「よし! リリス、後は任せた!」
リリスにペタペタっと強化護方陣と護衛鎧方陣の魔法カードを貼り付け、発動させる。
強化護方陣は対象の肉体的、精神的能力を急激に上昇させる魔法だ。今まで腕力強化護符とか、脚力強化護符とか、ばらばらに用意していたのだが、研究の末、1枚にまとめることができたのだ。
護衛鎧方陣は物理攻撃を防ぐ防御シールドを体の周りに展開する魔法だな。熱や光は素通りしてしまうと言う欠点もあるが、直接的な打撃が効かなくなるから便利だ。
「エル様! 任せたって何?!」
自分にも強化護方陣をつけ、セラとフレリアの腰を抱いてダッシュでその場を離れる。一瞬のことにリリスは動けなかったようだ。
「え、エル様、ちょっと!」
リリスを置いてきたことにフレリアとセラが抗議して来る。
「リリスは大丈夫だ! 俺様の魔法を信じなさい。それより猫を制御する機械かなんかがあるはずだ。それがなければクレストだな。ここの総帥か幹部を脅して手に入れよう。」
すでに逃げ出していなければ捕まえることはたやすい。
「エル様。あれって・・・。」
なんか血塗れの野郎供を発見した。
「俺たちより先に誰かここまで侵入していたのか?」
セラとフレリアを降ろして、確認に行く。すでに息はない様子だ。
「エル様。この人、白熊の総帥です。」
がーん!
猫を制御する機械とクレストについて聞き出そうと思っていたのに。
他に倒れているのはここの幹部連中であった。
「死因はこの肩からざっくりと抉られている4本の爪痕ですね。それから、あちらの方は何か丸太の様な物で殴られて内臓が破裂していました。えっと、あちらの方は何か大きな獣に噛み付かれていますね。」
白い派手な格好をした総帥は爪で。向こうの幹部は胴があらぬ方向に曲がっているし、噛み付かれたやつらは肩が食い千切られてなくなっている。
そんな死体の山にフレリアは気分を悪くして影で休んでいる。検死をしたセラは平気な顔をしているな。地下4階の研究室で試験管の生物標本を見た時も平気な顔をしていたし、肝が据わっているなぁ。
「なんか、さっきの猫に襲われたような死因じゃないか。まさか、制御しきれていなかったとかか?」
や〜ん。凶暴すぎて制御できずに殺られちゃったって言うやつか? 面倒だな。
「制御できないのならクレストだな。」
やれやれ。
「エル様。極秘資料ってラベルのついたファイルが落ちてましたけど・・・。」
やっと気分の落ち着いたフレリアが帰ってくる。
「極秘資料か。読むしかあるまい。」
一番知りたい極秘事項はセラが俺のことをどう考えているかと言うことだが、まぁ、秘密は気になる。
「えっと、クレストの研究報告書。・・・・・・。セラ。要約して。」
書かれている文章が難しすぎてよく分からなかった。ファイルをセラに渡す。
「えっと、ですね。少し前にここの総帥と幹部の数人が見つけた魔法文明の遺跡からクレストを発見したそうです。
とりあえず、持ち帰ろうとしたのですが、強力な防御シールドに阻まれて近付くことさえできなかったそうです。
クレストの祭壇で相談している所にモンスターの襲撃があって、それに驚いた総帥のペット、猫ちゃんですね、がクレストの防御シールドを通り抜けてクレストの上に乗ってしまったそうです。
その瞬間、部屋を強烈な光に包まれたそうです。後になって分かったことですが、あれはクレストの封印が解かれた光だったようです。
クレストのあった祭壇には猫ちゃんだけが残っており、クレストはどこかに消えてしまったそうです。
クレスト消失に愕然とし、部屋にモンスターが集まってきてしまって絶体絶命のピンチにもうどうでもよくなってしまった一同でしたが、なんと、猫ちゃんの口から怪光線が発射され、部屋のモンスターを一掃してくれたそうです。
口から怪光線を放つ総帥のペットの姿に一同は呆気にとられてしまったのですが、モンスターを一掃すると猫ちゃんは総帥の元へ駆け寄って何事もなかったかの様ににゃぁ〜ん、と鳴いたそうです。」
にゃぁ〜んって。
「今の可愛かったからもう1回。」
オイ。
「にゃぁ〜ん、ですか?」
う〜ん。犬と猫ではかわいさだけなら猫の勝ちだよな。ペットにするなら犬だけど。
「えっと、祭壇のクレストが猫ちゃんに憑依したらしいです。
アジトに帰ってきたらすぐにクレスト研究の準備をしてクレストの憑依した猫ちゃんをカプセルに入れて眠らせ、無限と思われるエネルギーを抽出したそうです。
地下5階にカプセルを設置って書いてありますから、この部屋に猫ちゃんが眠っていたんじゃないですか?
クレストのエネルギーを使って面白い様にモンスターの研究が上手く行く様になったそうです。
えっと、しばらく上の階で見た研究報告とかぶりますから飛ばして・・・、えっと、ここです。
日付は1ヶ月前ですね。カプセルに入れて眠っていた猫ちゃんが急に巨大化し始めたそうです。次第に大きくなって3日前には体長10mを超えていたそうです。」
その猫ちゃんって・・・?
「その猫ちゃんってあれか?」
あの凶暴なでかい猫?
「そうみたいです。写真もファイリングされてます。」
写真にはカプセルに入れられて眠るさっき俺たちを襲ってきた猫が写っていた。
「元は飼い猫か。長い間、カプセルに閉じ込められて恨みでも湧いたか。」
ん?
「フレリア。クレストってエネルギーの結晶じゃなかったか? 何で猫に憑依なんてするんだ?」
猫の体に電気を充電するとかできないだろうが。
「あのですね。私もよく知らないのですが、クレストは宝石の様な目に見える物質ではなく、生物に憑依して存在する目に見えないエネルギー体だそうです。憑依している生物が死ぬとその体から抜け出し、また別の生物に憑依して存在し続けるらしいです。ある意味、たちの悪い亡霊ですね。」
なぬ?
「すると、ここにあるって言うクレストは?」
クレストって紋章のこと。
「あの大きな猫に憑依しているみたいですね。きっと体のどこかにクレストが模様になって現れていますよ。」
がくーん。
思わず膝をついてしまう。
「ど、どうしたんですか! エル様!」
俺の反応にセラとフレリアが慌ててる。
「あのでかい猫の制御装置はなし。クレストはあの猫が持っている。どうしよう?」
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