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2004.6.17


第8話 会食(2)



コンコン!

 セラの部屋のドアをノックする。前は無視ばかりされていたのだが、最近は返事をしてくれる。
 「はい。あ、エル様。」
 見た目、ちょっと細くなった感じがする。下に防弾チョッキを着ていないからその厚さだけ細くなったのだろう。
 「お前にはあんな防弾チョッキなんて似合わないよな。これからは好きなファッションを楽しめるぞ。」
 ハイレグのビキニとか、裸エプロンとか。
 「はい。」
 セラがにこっと笑顔を見せてくれる。
 「それより、エル様。仕事の指令が来てました。大至急、来てくださいとのことです。」
 仕事? これからセラをデートに誘ってベッドインまで行ってやろうかと思ったのに。
 「パス! 今日は非番なんだから明日にして。」
 別に毎週何曜日が休みって言うのはないのだが、魔法研究所のローカルルールで毎週土日は休みになっている。
 「そんなこと言わずに総帥からの呼び出しなんですから、行きますよ。」
 クロウのやつ。こんな日曜日に呼びつけやがって。
 セラになかば引きずられるようにして黒馬ビルに向かう。

 「日曜日に呼び出して悪いな。」
 ここは黒馬ビルの20階にある俗に言う“総帥の間”である。奥にクロウ専用の玉座みたいな豪華で大きな椅子が置いてある。周りを見渡すとなかなか豪華な造りをした広い部屋だ。
 俺たちが部屋に入るとクロウはそこに座って何か資料を読んでいた。
 クロウの横に黒いローブの魔法使い風の男が控えている。こいつはクロウの側近をしているサンチョスだな。黒いフードをかぶっていて顔を良く見たことがないのだが、声と隙間から見える口元からしておっさんなのは間違いない。
 日曜日に何の用だよ。せっかくセラが防弾チョッキを脱いでくれたんだからデートとかさせろ。
 クロウを睨みながら心の中で文句を言う。やつはマインドリーディングができるから心の中で言った文句でも聞こえるはずだ。
 「まぁ、そんなに怒るなって。美味い高級料理店に連れて行ってやるから。セラも一緒に。」
 美味い高級料理店か。セラやリリスの手料理も良いが、たまにはそう言う所にも行ってみたいな。
 「よし、決まり。仕事の詳しい内容は車の中でサンチョスが説明するから。行くぞ。」
 行くぞって?
 クロウが俺とセラの脇を抜けて入り口に向かって歩き出す。
 「ほら、2人とも。行くぞ。」
 高級料理のためだ。行くしかあるまい。
 クロウに続いて歩き出すと、後ろにセラとサンチョスも続く。

 「今回の仕事は総帥にお供してとある人物と会食をしていただきます。」
 現在、でっかいリムジンの中。俺たちがリムジンに乗り込むとシャロンとメズキちゃんがすでに乗っていた。今回は俺、セラ、クロウ、サンチョス、シャロン、メズキの6人で行くらしい。
 「とある人物ってか、雷鷲のフィネルソスって野郎なんだけどな。」
 サンチョスの説明にクロウが補足する。雷鷲のフィネルソスってどっかで聞いたことがあるな。
 「雷鷲の総帥ですか!」
 セラがめちゃくちゃ驚いている。シャロンとメズキちゃんは平然としている。
 「メズキちゃんは護衛で分かるとして、何で俺とシャロンが呼ばれたわけ?」
 美味い高級料理店ってこれのことか。世界を牛耳る2大組織の総帥同士の会食で出される料理なのだから、それはそれは美味い高級料理だろう。
 「今日の主賓はエルだから。ついでにその上司であるシャロンにも来てもらったってわけ。」
 はい?
 「なんか暇を見ては病院で重傷の患者を魔法で治療してんだって?」
 え?
 「お前がそんな親切なやつだったとは今まで知らなかったぜ。わっはっはっは!」
 あれにはちょっと訳があってだな。
 あれは約1ヶ月前のクリスマスイブ。セラが重傷で病院に運び込んだ。その時、無能な医者の前でセラの傷を魔法で治療したんだ。そのおかげでマシンガンで撃たれたにもかかわらず、セラは3日で退院し、傷痕もない。
 医者の前で魔法を披露したのが悪かった。
 セラの治療後、土下座で頼まれて20人くらいの重傷患者を魔法で治療させられたんだよ。断るにも女こどものあの傷を見せられたら断れない。
 セラの入院中、朝から晩までこき使われてしまったのよな。
 セラの退院後も色々とあって時々病院へ傷の治療をしに行かねばならないことになってしまったと言うことだ。
 まぁ、そのおかげでがっぽり儲かっているって言うのもあるけど。
 「お前の行いに感動したとか言って、あの真面目で俺を毛嫌いしていたフィネルソスのやつが高級料理でもおごるからお前と会わせろって言ってきやがったんだよ。」
 なんだかなぁ。
 「モッチョン博士も同席させるって言っていたぞ。あれって魔法研究の権威だったよな。」
 それにメズキちゃんの隣で興味なさそうにしていたシャロンが反応する。
 「シャロンはまだ会ったことがないのか。変なじじぃだから気をつけろよ。」
 別に俺はそんなやつに会いたいとは思わないが。
 「エルは興味ないみたいだな。かわいい女の子を何人か連れてくるって言っていたな。そっちの方が興味あるか?」
 そーだな。アリーシャとか、オグちゃんとかには会いたいな。
 「アリーシャちゃんは来るぞ。セラ、若さの秘訣とか訊き出しとけ。」
 なんか、護衛とか言ってあのキザ野郎とか、自信過剰野郎とかも来そうだな。あいつらには会いたくないなぁ。
 「シャイリースとガインは諦めろ。シャイリースは雷鷲最強の戦闘員だし、ガインは総帥の息子だし。」
 来るのか・・・。
 あ、シャイリースが来ると言うことはオグちゃんも来るかな。シャイリースと聞いて喜べるのはそれだけだよな。
 あいつ、さっさと死なねぇかな。アホみたいにしぶとそうだしな。
 ちゃんと角を曲がりきれるのかってくらい長いリムジンだが、ちゃんと街中を抜けていくのであった。


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