチア遺跡は一般公開されている観光名所だ。俺も行ったことがある。 ヤスニソス遺跡は聞いたことがないな。多分、ヤスニソスっていう所にあるのだろう。
 「それは楽しみだ。」
 セラにスカウトされてからかなり充実な日々を送っているな。毎日が楽しくてしょうがない。 娯楽の趣味を仕事にしたくらいだからな。楽しいのは当たり前か?


 次の日。
 「エル様、起きてください。またこんな所で寝ちゃったんですか?」
 体を揺すられて目を覚ます。ん?ここはどこ?
 机に突っ伏して寝ていた様だ。きょろきょろと周りを見渡すと自宅の研究室の様だ。 ああ、昨日は新しい魔法開発でもらってきた魔法書のコピーを分析していたんだな。 それでいつの間にか寝てしまったのか。
 「シャワー浴びてくる。そこに積んである切り分けていない魔法カードのコピーに鋏を入れて魔法カードにしてくれると助かるな。」
 と、指を刺した先に分厚い紙の束が置いてある。
 「あ、はい。この線に沿って切ればいいんでしたよね。」
 前にもやらせたことがあるからな。要領は分かっているようだ。
 「それじゃ任せた。」
 シャワーを浴びに浴室へ向かう。


 「ヤスニソス遺跡!黒馬所有の遺跡で最大規模を誇る魔法文明の遺跡!」
 眼下に夕焼けで染まる遺跡が見える。・・・夕焼け?
 「って、今日、遺跡発掘できるんじゃなかったのか?!」
 地平線に沈んでいく太陽が見える。
 「意外と時間がかかりましたね。」
 家を8時に出て1時間のドライブの後、飛行機に乗って4時間。さらに迎えの車に揺られて2時間。さらに車から降りて3時間登山した。
 「もう日が沈んじまったじゃねぇかよ!発掘している人たちは皆、引き上げちまったぞ!」
 俺が見ている前で発掘していた人たちが引き上げていくのであった。後に残った人は警備員らしい。
 「今日は現場監督に話を聞きに行きましょう。概要が分かっている方がたくさんまわれていいんじゃないですか?」
 しょうがねぇなぁ。
 「んじゃ、現場監督にでも会いに行ってくるか。」
 セラの後に続いてこのヤスニソス遺跡の発掘チームリーダーをしている人に会いに行く。

 「こちら、このヤスニソス遺跡発掘現場の責任者をなさっているジルキス・レイクウッド様です。」
 と、セラが紹介する。土木作業着を来たおっさんだな。やけにでこが広い。
 「それからジルキス様。こちらがエル・ハウンディーア様です。」
 とりあえず握手なんかしてあいさつする。
 「明日はこいつを案内につけるから、詳しいことはこいつに聞いてくれ。 ライナ。俺は明日の打ち合わせがあるから後は任せたぞ。」
 と、ジルキスのおっさんの斜め後ろに控えていた女に後を任せて部屋を出て行ってしまう。
 「始めまして、ライナです。」
 とりあえず、握手って手を差し出してくるので握手してやる。ライナは続いてセラにも握手する。
 ぱっと見、オレンジ色の短い髪をした美女。スタイルもなかなか。
 「私、ここで魔法研究の研究者をやっています。」
 研究者か。
 「俺はおととい黒馬の魔法研究所に所属したばかりなんだ。新人だからよろしく。」
 ライナがにこっと笑顔を作る。
 「黒馬ビル・ウィングス中央本部の魔法研究所ですよね。あそこの研究所って超一流の研究者しか配属されないんですよ! 憧れちゃいますね。」
 そうなのか。あのやる気のない連中が超一流ねぇ。
 「それじゃ早速、遺跡の概要を説明しますね。」
 と言ってライナがテーブルの上に大きな紙を広げる。
 「こちらが現在、発掘されている遺跡の見取り図になります。途中で途切れている先はまだ発掘されていない部分です。 えっと、途切れているって言ってもここしかありませんね。」
 もう建物の全体像が分かるくらいに出来上がっている。
 「研究の結果、ここは魔法文明時代の軍事施設らしいです。兵士の訓練場として使われていたみたいです。」
 ほほう。魔法文明にも兵隊さんっているのか。まぁ、兵器みたいなものが結構出てくるからな。
 「発掘された物の大部分はすでに運び出されてしまってほとんど残っていないんですけど、 ブレイズウェポンは運び出せないのでそのまま放置してあります。」
 と、ライナが『B.W』とかかれた部屋を指差す。多分、Blase Weaponの略。
 「ブレイズウェポンって何?」
 魔法は詳しいけど、魔法書以外の発掘された物についてあまり知らないからな。
 「あ、知らないんですか?ちょっと待ってくださいね。写真を持ってきますから。」
 と言って、ライナが部屋から出て行く。


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