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2004.6.3


第7話 デート(5)



 「セラ!」
 敵の放った銃弾がセラの肩に命中する。続けてマシンガンの銃撃が斜めにセラの体を切り裂く。
 「!!」
 エルウィップ起動。
 光の帯が敵を薙ぎ払う。
 巨大なモンスターでさえ一撃で粉砕するその光の帯を身に受けた人間の末路は想像に難くない。今まで手加減して殺すまではいかない攻撃であしらってきたが、そんなことはもうどうでもいい。
 真っ赤に飛び散った仲間を見て後続の連中が恐怖に逃げ出していく。
 「セラ!」
 銃撃を受けたセラに駆け寄る。その体は血に塗れて赤く染まっている。
 「死ぬな! 治療護符!!」
 魔法カードが燃え尽きると同時に発光し、セラの傷を包み込む。
 「足りねぇ! 治療護符!」
 1回の魔法で完全にはふさがらなかった。再度の治療。
 「ダメだ。応急処置にしかならない。今、病院に連れて行くから死ぬな。」
 この銃撃戦でスリルを楽しんで遊んでいたのが悪かった。
 「転移方陣!」
 黒馬ビルにある俺の研究所にテレポートする。転移方陣はテレポート先にあらかじめ特殊な魔法をかけてフィールドを築いておかねばならない。この部屋は俺が黒馬ビルで仕事の合間に遊んだり、寝たりするのに使われていて、他に使うことがない。転移方陣のテレポート先にはちょうどいい。
 「くそ!」
 病院の近くにフィールドを築いておくべきだったな。
 バンッとエレベータのボタンを押す。
 「ああ! おのれ!」
 なぜか25階にあるじゃねぇか! ここは4階だぞ!
 「走った方が早い!」
 廊下の奥にある非常階段へ走る。黒馬ビル内で階移動をする時はエレベータしか使ったことがない。診療所までの道は大丈夫かな。
 一気に駆け下り、1階の非常口から入る。
 「おお! 診療所ってどっちだ!」
 全然、見たことのないエリアだ。
 とりあえず、廊下をまっすぐ走ってみる。
 「ひーん!」
 道を訊こうにも誰もいねぇし!
 「うおお!」
 数分走って玄関ロビーに出る。
 「もうすぐだ!」
 どたどたと黒馬ビル内の診療所に駆け込む。
 「先生! いるか! 急患だ!」
 近くに空いていたベッドにセラを寝かせる。そこへ初老の男がやってくる。ここの診療医のテライ先生だ。
 「何事だ。」
 さっきまで寝てたっぽいな。
 「マシンガンで撃たれたんだよ! どう見ても血塗れじゃねぇか!」
 白いジャケットとスカートが真っ赤に染まって赤いジャケットとスカートになってしまっているがな。全身赤い服で統一されてしまっている。
 「マシンガンで撃たれた?」
 急に真剣な顔になって診察を始める。
 「こりゃいかんな。もう少しまともな機材のある所で治療せんと。」
 治療護符で出血はある程度止めたが、脈が弱い。白衣の先生がパタパタと奥へ走って電話をかける。十数分後、救急車が来てでかい病院へ運ばれる。


 手術が始まってから1時間が経過している。
 なんかレントゲンを撮ったら体内に弾丸が残っていたとか言っていたな。
 1時間から2時間くらいの手術になると言っていたからそろそろ終わるか。
 「落ち着かん。」
 手術中って言うランプを睨むと、ふっと消える。終わったようだな。
 しばらくすると医者が中から出てくる。
 「弾丸の摘出には成功しました。しかし、問題がありまして、あちらで、ぬぅ!」
 がばっと医者の肩をつかんで睨んでいた。
 「傷が酷すぎて完全には治らんって言うんだったら俺が魔法で治す!」
 医者が眉間にシワを寄せて俺が何を言っているのか理解していない感じだ。
 「俺は黒馬ビルにある魔法研究所で魔法の研究をしている。実用化はされていないが、傷を治す魔法の実験には成功しているんだ。ここに運ばれてきた時の傷を見たら出血量と外からの見える傷じゃ明らかに不自然だっただろうが!」
 医者は目をそらして黙り込んでしまう。
 「問題とは内臓が損傷してしまって、上手く機能しない恐れがあると言うものです。あなたのおっしゃる魔法で傷をふさぐことができるのであれば試してみるべきですね。」
 医者に案内されて手術室に入る。中では手術の後片付けをしていた。
 「皆、手術を再開する。」
 俺を案内してきた医者の声に片付けをしていた連中が手を止める。
 「そこで手を洗って、これを着たまえ。必要なものがあったら言ってくれたまえ。」
 治療護符の魔法カードが足りないな。
 「これを100枚くらいコピーしてもらえるか? 魔法使いの使う杖の代わりをするんだ。」
 魔法使いは杖を振るって魔法を使うという意味不明な先入観を持った連中が多いからな。こう言っておいた方が説明が早い。
 「君、至急これを100枚コピーしてきてくれたまえ。これから始める手術に使うらしい。」
 医者から魔法カードを受け取った雑用のスタッフがパタパタと出て行く。まぁ、さすがにこんな手術室にコピー機はないよな。
 セラの血の染み込んだジャケットを脱いでジャバジャバと消毒液で手を洗い、薄緑色の服を着る。これにマスクと帽子を着けて完成。手術の時に着る服が薄緑色をしているのは、血の赤い色ばかり見ていると色の感覚がおかしくなってしまうから薄緑色をしているんだってな。
 「それじゃ始める。外側からだと効き目が薄いって事が分かったから、縫合を解いて。」
 ばっさりと切ってあるじゃん。そんなに深く沈んでいたのかよ。医者の手によって縫合された糸が切られていく。
 セラの裸を見るのは初めてだが、この状態じゃ興奮できんな。
 「まずはここだな。これって肝臓? 穴が開いてんじゃん。」
 治療護符。魔法カードが燃え尽きると同時に傷口を光が包む。次第に傷口がふさがっていく光景に一同がざわめく。
 「もう1発。」
 その傷は10枚の魔法カードを使ってやっとふさがる。痕も残っていない。
 コピーされた魔法カードが届く。
 1つ1つ丁寧にふさいでいく。痕が残ったら嫌だからな。
 貫通した弾丸がつけた背中の穴もふさぎ、完成する。出血が凄いから輸血は続けられている。
 「終了。お疲れ様でした。」
 血が足りなくてまだ顔色は青いが、傷は綺麗になくなった。さすがは俺の魔法だな。
 「凄い。あれだけの傷が綺麗にふさがってしまうなんて。」
 驚け驚け。世界中でこんな魔法が使えるのは俺だけなのだからな。
 輸血が続けられたままセラが病室に運ばれていく。検査とか体力の回復とかで3日くらいの入院になるそうな。


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