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2004.6.27


第8話 会食(5)



 空港で再びリムジンに乗り換える。これから会食の行われるホテルに向かうのだ。もうすぐ日が暮れる。
 「そろそろいい具合に腹が減ってきたな。」
 会食に出される料理が楽しみだ。
 「エル。」
 有名超一流ホテルの高級料理を想像している所へクロウが声をかけてきた。
 「俺にセラをエスコートさせてくれないか?」
 おい。
 「ヤダ。セラは俺んだ。」
 セラが横で赤面しちゃってるよ。
 「良いじゃねぇか。いつも同じ屋根の下に住んでいるんだから、たまには俺に貸せ。」
 こいつは。
 「わざわざセラを選ばなくてもいいじゃねぇか。このメンバーなら俺の助手をエスコートするより、魔法研究所管理責任者のシャロンをエスコートするべきじゃねぇのか?」
 メズキちゃんは護衛だからクロウの後ろに控えさせてだな。
 「そうか?」
 クロウが眉をひそめる。
 「俺に上司をエスコートしろと言うのか?」
 さっきクロウがナンバー1で、俺がナンバー2とか何とか言っていたが、肩書き上はシャロンの部下ってことになっている。んでもってセラは俺の部下だ。
 「いいじゃねぇか。食事の席で上下関係なんて気にするな。」
 しかし。
 「シャロンって俺より年上じゃねぇか。」
 年齢を聞いたことはないが、俺より年上と言う確信がある。
 「歳も関係ねぇよ。サンチョスにメズキのエスコートをさせるから、お前はシャロンのエスコートをしろって。」
 こいつは。
 「俺とセラはクリスマスをイブから2日間共に過ごした仲だぞ? それをいまさら他の女に乗り換えられるか! お前はなぜにそこまでしてセラにこだわる!」
 イブの日はデートして、その夜は一緒のベッドで寝たぞ。
 「女3人の中で一番若いからだ。」
 セラは21歳で俺より年下だ。メズキちゃんとシャロンは俺より年上のはずだ。
 「アホか! お前は30過ぎてんだろうが。10以上も年下の女を口説くつもりかよ!」
 そう言えば俺とクロウとの年齢差も10歳くらいあるんだよな。
 「俺が36だからお前とは12ほど差があるな。そんなことより1回くらいいいじゃねぇか。減るもんじゃなし。」
 クロウって36歳だったのか。
 「減るわ。俺の努力の結晶でやっと今日、防弾チョッキを脱がせることに成功したんだぞ? それをいきなり他の男に手を出されて堪るか。いくらお前が総帥だからと言ってもセラだけは譲れないね。」
 相手が神でも譲らんぞ。神がいると信じていないが。
 「分かった。ただとは言わん。1億でどうだ?」
 1億?
 「アホか。カネの問題じゃない。これは男のプライドの問題だ。」
 しかも今は金に困っていないからな。それに1億あっても使い道がない。
 「そうか。プライドか。俺もプライドにかけて引き下がれないな。セラをエスコートさせろ。」
 こいつは。
 「サンチョス。こいつを止めろ。魔法研究所管理責任者シャロン、戦闘部隊隊長メズキ、俺の助手セラの中で総帥であるクロウがエスコートする女として最もふさわしいのは誰だと思う?」
 クロウの隣でおろおろしているサンチョスに話を振る。
 「は! 総帥。あなたは黒馬の代表なのですぞ。今回の会食には最大の宿敵である雷鷲の総帥がお見えになるのに下っ端の女子をエスコートするなんて、止めていただきたい。」
 よし、味方が増えた。
 「いいじゃねぇか。フィネルソスの野郎はアリーシャをエスコートしてくるはずだ。それなのに、俺にはエスコートする女がいないなんて俺のプライドが許さん!」
 そう言うものか?
 「ならばシャロン様をエスコートしていただきたい。容姿も、身分も妥当でしょう。」
 よし、このまま畳み掛けるぞ。
 「俺は総帥だぞ。この中で一番偉いのは俺だ。最終的な決断を下す権利は俺にあるはずだ!」
 うわ、ここにきて権力を振りかざしてきやがった。
 「アホか! いまさら総帥もクソもあるか。こうなれば本人に決めてもらおうじゃねぇか!」
 当の本人を差し置いて話を進めるべきではなかったな。
 「それがいいな。セラ、総帥である俺かこいつ。どっちにエスコートして欲しい!」
 俺とクロウの迫力にセラが畏縮しちゃってるよ。
 「あ、え、えっと、あ、申し訳ありません! エル様にお願いします!」
 よっしゃあぁ!! 勝った。初めての勝利。
 「なぜだ、セラ!」
 大の男が目に涙をためてるぞ。
 「え、えっと、あの、ごめんなさい! 総帥にエスコートしていただいて平然としていられるほど、図太くありません!」
 クロウが真っ白に燃え尽きた。ご愁傷様だな。セラも下っ端で黒馬の最高権力者である総帥の前で緊張していたと言うことだな。その総帥をアホ呼ばわりするのはいまさらながらあれだな。
 「早く嫁をもらえ。」
 セラの肩を抱きながら勝者の余韻を楽しむ。
 「忠告、痛み入るよ。」
 結局、クロウはシャロンをエスコートすることとなったのであった。


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