「クレストの封印が解けてますね。」
調査結果はこれだ。
フレリアによると、祭壇にはクレストと呼ばれるエネルギーを封印した球体が捧げられていたらしい。
「あうぅ。真っ二つに割れてます。」
祭壇には真っ二つに割れた水晶球の様な物が転がっていた。
「そろそろクレストって何なのか教えてもらってもいいか?研究者としてめちゃくちゃ気になってしょうがないのよ。」
この前、聞いたら祭壇で話すとか言って説明がなかったからな。
「お話しましょうか。部屋の入り口はエル様の結界で塞いでありますから、休憩がてらお話しましょう。」
適当な所に3人で座る。
「クレストは紋章のことです。実物があった方が説明しやすかったんですけど、こんな状態ですからどこから説明したものか。」
フレリアが割れた球を抱えている。
「えっと、とりあえず、あなたたちが魔法文明と呼んでいる時代に存在した魔法からご説明いたしますね。」
しばらく説明的な話が続きます。退屈だと思いますが、
我慢して聞きましょうって長話の嫌いな自分に言い聞かせている。
「最初は人に聞いた話なんですけど、魔法文明が栄える前にもう1つの文明があるんですね。その当時は全く魔法の存在は一般に知られておらず、空想世界の話だけだったそうです。」
今もほとんどの人は魔法なんて空想世界の話だけと思っている。まぁ、俺様は使ってしまっているからあれだが。
「一応、科学技術が発達して幸せな暮らしをしていたそうです。」
ふと、セラの方を見るとしっかりとメモ帳とペンを構えてフレリアの話に集中していた。さすがだな。
「ある日、世界を『原初の炎』と後に名づけられる災害が襲ったんです。
それは地球上に生息するあらゆる生物の生態系を変異させ、全く別の生物へと変換してしまったそうです。
もちろん人間も変化してしまい、人間と呼べる物ではなくなってしまったそうです。」
どっかで聞いた様な聞かなかったような。
「『原初の炎』によって変化した生物はモンスターと呼ばれました。さっき倒してきたモンスターと同じ様な感じですね。
当時から姿を変えずに残っているモンスターって言うのは世界中を探してもいないのですが、
特徴は大して変わっていないらしいです。」
モンスターは専門外だ。魔法文明の遺跡に一緒に埋まっている凶暴な生物ってくらいの認識しかない。
「特徴をあげますと、まず、一番の特徴は黒目と白目の境がないってことですね。
ちょうど私の目みたいな感じです。モンスターの定義から言うと、私達もモンスターに分類されてしまいます。」
オイ。
フレリアの外見は普通にいる人間と大して変わらないのだが、目と耳だけは特徴的だ。目は赤く、黒目と白目の区別がない。
耳はエルフと言う空想そのままに尖っている。
「次の特徴は魔法が使えることですね。さっきは魔法を使う隙を与えずに倒してきましたけど、
魔法を使ってきます。
レッサービーストは『ストーンクラッシュ』と呼ばれる地属性の攻撃魔法を使ってきます。空中に岩を出現させて投げつける感じですね。
ケイブビーは『バレット』と呼ばれる無属性の攻撃魔法を使ってきます。高密度なエネルギー弾を弾丸の様にして飛ばしてきます。
レッドスライムは『メルト』と呼ばれる無属性の攻撃魔法を使ってきます。強力な酸で対象を溶かしてしまいます。
ちなみに私たちはモンスターの中でもかなり上位の部類なので複数種の魔法が使えます。」
なんか、RPGのゲームみたいやのぅ。
「どんなやつが使えるんだ?俺の魔法を見せてやったんだからお前も見せろ。」
フレリアがそれにちょっとひく。
「え、えっと、ですね。私、ちょっとまだ未熟でですね、あんまり使えないんです。帰ったら長老様に見せてもらってください。」
面白くねぇの。
「続き、いきますね。モンスターが魔法を使えるのは体内に『ジュエル』と呼ばれる高密度のエネルギーの結晶体を持っているからです。本当に宝石みたいな結晶ですから、『ジュエル』って呼ばれています。このジュエルを見つけた当初は新エネルギーとしてかなり使われていたそうですよ。」
現在の主なエネルギーは魔法文明の遺跡から発掘された未知のエネルギー炉だ。まぁ、専門外だから構造は全く分からんし、
研究している人もあまり分かっていないらしい。
「えっと、後、モンスターの特徴はピンからキリまで色んなのがいるって事ですね。原初の炎以前より100倍以上に種類が増えたそうですよ。」
生物学者は大変だな。
「続いて『魔法』についてもう少し掘り下げて説明いたしますね。
『魔法』は元々、モンスターの特殊能力だったんです。それを変化を免れた人間達が研究して自分達も使えるようにしたのが魔法文明を支えた魔法の前身、『ジュエル魔法』です。
モンスターの体内に含まれるジュエルの内、眼球が一番密度が高いんです。だから、モンスターが魔法を使う時は目が光るんですね。覚えておくとモンスターと戦う時に便利です。
えっと、その眼球から魔法エネルギーを抽出して『ジュエル魔法』として発動させる装置が発明されたんです。当時はジュエル魔法を身を守るためにも使ったそうで、ジュエル魔法の発動装置はこのくらいの箱に軽量化されて使用されていたそうです。」
フレリアが手で5p位の四角を作る。1辺5p位の立方体らしい。
「えっと、今は多分、残っていないですね。ジュエル魔法の発動装置はその形状から『キューブ』って呼ばれていたんですけど、
すぐにキューブを持ち歩かなくても魔法が使えるようになる技術が発明されてしまいましたから。それにモンスターを倒して、眼球を手に入れないと魔法が使えないというデメリットがありますし、あれで意外と荷物になってとっさの判断を要求する戦闘ではなかなか使いにくかったそうです。」
俺の使う魔法のデメリットは俺しか使えないということだな。
「えっと、キューブなしで使えるようになったのが、魔法文明の時代に使われていた魔法ですね。」
やっと魔法が出てきたな。
「早い話が、キューブにセットして使ってたモンスターの眼球を同じ種類で固めて大きくした物を作っただけです。
魔法を発動させる指輪みたいな装置を持ち歩いて、遠距離からその魔法エネルギーを受けて魔法を使っていたんです。」
携帯電話みたいなやつか?
