「ん?」
なんかいるし。
えっと、今日は黒馬ビルの中をぶらぶらしていたのな。玄関、食堂、ミラちゃんの倉庫、魔法研究所。広い黒馬ビルが職場にしてはこのくらいの場所しか行っていないので他には何があるのかなと思って、たまに散歩してみるのよ。
普段はセラが一緒なんだけど、今日はたまたま1人だな。たまたまって言うか、こうやって散歩する時は1人の時が多いか。セラが忙しくてこっちが暇な時に散歩するのよ。暇な時にセラをかまって遊ぶと楽しいし、かわいいのだけれど、忙しそうにしているとあれだからな。
要するに1人で黒馬ビルの中をぶらぶらと歩いていたって話よ。
「よう、どうしたよ? クロウのにぃちゃん。」
なんかゲイのにぃちゃんが頭抱えて暗がりにいたのを発見した。
「おい、エル。俺はゲイではないぞ。周りに女をはべらせていないからってそれはないぞ。」
違うのかよ。
「で、こんな所で何してんだ? 黒髪が暗がりに同化してしまっているじゃねぇか。」
クロウのにぃちゃんは腰まで黒い髪をのばしているからな。
「サンチョスがうるさくてなぁ。まぁ、それはいつものことなんだがな。それより白熊をどうするかだ。」
白熊? そう言えば白熊って北極と南極の両方にいたっけか? ペンギンは南極だけだと思ったけど。
「いや、白熊ってグループ名なんだが。最近、武力に物を言わせて出てきた新参の組織なんだが、俺らの取引の邪魔ばかりするんだよ。」
ふ〜ん。
「で。」
だから何?
「だから取引が上手くいかないと収入が下がって各部署にまわす研究費が下がってしまうんだ。それはお前の給料が下がることと同じことだぞ。」
・・・。
「何?! 最悪だ! それ! どうにかしろ!」
来月発売のゲームソフトを予約してあるんだよ!
「ゲームが買えなくなるほど急に減ることはないが。」
何だ。ちょっと安心。
「てか、口に出していないことにもコメントを出されるとあれなんだが。まぁ、いいか。俺たちって悪の組織で通っているんだから、邪魔ならつぶせばいいやん。なんか問題でもあるのか?」
セラなんか悪の組織だからって法定速度を50キロもオーバーして普通道路をとばしているからな。あのスピードで事故らないのはさすがだよな。
「セラは諜報部時代に鍛えていたからな。ターゲットの追跡とか、逃走時とか、アクセル全開で裏路地の狭い道を走っていたんだよ。」
セラって諜報部だったのか?
「あ、聞いていないのか? 情報収集のエキスパートだから浮気とかすると数時間以内に知られてしまうから気をつけろよ。」
マジか!
「気をつけよう。んで、白馬をつぶすのに何か問題があるのか?」
口に出さないコメントまで答えられると話が脱線するな。
「脱線して悪いな。白馬じゃなくて白熊な。この業界を武力だけで成り上がるなんて異常なんだよ。よりでかい力でつぶせれば簡単なんだが、秘密が多くてな。なかなか手が出せないんだよ。」
警戒しているのか。
「がんばってくれ。俺の魔法が実用化できるようにがんばって研究してやるから。」
かれこれ半年になるんだけど、いまだに実用化できていないからな。何で俺の魔法って発動するんだ?
「俺が出れば早いんだがな。ちなみにこの黒馬の戦闘員で最強は俺で、次がお前なんだよ。知っていたか?」
え?
「ナンバー2になっているなんて知らなかったか。遺跡にいるモンスターとタイマンで戦える人員ってかなり少ないんだよ。お前の知っている所だとメズキ、ゴズキ、ルーファ、マルコス、セラ、俺とお前くらいか。ルーファとマルコスが黒馬の戦闘員でトップ10に入るって意外だろ?」
意外だ。あんな大飯喰らいがねぇ。
「個人の戦闘能力にしてみればこのくらいのレベルなんだよ。お前と俺は戦闘能力に加えて傷の回復能力があるからさらに上位について、ナンバー1とナンバー2に来てしまうんだよ。」
回復魔法の治療護符くらいは実用化したいよなぁ。
「お前自ら出るってできないのか? まぁ、総帥自ら出るって色々と問題があるのか。」
やっぱりトップって面倒だな。
「俺も戦闘に出たいんだが、総帥だからな。サンチョスがうるさいんだよ。」
もう少し総帥らしくしてくださいってやつか。
「分かったよ。俺が出ればいいんだろ? 魔法研究で成果を出せない以上、魔法を使って戦場に立つしかないか。」
ソレリア遺跡から帰ってダダこねてから戦場に行く仕事がなくなったと思っていたのよ。
ソレリア遺跡ってモロノってやつがいたり、リリスを捕獲したりした雷鷲所有だった遺跡な。今はうちが管理発掘しているんだけど。
「魔法研究してくれってスカウトしたわけだからな。せっかくやる気になったんだ。頼むとするか。」
ああ、俺って意外とお人よしか?
「収入が減って給料が減るのも嫌だしな。数日でぶっ潰してやるから任せろ。」
別に減っても生活が苦しくなるわけじゃないんだけどな。てか、余っているし。
「セラに詳しい依頼内容を送っておくからよろしく頼むぞ。」
クロウが右手を差し出してくる。握手か?
「俺がナンバー1だ。」
思い切りクロウの手を握ってやる。
「俺は人の考えが読めるんだよ!」
クロウも握り返してきやがった! 鍛えていない俺の握力では不利!?
「いてててててて!」
負けた。握力勝負に負けた。
「ふ。俺がナンバー1のようだな。出直してきやがれ。」
ちぃ。
「おう。出直してきてやるぜ。次は負けねぇからな。」
久しぶりにメズキちゃんのところで汗でも流してくるか。
BEFORE-STORY
/
TOP
/
NEXT
|