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2004.6.28


第8話 会食(10)



 「この場でケリを付けてくれるわ!」
 「それはこっちのセリフだ!」
 ついに4人がはじかれてクロウとフィネルソスが殴り合いを始めてしまう。クロウとフィネルソスを押さえていた4人はもう体力の限界みたいで立ち上がって仲裁に行けない様子。
 一発目にフィネルソスの右フックのフェイントをかけた左アッパーがクロウのあごを叩く。すぐに姿勢を立て直したクロウがフィネルソスの左頬にストレートを打ち込む。
 ああ、ぼこぼこじゃん。何で相手の考えていることがわかるクロウにフィネルソスのパンチが避けられないんだろうな。
 「はい、2人とも。大のおとながこんな所でケンカしない。」
 取っ組み合いになった2人の顔にグラスの酒を浴びせてやる。それに2人の注目がこっちに向く。
 「エル、止めるな! 男には退いてはならない戦いがあるのだ!」
 おい。
 「その通りだエル君。我々の戦いを邪魔しないでもらいたい。」
 一見落ち着いたおとなに見えるフィネルソスもこんなこと言っているよ。
 「だったら皆の邪魔にならないようにやってね。結界方陣!」
 旧・強力障壁方陣だ。名前を変えただけで効果は変わっていない。クロウとフィネルソスの2人を直径5m程の半球状の結界に閉じ込める。
 「この中なら重火器を使っても外部に被害は出ないからね。」
 外からの物理攻撃をはじき返すが、内側からの物理攻撃もはじき返すのだ。こうやって閉じ込めるのにも使える。
 「はい、皆さん。好きなだけやらせちゃってください。死にかけるほどの大怪我してもこの俺が治しますから、安心してパーティーを楽しんでください。」
 結界の中から銃声が聞こえた。しかし、結界にはじかれて外には出てこない。中は跳弾して大変なことになっている。
 「ケンカするほど仲がいいって言うし。」
 銃を使っている時点で殺し合いになっているような気がするのだが、あのクロウが銃ごときにやられるはずがない。
 「エル。眠らせるとかして止めた方がいいのではないか?」
 メズキちゃんが俺の所にやってくる。さすがに鍛えてあるだけあって回復が早いな。
 「あの状態でクロウに効くような魔法はねぇよ。」
 回復魔法すら弾かれそうだものな。
 「・・・。」
 結界内の2人の様子を見て、言い返せない様子。
 「いつもあんな感じなのか?」
 犬猿の仲とは言ったものだ。
 「まぁ、大抵はね。」
 呆れた顔をするメズキちゃんの所にサンチョスもやってきた。
 「全く、あの2人は。」
 反対側からアリーシャとガインもやってきた。ついでにセラも両手に料理の盛られた皿を持ってやってくる。
 「止めないんですか?」
 セラが皿を1つ俺に渡して訊いてくる。
 「無理。」
 さすがの俺でもあれを仲裁して止めるのは無理。
 「2人ともいい歳したおとななのだから水でもかけてやれば頭が冷えて止めるかとか思ったんだが、ダメでした。」
 セラの持ってきた料理をフォークで口に運ぶ。
 「親父があんなに感情剥き出しにする相手ってクロウさんだけなんだよな。」
 俺の皿からガインがハムを抓んで自分の口に運ぶ。
 「俺の皿から取るな。」
 注意しているそばからもう1本手が。
 「けちけちするな。」
 メズキちゃん・・・。
 「エル君。挨拶がまだでしたわね。」
 ガインの後ろからアリーシャが出てくる。こんなでかい息子がいるとは思えない美貌だ。
 「フィネルソスの妻、アリーシャ・イーグルと申します。」
 にこっと笑顔を向けてくる。う〜ん、おとなの魅力。落ち着いた雰囲気が和みますな。
 「あ、どうも。エル・ハウンディーアです。えっと、こっちが助手のセラ・ベルガナと言います。」
 セラが優雅にアリーシャへ礼をする。左手の山盛りに盛った皿がなんともあれだが。
 セラの礼にアリーシャも返礼する。
 「そう言えばシャロンは?」
 うちの所長はどこに行ったんだ?
 「モッチョン博士と話に花を咲かせているみたいですわ。」
 アリーシャの指した先に鼻のでかいモッチョン博士と談笑するシャロンを見つける。モッチョン博士に会えるって目の色を変えていたからな。
 「モッチョン博士とも挨拶してないな。」
 会場に入ってすぐにステージに上がって退場したからな。せっかくの機会だから色々と話を聞いておきたい。
 「ガイン。紹介して。」
 なんかいつの間にか皿の料理が残りわずかになっていたし。全部メズキとガインに食べられてしまったようだ。
 「ああ、いいよ。モッチョン博士もお前に会うの、楽しみにしてたんだよ。」
 年下のこいつにお前呼ばわりされるのもなんかヤダな。
 「それじゃ、セラ。アリーシャさんに例のやつを訊いておけよ。」
 ちゃんとわかっている様子で、すぐに返事を返してくる。
 「例のやつってなんのことだ?」
 隣を歩くガインが訊いてくる。
 「若さの秘訣。」
 何でこんな二十歳を過ぎた息子がいるのにあんな年齢を感じさせない美貌を保っていられるのか。
 「化粧のせいじゃないのか?」
 そんな夢のない。
 「元一流の諜報部員だったからきっと真実を確かめてくれることだろう。」
 元じゃなくて現役かもしれないけど。
 「真実って、化粧のせいだって。今日、出かける時なんて鏡の前に1時間も座っていたんだからな。」
 それは念入りに化粧しているんだな。
 「化粧があの美貌の秘密だって言うんならそのテクニックくらいは聞き出してくれるだろう。ちなみにあのセラは薄化粧だからな。口紅とちょっとマスカラを入れるくらい。」
 家にいるときはすっぴんだし、出かける時は口紅だけだし。出かける準備の時間が短いいい女で。
 「それはママにも見習わせたいな。」
 ママって。父親のことはオヤジって呼んでなかったか?


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