俺たちの乗るリムジンがホテルの前に向けて速度を落とす。ホテルの前には何人もの出迎えが見える。
「げー、キザ野郎と自信過剰野郎が出迎えに出てるよ。」
あの長い髪の男は目立つなぁ。スーツ姿のシャイリース(キザ野郎)のやつがふんぞり返ってやがる。ガイン(自信過剰野郎)は出迎えの真ん中にいるじゃねぇか。
あら? シャイリースの横にいつもいるオグちゃんの姿が見えないな。半分はオグちゃんに会うために来たようなものなのになぁ。他の所を警備でもしてんのかしら。
「総帥夫妻は出迎えに来ていないみたいだな。その代わりに息子が見えるな。アリーシャちゃんは出迎えに出てきてくれないのか。」
オグちゃんとアリーシャの出迎えがないってあれだな。
「しかしなんか、凄い面々だぞ。」
はい?
「あれなんか黒馬と雷鷲に次ぐ巨大組織の総帥の息子兄弟だし、向こうは雷鷲銀行グループの頭取夫妻だし、おお、雷鷲航空社長婦人までいるぞ。」
それはそれは。
「なんか俺って場違いじゃねぇの?」
俺って下っ端研究員よ? 年収12億ほどだけど。
「気にするな。今日の主賓はお前だ。あいつらはお前を見に来たんだ。」
見に来たってなぁ。
「これだけの面子なら戦闘になることもないか。」
戦闘?
「ん? 不思議そうだな。俺たち黒馬と雷鷲は犬猿の仲なんだぞ? その2つが出会ったら戦闘になるのが常だからな。俺とお前でセラとシャロンを守ればいいと思ってこのメンバーで来たんだ。」
そう言えばエルウィップを持っているのに置いていけとは言われなかったっけな。セラもドレスの下に拳銃を隠し持っている様子だし、サンチョスとメズキちゃんも何かしら武器を隠し持っているみたいだな。
「今日は安心して飯が喰えそうだな。いくら向こうが偽善集団だとしても、あれだけのやつらを危険に晒すようなことはすまい。リスクが大き過ぎる。」
それは安心。
「もしものことがあったら重役の娘を何人か誘拐して逃げるからな。身代金を要求して経済的に大打撃を与えてやる。」
おい。
リムジンがホテルの前にゆっくりと止まる。するとすぐにボーイがドアを開けて挨拶をしてくる。
「ようこそ、おいでくださいました。」
まず最初にクロウが出る。その次にシャロンだ。
青いスーツのクロウが白と青のドレスで飾った青い髪のシャロンの左手を取ってエスコートする。
黒馬の総帥なのに青いな。
続いて俺とセラだ。エスコートなんてやったことはなかったが、クロウが格好良かったので真似してみる。それにセラが優雅に答えて俺の手を取ってくれる。
う〜ん、美人だ。これだけ美しいとエスコートのやりがいがあるな。
俺とセラが出るとサンチョス、メズキと続く。別にエスコートするとかじゃなくて2人ともクロウのお供だからな。
「よくぞおいでくださいました。」
ホテルの前にある階段を上っていくとガインが出迎えてくれた。
「食事の準備は整っております。さ、こちらへどうぞ。」
ガインについて会食の場へ向かう。
凄い人の数だな。皆、きちっとした服を着ている。
「こんな出迎えは初めてだぞ。」
黒馬ビルに初めて行った時は出迎えの1人もいなかったし。
「堂々として胸を張ってください。」
俺の左腕に右手を添えているセラが俺にだけ聞こえるように言う。
ここでおどおどするのはかっこ悪いよな。胸を張って堂々と道を行く。
なんか広い会場だな。立食パーティーの様だ。会場にはすでに何人もの人がいた。
会場に入ってきた俺たちに気付いて近付いてくる人が2人。他の連中はこちらに頭を下げている。
「よく来てくれた。今日の所は歓迎するよ。」
金髪の髪で少しシワの入った男。雷鷲総帥フィネルソスだ。その横には当たり前のようにアリーシャが付き添っている。
こうして直接見るのは初めてだな。
「今日の所はありがたく歓迎を受けさせてもらうよ。」
フィネルソスの挨拶にクロウが答える。2人とも表面的には笑顔を作っているが、目が笑っていない。
フィネルソスとクロウが握手をすると、フィネルソスがこっちを向く。
「エル君だね。今日はようこそ。君に会えて嬉しいよ。」
俺に向けられた笑顔は本当に嬉しそうだ。ちゃんと目も笑っている。作り笑いを先に見ているからその違いははっきり分かる。
「ご招待、ありがとうございます。」
とりあえず、差し出された手に握手をして挨拶を返してやる。
「今日は楽しんでいってくれたまえ。」
食事の方は存分に楽しませてもらおう。
「こっちに来てくれ。皆に紹介しよう。」
なんかフィネルソスに腕を引かれて会場の奥へ連れて行かれる。ステージに向かっている様子だ。後ろを振り返るとクロウとセラが手を振っていた。
薄情者め。
俺が主賓って聞いた時点で予想できた展開だが、心の準備が・・・。こんなお偉方の前で何をしろというんだぁ?
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