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2004.6.28


第8話 会食(9)



 「今日の主賓がこんな所にいたら何のためのパーティーか分からないじゃないか。そろそろ会場へ戻るとしよう。」
 あ、完璧に忘れていた。
 しばらくシャイリースが物凄い殺気を放っていたが、だいぶ落ち着いた様子だ。
 「戻るか。半分、オグちゃんに会いに来たようなものなんだけどあれじゃ話もできないし、料理を堪能せねば。」
 腹減ったなぁ。
 「明日の朝には目が覚めると思うから。」
 とか言いながら部屋を出るとセラとオグちゃんが廊下にいた。
 「こんな所で何をなさっていたのですか?」
 セラが腕を組んだ姿勢で頬をちょっと膨らませている。
 「よぉ。オグちゃん。もう動いても大丈夫なのか?」
 なんかバスローブなんて着ちゃっているんだけど。短い髪の毛でかわいい男の子みたいだ。胸もないし。
 「はい。治療していただいてありがとうございました。」
 声もはっきりしている。俺の治療は完璧だったようだな。
 「シャイリース。オグちゃんにドレスを着せてパーティーにつれてこい。俺たちは先に行ってるぞ。」
 セラの腕を取ってパーティー会場へ向かう。
 後ろで2人が抱き合う気配がしたが、むかつくので振り向かないで置こう。

 「襲われませんでした?」
 襲われるって。
 「やつは美形でもゲイじゃないぞ。」
 美形の男はゲイって先入観があるのだが。
 「違いますよ。銃とかナイフとか突きつけられませんでしたかって話です。」
 そっちの襲われるね。
 「それは大丈夫。」
 思い切り殺気は放っていたけどな。
 「そうそう、お前に訊こうと思っていたことがあったのよ。」
 ステージでショーをしていた時の話だな。
 「俺がパシりに使ったおっさんって誰だったんだ?」
 唖然とする一同と笑いを堪えるクロウの姿がなんとも気になって。
 「彼は世界政府の副議長をなさっている方ですよ。世界の法律を司る機関で2番目に偉い人です。」
 はい?
 説明しよう。世界政府とは世界の法律を司っている機関のことだ。国境と言われる見えない壁は取り除かれ、世界の政治はこの世界政府が統括している。統括していると言っても地方分権が基本でこれと言って強力な拘束力があるわけではない。世界平和を維持するために世界各自地区の代表が集まって会議をするのだ。
 世界政府で一番偉い人は会議の議長を務める人だ。会議をスムーズに進めるためにこの人は一番の権力をもっている。権力があると言っても警告するくらいしかできない。その補佐とか緊急時の代役とかのために副議長がいる。議長の次に偉い。その下が副議長代理。ここまで来るとたいして仕事はない。
 まぁ、自治区間を跨いだ問題を解決したり、自治区間の交易をスムーズにするための政策を指揮したりするための組織と言う位置にある。
 「それから、ショーの助手に使ったお二人は、片方が雷鷲不動産グループ総帥の御曹司と、雷鷲貿易グループ総帥の御曹司です。雷鷲幹部の息子さんですね。」
 いかにも金持ちそうな身なりをしていたがそんな連中だったのか・・・。
 「まぁ、悪の組織である我々黒馬のメンバーにはそんな敵の役職なんて関係ないですよ。」
 そりゃなぁ。
 「私もまだ料理に手をつけてないんですから、早く行きましょう。」
 あんなお偉いさん方ばかりの所に戻りたくないような気がするが。
 「あ、治療代を請求せねば。」
 敵総帥に50万Cを請求するのはあれな気がするが、特別扱いはするまい。
 「あんな所で披露しちゃって、治療依頼が殺到しないといいですね。」
 俺が治療するのはもう現代医学で手に負えない重傷で、女性か将来ある若者で、ウィングス病院に来れる方のみだ。治療の仕事をするのはよほどの緊急でない限り土曜日限定となっている。
 回復魔法を実用化する研究のためにと言う理由をつけてウィングス病院の院長に契約書を書かせた。
 黒馬に治療依頼が来ても全部ウィングス病院に回すように手配してある。ウィングス病院は黒馬の一部のようなものなのでたいして問題はなかった。
 治療護符1枚1万Cの治療代を病院に払わせているが、その病院も俺に払う治療代に自分の取り分を上乗せして患者に請求しているのだろうな。
 う〜ん、金持ちしか治療を受けられないな。
 こんな慈善活動をやらなくて済むように治療護符くらいは実用化を急がねば。実用化されれば一般市民も治療が受けられるようになることだろう。
 「全部病院に任せてあるから気にすまい。さ、喰うぞ。」
 パーティー会場のドアを開ける。

