「帰ってきました?」
セラの声がする。
「タイムは?」
ちょっと離れた所にいるセラが手に持っているタイマーを確認する。
「31分23秒です。」
ああ。30分前後が限界だな。
「大して変わらんな。」
練習してどうにかなるものじゃなかったか。
「エル様。今日は何を見てきたんですか?」
セラがコーヒーをカップに注ぎながら聞いてくる。
「雷鷲の総帥の顔が見えた。その奥さんが美人でなぁ。どう見ても40過ぎに見えないよな。」
よなって聞いても分からんか。
「42歳ですよ。雷鷲の総帥フィネルソスが46歳で、その奥さんアリーシャが42歳。その息子のガインが23歳。
エル様と同い年ですね。確かにそんな大きな息子さんがいるようには見えませんよね。」
見たことあるのかよ。
「はい、どうぞ。」
「ん、ありがと。」
もう砂糖とクリームの調合は言わなくてもいい。ここで生活を始めてかれこれ5ヶ月になるんだよなぁ。フレリアが来て1ヶ月か。
フレリアはいつもどこかに出かけていてほとんどいないから前と大して変わらないけど。
今、練習している魔法は『意識転送陣』(俺の命名)って魔法で、意識だけを遠くに転送して遠くの風景を見ることができる魔法だ。
これを開発した当初、セラの入浴を覗くために作ったのだが、意識が遠くに飛びすぎてダメだ。
「ハラヘッタな。今日の飯は何?」
まだ3時なんだけど。
「今日はそうですね、ハンバーグなんてどうです? 今日は早めに夕飯にしますね。」
お。ハンバーグか。ちょうどハンバーグが食いたいなぁとか思っていた所なんだよ。
「楽しみにしているからな。」
セラの料理は何を食っても美味いのだがな。
「んで、今日の仕事は何なんだ?」
夕飯にハンバーグを食べた日から3日が過ぎている。次の日から南米に出張に来ているのだ。
「遺跡の調査です。」
隣でセラがうつ伏せになって双眼鏡を覗いている。
「遺跡の調査ってなぁ、何でこんな所で隠れているんだ?」
なんか知らないけど隠れているのよ。
「ここが雷鷲の所有する遺跡だからです。見つかったら大変ですから隠れているんですよ。」
はぁ?
「意味、わからんし。俺は普通の研究員の1人であってドンパチやるのが仕事じゃないぞ。」
物陰から遺跡の様子を見ると機関銃を持って周囲を警戒している兵隊さんがたくさん見える。
「やっぱり、私達って悪の組織ですから、正義の組織の邪魔をしないと。」
オイ。
「ここにはクレストがあるっていう話ですから雷鷲なんかに渡すわけにはいかないのです。」
最近になって知ったのだが、黒馬と雷鷲でクレストの取り合いをしているんだってな。
クレストとは俺の使う魔法のエネルギー源で魔法文明時代を支えた物凄いエネルギーの結晶体なのだ。
そんな凄いものを手に入れれば兵器に使ったり、単純にエネルギー資源に使ったりと色々な用途があるのだ。
「もうすぐ作戦決行の時間ですね。ルーファさんたちの所へ戻りましょう。」
なぜに遺跡調査に戦闘員であるルーファとマルコスのおっさんが同行するのか気になっていたのだが、こういうことかよ。
「やれやれ。」
2日前。夕飯に和風キノコハンバーグを食べた次の日、研究所に行くと仕事の依頼が来た。
「おい、エル! 迎えに来てやったぞ!」
元気な女がやってきた。ルーファだな。今日はマルコスも一緒のようだ。
ルーファとはエルウィップを手に入れてから戦闘訓練を受けるようになったから部署が違うのに週3回は顔を合わせている。
しかも、俺宅の住所を知っているから月1回くらいの割合で遊びにくるし。
「お、エル。かわいい子じゃん。デートか? セラちゃん、譲って。」
同僚のジャックがなんか言っている。
「今日ってなんか約束していたっけか? てかまだ仕事が終わっていないってか始まってもいないんだけど。」
今日も相変わらずシャロンは来るのが遅い。しかも他の連中はシャロンが来るまで仕事を始めるつもりは全くないし。
「あれ? 聞いてない? 仕事だよ。」
仕事?
「パス! 他をあたってくれ。」
ルーファと仕事? ろくな仕事じゃねぇよ。
「パスって決定事項だよ。これから南米のチリに行くの。」
誰の決定だよ。
「今日はうちで暴走戦隊ウルサインジャーを見るんだ。そんな遠くまで行ってらんねぇよ。」
ここってヨーロッパのど真ん中だぞ? それを南米大陸の反対側まで行かねばならんのだ?
「ウルサインジャーってそんな幼児向けの番組なんてホントに見るの?」
ルーファが俺を疑う目で見ながら近くにいたセラに聞く。
「それが、毎週欠かさず・・・。」
セラがやれやれ見たいな顔で答えているし。
「あほな話でな、1回見たら続きが気になってしょうがないのよ。」
数ヶ月前、あまりにも暇でTVをつけたのが最後だったな。その時にやっていたのを見てしまって。
「はいはい。そんなこと言ってないで行くよ。」
ルーファとマルコスが俺の両脇をつかんでくる。
「うわ! お前ら。放せって!」
じたばたしてみたが日々の戦闘訓練で鍛えられた2人の腕が解ける気配はない。
「今回の仕事は遺跡の発掘だからきっと楽しいよ。」
遺跡の発掘?
「だったら遺跡発掘のベテランであるジャックとかマークとかを連れて行けって。俺はまだイングリッシュの勉強中なんだ!」
遺跡の発掘なら遺跡内の文字が読める方がいいに決まっているだろうが! ちなみにイングリッシュとは魔法文明の遺跡でよく発見される言語の1つだ。
「ちょっと戦闘しなくちゃならないからさ、戦闘訓練を受けていないやつじゃダメなんだよ。」
戦闘ってなんだよ?
「俺はここに魔法研究をしにしに来たんであって、ドンパチやりに来たんじゃないぞ!」
俺はごく普通の研究者だ!
「ほら、暴れないでおとなしくしろよ。アルフヘイムに行った時、モンスターの巣窟に行って帰って来たんだろ? 人間相手なんてモンスターに比べたら雑魚だって。簡単な仕事よ。」
そりゃ、モンスターに比べれば人間なんて雑魚だけどな。
「って、遺跡発掘なのに相手がモンスターじゃなくて人間かよ!」
遺跡の発掘にモンスターが一緒に発掘されてしまうって言うのはよくある話だけど。
「にゃはは! 気にしないの!」
こうして引きづられる様にして南米の山奥に連れて行かれて今にいたる。
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