「完成。」
オグちゃんの体は綺麗に回復した。穏やかな寝息を立ててベッドに横たわっている。
「すばらしい! あんな体がこんな綺麗に治療してしまうなんて!」
治療の手伝いをしていた医者がなんか感動している。あの酷い傷口がこんな跡形もなく綺麗に消えてしまったらそのギャップに驚くわな。
「婦女子の裸体をそんなにまじまじと観察するんじゃない。」
オグちゃんにジャケットをかけてやる。
「これは失礼した。こんな技術をお持ちとはすばらしいですな。」
医者は初老の男だ。
「おい。」
不意に部屋の入り口から呼びかけられる。
「お前。」
やつの顔を見て怒りを思い出した。
「貴様! これはどういうことだ! 雷鷲最強の剣士がついていながらこんなケガさせやがって! 俺が治療しなければ死んでたぞ!」
もう何人もこう言った重傷患者を治療させられてきたから、どのくらい危険な状態なのか大体分かる。火傷で体の大半はただれ、銃弾で体のいたるところを貫かれていた。手術で銃弾は取り除かれていたが、内臓のほとんどがいかれていてこんな所につれてこられるような体ではなかった。
「くっ!」
俺の罵声にシャイリースが顔をゆがめる。
「オグを助けてくれたことに礼を言う。」
顔を怒りにゆがめ、拳を握り締めたままかすれた声でやっと搾り出す。
「礼はいらん! こんな女を助けるのは俺の趣味だ!」
義務ではなく趣味だ!
「とりあえず、ここにいたらオグちゃんが目を覚ましてしまうな。向こうで詳しい話を聞かせてもらおうじゃないか。」
シャイリースのやつ、背がたけぇ。肩に手をまわそうかと思ったのだが、届かなかった。腰に手をまわして部屋を出る。
「聞かせてもらおうか。」
人気のない廊下の一室。今日は会食のためにホテル全部借り切っているのだ。
「いいだろう。お前にも原因があるわけだしな。」
はぁ?
「どういうことだ? お前たちが俺をさらいに来て以来、オグちゃんとは会ってないんだぞ?」
意識転送陣って俺の魔法で何回か覗いたことはあるけど。
「お前たちがリリスを捕えて捕虜にしたと言う情報を得て、救助に向かったのだ。」
いつの話やねん!
「おい。俺がリリスを捕まえたのは何ヶ月も前の話だぞ。」
あれは去年の11月くらいだったかな? 雷鷲の古代遺跡を奪取した時の話だ。2ヶ月くらい前か。
「黒馬の本部があるウィングスでの情報収集は困難なのだ。ウィングスにいると分かったのは年末のことだ。」
1ヶ月まるまる費やして居場所を調べていたわけね。
「おい。その頃はあいつ、南米のアマゾンへ旅行に行っていたぞ。帰ってきたのは25日のはずだ。」
シャイリースが眉間にシワを寄せてこっちを見る。
「旅行? 慰安婦の出張にでも出されたのか?」
慰安婦?
「待て。リリスの扱いについて、誤解していないか?」
絶対誤解してるぞ。
「麻薬でも打たれて慰み者にされているんじゃないのか?」
やはりな。
「まぁ、確かにあのスタイルじゃ、それを想像してもおかしくはないわな。お前もあの体を見て欲情できるほどの男だったと言うことか。」
最初はマジで慰み者にしてやろうかと思ったのだが、セラにガードされてダメだったのだ。
「何が言いたい。」
シャイリースが凄い顔してこっちを睨んでいる。そんな殺気立たなくてもいいだろうが。
「リリスは一応、捕虜だが、監禁しているわけではないぞ。俺の家で悠々自適な生活をしているぞ。たまにオグちゃんに手紙とか電話とかで連絡を取っていたみたいだけど知らないのか?」
こっそりと俺に気付かれないようにやっていたから、連絡先は誰なのか確認していないけど、よく“オグちゃん”って単語が出てきていたからオグちゃんが相手だと思っていた。
「いや、そんなものは来ていないぞ。」
ん?
「リリスの連絡先ってオグちゃんじゃなかった?」
あれ? おかしいな。後で問いただしておかないと。
「リリスは無事なのか?」
眉間にシワを寄せたままだが、殺気はだいぶ弱まった。
「無事も何も雷鷲にいた頃よりいいもの喰ってんじゃねぇの? よく家の大画面TVでゲームしているぞ。」
時々一緒に遊ぶ。
「ゲームって。」
完全に殺気はなくなったな。
「別に監禁しているわけじゃないんだよ。外出自由、雷鷲に帰るのも自由、雷鷲に連絡するのも自由、俺の研究成果を盗むのも自由。月20万の小遣いをあげて家事全般をしてもらっているけど。」
シャイリースがなんか眉間を指でつまんでうつむいてしまった。
「住所、教えるぞ。俺の家だからオグちゃん同伴で土産付きなら来てもいいぞ。」
なんか思い切りため息をついてシャイリースが顔をあげる。
「罠か?」
まぁ、疑うわな。
「ならお前には教えねぇ。オグちゃんにこっそり教える。」
あ。
「オグちゃんで思い出したけど、お前がついていながらオグちゃんになんてケガさせてんだよ!」
なんか、話がそれてた。
「だから、リリスを救出しに行ったんだよ。ソレリア遺跡で捕えられた捕虜はウィングスの尋問機関に収容して拷問していると言う情報をつかんで、42人の部隊で突入したんだよ。俺がいれば捕虜の救出くらいの任務なんて問題ないはずだったんだ。しかし、確かにソレリア遺跡で捕えられたモロノたちは収容されていたが、リリスだけは連れてこられていないと言うじゃないか。建物内を調査中に包囲されて・・・。」
シャイリースが拳を握り締めて震えている。その時の光景を思い出しているのだろう。さっき消えたばかりの殺気が再びよみがえってしまう。
「俺がいれば包囲されても切り抜けられる自身はあった! しかし、やつは化け物だ! オグに助けられなければ俺は死んでいた! お前の所の総帥は人間じゃない!」
ん?
「クロウにやられたのか?」
それは相手が悪かったな。
「あいつのおかげで捕虜の救出どころかオグをつれて逃げることしかできなかった!」
ご愁傷様だな。
「あれって、俺よりヤバイんだぞ。あいつがいるから俺が魔法の力で世界征服に乗り出さないようなものなのだからな。」
最大の障害だよな。この雷鷲最強と恐れられているシャイリースが涙を流して震えるほどのやつなのか。あいつの恐ろしさをちょっと実感。
「あいつに逆らわない方がいい。俺たちの仲間にならずにあいつの下についたのは正解だったかもな。」
殺気はそのままに笑ってやがるよ。
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