 「貴様のそう言う態度が嫌いだ!」
 「君のそう言う乱暴な所がいかんのだ。もっと大人になりたまえ!」
 扉をくぐるといきなり男2人の口論が聞こえた。見るとクロウとフィネルソスが今にも飛び掛らんと口論している。クロウはサンチョスとメズキちゃんに、フィネルソスはアリーシャとガインにそれぞれ腕をつかまれている。あれが放されたら殴り合いになるだろう。いや、2人とも銃を持っているようだから銃撃戦?
 「放っておいて飯にしよう。」
 パーティー会場の一同は怯えながら口論をする2人を見ているが、気にしない気にしない。
 「ちょっと、それはどうかと・・・。」
 2人の口論を見てセラがちょっとおろおろしている。
 「俺にあの口論を止めろと言うのか? 俺がここで口論を止めたらまたケンカが再発しないようにパーティーがそこでお開きになってしまう可能性が高いだろうが。腹がいっぱいになってからどうにかしてやる。」
 皿にテーブルの料理を山に盛って食べ始める。う〜ん、美味。高級料理さながらの味がする。まぁ、実際に高級料理なんだけど。
 「それもそうですね。」
 そう言いながらセラも皿に料理を取って食事を始める。
 「おい、この赤いの何?」
 始めてみる食材だな。なかなか美味。
 「にんじんですよ。おいしくてにんじんとは思えませんね。」
 これがにんじん?! 信じられん。そう言われればにんじんのような気がするな。おお、にんじんか。確かににんじんだな。さすがは超一流ホテルの豪華高級料理。
 「あら、このソースおいしい。どうやって作るのかしら?」
 セラがソースだけ舐めて味の秘密を探っている。
 「これおいしい。たまにこう言う高級料理を食べるのもいいわね。フレリアやリリスにも食べさせてあげたい。」
 そう言えば今頃、何やってんだろうな。飛行機に乗り込む前にセラが連絡を入れておいたからもう飯を喰ってリビングでくつろいでいるころかな。
 「あ、酒もあるな。セラはどれがいい?」
 カラフルだな。しかも高そうな瓶だな。
 「わぁ。これって1本10万とかするお酒じゃないですか? あ、これ、私、大好き。」
 セラが自分のグラスに注いでから俺のグラスにも同じ酒を注ぐ。
 「おいしい♪ 高いから年に数回しか飲めないんですよ。」
 確かに美味いな。口当たりが良くてスッキリしていて、高そうだな。
 「あんまりがぶがぶ飲むと酔うぞ。」
 一応、周りは敵グループの幹部ばかりなのだからな。すでにセラのグラスは空になって2杯目を注いでいる。
 「1杯目は一気に飲み干して、2杯目からゆっくり味わうんです。それに私っていくら飲んでも酔わない質なんですよ。」
 え、酔わないの? デートの時にたっぷりと酒を飲ませてやって、酔った所をホテルに連れ込むとかって作戦は無理か?
 「エル様。そろそろまずいみたいですよ。」
 セラがグラスを持った手で口論する2人を指差す。クロウとフィネルソスを押さえている4人が苦しそうな顔をしている。体力の限界っぽいな。
 「しょうがないな。」
 酒の入ったグラス片手に仲裁へ向かう。


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