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2004.6.17


第8話 会食(4)



 「そろそろ着替えるか。空港から会食会場へ直行だからな。」
 やはりジーパンはダメですか。
 「お前の正装した姿って想像できんな。」
 なにをぅ?!
 「これでもサラリーマン時代はスーツが仕事着だったんだからなぁ!」
 あれは堅苦しかった。何故にパソコンの前に座ってキーボード叩くだけなのにスーツを着てやらねばならんのか。ずっと座っているとズボンが磨り減って不経済だし。
 「今日はお前が主賓なんだからな。」
 はいはい。

 アメリカの大統領専用機かってくらい部屋があるな。クロウの自家用機だから専用の寝室とかついているし。使用人の部屋とかあって、普通に機内で生活できる設備がある。
 サンチョスとクロウに案内されて衣裳部屋に入る。
 「隣が女たちの衣裳部屋になっているんだ。」
 そう言えば一緒に来ていた女性陣が隣の部屋に入っていくのを見たな。

覗くか!

 「ドレスを選んでいる内にさっさと着替えて、ちょうど向こうが着替え始めた所で覗こうではないか。」
 クロウがこっそりと耳打ちしてくる。
 「おう。それがいいな。」
 よし、俺のはこれ。
 ぱっと目に付いたやつを手に取る。サイズは良さそうだな。
 普通に黒のスーツだ。
 「そのスーツにはこれとこれだな。ネクタイピンはこれでいいか。靴はこんな感じだな。」
 クロウがスーツにあわせるワイシャツとネクタイ、靴、靴下を俺に投げてよこす。慣れている感じでコーディネートは悪くない。
 「ここで着替えるんだよな?」
 とか訊こうと思って顔を上げたのだが、そこには誰もいなかった。
 「あれ?」
 部屋の奥を見ると『更衣室』ってかかれたドアが4つほどあって、2つが使用中になっていた。
 「俺にも言えよ。」
 空いている片方の部屋に入る。
 床が1辺2mくらいの正方形をした部屋になっていた。
 「スーツなんて着るの久しぶりだな。」
 最近の出勤はジーパンだったからな。
 野郎のストリップシーンなんて作者が書きたくないとか言っているので、ちゃっちゃと着替えてしまおう。
 「あ、ネクタイの締め方忘れた。」
 サラリーマン時代は、あらかじめ形を作っておいたのを首にかけて締めるだけ、と言うのだったからな。
 「まぁ、いいや。後でセラにでも結んでもらおう。」
 さりげなく結ぶのが上手そうな雰囲気だよな。
 ネクタイを締めずに部屋を出る。
 「着たな。行くぞ。」
 部屋から出たら真っ青なスーツを着たクロウと、白髪の見かけない顔の男がいた。
 「誰。」
 なんか、コジワが目立って結構な歳の様だが、形は整っていて若い時は女をはべらせてブイブイ言っていそうな美形の顔をしている。
 「誰って、サンチョス。お前、フードを取った所を見たことなかったけな。」
 てっきりバーコード頭で醜悪なツラをしているものとばかり思っていたぜ。
 「へー、こんな顔してたんだー。知らなかったなー。」
 予想に反して普通の顔をしていたな。
 「昔はかなりもてたらしいぞ。なんか軽く50人くらい付き合っていた女の名前が言えるんだよ。」
 それはそれは。
 「もう昔の話ですな。」
 否定しないし。
 「それはそうと、エル。何か覗きをするのにいい魔法はないか?」
 覗きか。
 「そんなものがあればすでにセラの着替えなんて見飽きるほど見てる。」
 もう100以上の魔法が使えるのに何でないかなぁ。
 「総帥。覗きとはどういうことですかな?」
 サンチョスが眉間にシワを寄せて言う。
 「せっかくあれだけの美女が3人も隣の部屋で着替えをしているんだぞ。それを覗かないなんて失礼だろうが。」
 サンチョスに力説してやる。
 「失礼って違うでしょう。」
 分からんやつだな。
 「サンチョスなんて放っておけ。俺らと違ってこいつには嫁さんがいるんだからな。」
 へー、それも知らなかった。クロウの後に続く。
 「あ! 2人とも待ちなさい!」
 サンチョスが慌てて追いかけてくる。
 「あ、セラ。」
 部屋から出たら赤いドレスに身を包んだセラがいた。
 「エル様。似合います?」
 なんかセラが顔を赤くしながら訊いてくる。
 髪が頭の上に丸く結ってある。胸元と背中を大きく開いてあり、袖はなく、豊かな胸とスッキリとしたスタイルを隠さない光沢のあるドレスだ。靴は赤のハイヒールだ。胸元に俺のプレゼントしたペンダントがつけてある。
 『綺麗だ。』
 なんかクロウと声が重なってしまう。
 「私はどうかしら?」
 シャロンが部屋から出てくる。
 シャロンも青い髪を頭の上で丸く結ってある。耳には青く細長いイヤリングが揺れ、胸元にはダイヤモンドで周りを飾ったでかい真っ青なサファイヤが光っている。ドレスは白ベースで肩を出して胸元と背中を大きく開いてひらひらのついたやつだ。スカートについたひらひらが渦巻状に青いラインを引いてアクセントとなっている。ハイヒールも白か。
 「白か。」
 白とは清楚な感じを表現するための色らしいな。30近くになって独身だから必死なのだろう。
 「なかなか綺麗だ。これぞ誘った甲斐があったというものだ。」
 クロウにほめられたシャロンが少し顔を赤くする。
 2人とも胸がでかいからかなり谷間が深いな。
 「あれ? メズキちゃんは?」
 2人の着替えを見逃してしまったからメズキちゃんだけは、と思って衣裳部屋を覗いたのだが、メズキちゃんの姿はなかった。奥の更衣室に使用中と出ているドアはない。
 「こっちです。」
 部屋の外からメズキちゃんの声がした。声の方を見ると黒いドレスに身を包んだメズキちゃんがいた。
 メズキちゃんも頭の上で丸く髪を結って胸元と背中の開いている。黒のドレスに赤のアクセントが綺麗だ。

 着替えを覗き損なった・・・。

 「意外と着替えるのは早かったな。」
 クロウが耳打ちしてくる。
 「こんなに早いとは。」
 全く予想外だった。ちょっと残念。


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