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2004.6.3


第7話 デート(6)



 「俺は医師免許なんて持ってないぞ。」
 車の運転免許証すら持っていないからな。
 「それはこの際、目を瞑るよ。」
 俺の前に大けがをしているのか、包帯を巻かれたガキが横たわっている。5歳くらいだな。
 「1枚1万クレスだからな。」
 医者がガキの包帯を取ると、その下は凄いことになっていた。
 「何やったんだ? 熊とかに襲われたのか?」
 肉がえぐれてしまっている。筋肉は切断され、2度と動かせないだろう。
 「事故でな。さ、お願いします。」
 まぁ、これを見せられたら治療を渋るわけにはいくまい。
 「治療護符。」
 光に包まれてえぐれた傷口がふさがっていく。
 「1枚じゃ足りないな。」
 次。途中まで再生した所へさらに治療護符。見るに耐えない酷い傷が綺麗に消えていく。
 10枚ほど使って綺麗に再生した。
 「10枚使ったから10万だな。できれば現金で。」
 ふと思ったのだが、これだけの傷を普通に治療すれば、入院費とかで50万はするとおもうのだが。1枚1万Cは安かったか。
 「はい。すぐに用意いたしましょう。それでは、次をお願いします。」
 まだいるのかよ。
 若い女子どもばかりつれてこられて断れずに20人くらい治療する羽目に。

 「疲れた・・・。」
 体力の限界ってことで逃げてきた。この病院にいる重傷の輩は一通り治療した。
 ふらふらしながらセラの寝ている病室にやってきた。
 「ああ、俺がついていながら酷い目にあわせてしまったな。」
 セラはベッドでぐっすりと眠っていた。
 体内に残った弾丸の摘出手術と輸血をした。臓器がいくつか痛んでいたが、俺の治療護符で回復させた。もう傷の痕もない。
 ベッドの横に椅子を置いて座る。セラの寝顔は穏やかだ。
 「早く完成させねぇと。」
 これじゃ防弾チョッキを外して気軽にデートもできねぇ。
 「はぁ。」
 時計を見たらかれこれ4時間になろうとしていた。外はすでに日が暮れてもう面会時間は終わっている。さっきまでこき使われていたんだから面会せずに追い出されるというのは怒るぞ。このまま一緒に泊まっていこうかな。
 「ま、とりあえずは死ななくてよかったぜ。」
 なんか静かな寝息なんて立てちゃっているし。セラの頬を撫でてみる。
 「・・・、エル様?」
 ん?
 「セラ?」
 セラがうっすらと目を開ける。
 「ご迷惑おかけしてしまったみたいで、申し訳ありません。」
 セラが起き上がろうとするのを押さえる。
 「いいって。出血多量で一時はやばかったんだから、寝とけ。」
 もう大丈夫なんだがな。
 「すみません。」
 セラが目を伏せて困った顔をしている。
 「俺の魔法で傷口は綺麗さっぱりふさいでおいてやったから。痕は気にしなくてもいいぞ。その綺麗な肌に痕が残ったら俺の方が困っていたがな。」
 困った顔のセラの頬を撫でてやる。セラがその手をそっとつかんで頬擦りする。
 「ありがとうございました。」
 ああ、声を聞いて力が抜けた。
 「このままここに泊まっていってもいいか? だるくて動く気がしない。」
 ベッドに上半身を突っ伏す。頭がセラの腹辺りに乗る。あれだけ治療護符を連発して使ったのは初めてだ。治療護符くらいは実用化したいな。特許とってその使用料をがっぽりとな。
 「はい。一晩、一緒にいてください・・・。」
 この位置から顔が見えないが、セラの赤くした顔が想像できる。
 「おやすみ。セラ。」
 なんか、無性にだるい。魔法の使い過ぎか。
 「・・・。」
 この姿勢で寝るのはちょっとあれだな。
 「ベッドに入ってもいいか。」
 体を起こして訊いてみた。
 「は、はい。」
 セラが奥にずれて布団を捲る。承諾を得た。
 「お。珍しいな。」
 気が変わらない内にベッドへ入る。
 「今日は人恋しくて・・・。」
 なんかかわいいことを言ってる。俺がベッドに入るとセラがぺたっとくっついてくる。なんか今日は別人のような態度で戸惑うな。
 「おやすみ、セラ。マジで出血が凄くてやばかったんだからな。」
 輸血して真っ青だった顔もいつもの色に戻っているし、体温も温かいし、もう大丈夫なはずだ。
 「はい、エル様・・・。」
 セラが俺の肩に額をつけたまま寝息を立て始める。俺も眠い。
 もう少し馴れ馴れしく呼び捨てにして欲しかったなぁ・・・。


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