「ここからぐぐっとクレストに近づいていきますけど、どんどん固めて高密度に精製していったんですね。
本当に極限まで精製するとそのエネルギー体に紋章みたいな特殊な模様が浮き出てくるんです。
その模様が浮き出てきたエネルギー体を『クレスト』って呼んだんです。
だからクレストは紋章なんです。」
長かったな。
「魔法文明の栄華を極めた当時はこの『クレスト』が本当に洗練され、
人間達は全てを支配できる力を持っていたいました。
クレストにはそのクレストの属性に応じて『ファイアクレスト』とか、『アクアクレスト』とかって言う名前がつけられていたんです。その方が識別しやすいですから。皆、それぞれ特殊な属性を持っていたんですね。
ここでですね、馬鹿なことを考える人がいまして、全ての属性をもつクレストや、属性をもたないクレストを作れないかってやった人がいるんです。成功しなかったんですけど。
その人は全ての属性が光と闇と言う2つの属性に分けることができることに注目して光と闇の属性をもつクレストを1つずつ作ったんですね。光属性のクレストは主に生物に生きる力を与える治癒とかっていう魔法が集中して、闇属性は生物を滅ぼす破壊の魔法が集中したんです。そこから『ライフクレスト』、『デッドクレスト』なんて名前が付けられました。
続いてその2つをあわせて全ての属性を持ち、さらに属性を持たないクレストを作ろうとしたんですね。
これが失敗しちゃって、凄いことになったらしいですよ。
この失敗でクレストを危険視する人が増えちゃって、クレストが封印され始めたんです。すると、魔法が使えなくなりますから反対する人もたくさんいたんですけど、封印推奨グループと反対グループの抗争でまたクレストが暴走しちゃって。
そんなこんなで全てのクレストが封印され、人々は全てを地中に埋めてしまいました。
と、いう話です。」
話が終わったようだな。
「全てを埋めてしまいましたって話の終わりが極端だな。」
別に埋めなくてもいいだろうが。
「魔法が使えなくなると意味のない物が増えすぎちゃって、再建するのに邪魔だったんです。面倒だから地中に埋めてしまおうってね。」
オイ。
「えっと、ちなみに、ここには話に出てきた『デッドクレスト』が封印されていました。
エル様の魔法ってこういう封印の解けたクレストからエネルギー供給を受けて発動しているんだと思います。」
そうなのか。
「そう言えばな、俺が魔法を使う際に使用する魔法カードな。魔法毎に特殊な模様を描くのよ。
これとクレストって関係あるのか?」
とりあえず、1枚フレリアに見せてやる。
「あ、ファイアクレスト。いちばん有名なクレストです。ちなみに、このデッドクレストの封印解除で使えるようになりませんから、この他にも封印の解かれたクレストがありますね。」
分かるやつにはこの模様が分かるのか。ちなみにフレリアに見せたのは炎の魔法、火炎呪符だ。
「エル様って、この紙1枚で魔法を発動させるんですか?」
フレリアが不思議そうな顔をしている。
「その通りだ。まぁ、どうして使えるのかはよくわからんが。」
話を聞いても俺の魔法については大して分からなかったな。
「魔法文明の人たちはクレストからのエネルギーを受信する指輪とかを持ち歩いていたらしいですよ。
どうしてこんな紙で魔法が使えるのかしら。それにブレイズウィップなんてホント使える人なんていなかったんですよ。
不思議です。」
フレリアが魔法カードに何か細工がないのか真剣に観察している。
「俺様が天才だからな。」
そう言えば、挿絵に注目するやつらって結構たくさんいそうな気がするが、俺みたいに使えるのっていないんだよな。
謎だ。俺様が天才であるとしか考えられん。
「えっと、仕事はこのクレストの確認で終了なんですけど、帰ります?」
かなり休憩したしな。
「帰るか。」
あの来た道を帰るのは最悪だが。
「それじゃ、気合を入れて帰りましょう!」
もと来た道を帰るのか。最悪だ。
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