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2004.3.20


第6話 白熊(7)



 「エル様。研究レポートを見つけました。」
 研究室内で見つけたパソコンをセラとリリスがいじっていた。俺とフレリアは部屋内にまだ敵が潜んでいないかチェックするとともに他に何かないか部屋の中をまわって調査していた。
 「ここで何の研究をしてんだ? まぁ、これを見れば分かるようなものだけど。」
 研究室内にはグロテスクな生物の標本が試験管に収められてずらっと並べられている。
 「はい。予想通りモンスターの研究ですね。いくつか戦闘へ投入しているみたいです。」
 このモンスターの力を使って成り上がってきたのか。
 「セラさん。クレストについての記述はないですか? 私はここの組織がクレストを所有していると聞いて来たのですが。」
 用事ってそれか。世界のどこに行ったのか分からないクレストを探しているのだからクレストに関する噂があればとりあえず確認しに行きますな。それにちょうど俺たちが行くと知ればついて行った方が安全で確実だ。
 「えっと。ありました。モンスターを生み出すエネルギーをクレストから得ているようです。」
 ほほう。このモンスターはクレストを使って作っているのか。クレストってなかなか凄いな。
 「この部屋にクレストはありませんでしたね。」
 それらしい物はなかったな。
 「まだ地下5階に行っていないだろ? その辺じゃないか?」
 地上1階からこの地下4階まで怪しい部屋は一通り見てきたが、クレストなんて発見できなかったから見取り図を見る限り残るは地下5階だけだ。
 「エル様! 急いでいきましょう!」
 フレリアがせかしてくる。クレストに近付いて、いくぶん興奮している感じだな。
 「待て。この4階にモンスターの戦闘員を配備していたんだ。そのモンスター製造の要になっているクレストの周りには今までのやつより強力な守備隊が配備されているはずだ。せっかくモンスターのレポートがあるんだから敵の弱点を知っておいた方がいいだろう?」
 ああ、クレストを手に入れてしまったらフレリアはアルフヘイムに帰っちゃうんだよな。ヨーロッパのど真ん中にあるウィングスからアルフヘイムのある南米アマゾンのど真ん中までかなり距離があるよな。
 「そうですね。見つけるだけではなく、持ち帰らないと私の使命は果たされませんから。」
 落ち着いてくれたようだな。
 「とりあえず、ここのレポートはコピーして持ち帰りますね。」
 持ち帰るのか? セラが記録用のディスクをパソコンにセットしてデータのコピーを始める。
 「持ち帰って何をするんだ? うちでもモンスターを作るとか言わねぇよな?」
 あのビルにこんなグロテスクな標本が並ぶのか?
 「提出したらたぶん、作りますね。人造人間って悪の組織の醍醐味ですよ。」
 オイオイ。
 「俺はそんなのに手を出さんからな。他に誰か使えよ。」
 毎日、こんな気持ち悪い部屋に通うなんて嫌だぞ。
 「エル様ってモンスターは専門外ですから大丈夫ですよ。」
 それはよかった。
 「それよりモンスターを作るにはクレストが必要なんだろ? するとここのクレストは黒馬が没収するとか?」
 するとフレリアが泣くな。
 「クレストなんてそんなことに使っちゃダメよ! あれは危険なの!」
 クレストが暴走したおかげで魔法文明が滅びたわけだからな。
 「コピー、終わりました。恐らくクレストの周りを守っているのはこのミュータント・タイプHだと思います。一応、ここで作られたモンスターの中で最強の戦闘能力を持っています。形は人型で二足歩行。身長は4m、体重は300sの巨体です。」
 HってHuman(人間)の略だな。身長4mってでかいなぁ。
 「私たちがこの階で遭遇したモンスターより敏捷性を示す値が4倍ほどになっています。」
 4倍って速いなぁ。俺のエルウィップなんて絶対にあたらねぇじゃん!
 「特殊能力として『ブラストビーム』と呼ばれる技が使えるようです。えっと、強烈なレーザー光線ですね。厚さ1mの鉄板を豆腐みたいに切り刻めるそうです。」
 豆腐みたいにってなんかなぁ。
 「量産に成功しているようですから配備されているのは1匹ではありませんね。本当にこんなのを相手にするんですか?」
 なんかセラが恐がっちゃっているな。
 「そんな怪物なんて俺くらいしか相手にできないだろうが。ここまで来たらクレストを拝んで帰るぞ。」
 なんと言っても今の所、黒馬の戦闘員で俺がナンバー2だからな。この前、クロウと握力勝負して負けてしまったし。
 「人間相手だと思って手加減していたが、モンスター相手には容赦しないから安心しろ。俺の魔法で蹴散らしてくれるわ。」
 俺に襲い掛かったが最後だと思うが良い。
 「ああ、行くんですね。」
 なんかセラがため息をついている。
 「エル様の助手って聞いて血生臭い世界から抜けられると思ったのになぁ。」
 俺も研究員って聞いて平和に魔法研究ができると思っていたさ。
 「今回ばかりは俺にも事情があったんだよ。他にここで手に入ることはないな? さっさとここをつぶして帰るぞ。」
 地下5階へ向う。


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