BEFORE-STORY / TOP / NEXT

2004.8.17


第9話 訪問(1)



 「大火炎呪符!」
 俺に飛び掛ってきたモンスターが炎に包まれ、地面に転がる。しかし、すぐに次のモンスターが脇から飛び込んでくる。それをエルウィップで叩き落してやる。
 現在、モンスターと交戦中。今日はモッチョン博士の研究所を訪問するって言うんで来たんだけど、その研究所のある森がモンスターだらけでこんなになっている。
 「エル様! 少し、シャロン様をお願いします!」
 後ろからセラの声が聞こえた。チラッと右手を向くとセラが剣を構えてモンスターの集団に突っ込んでいく所であった。
 セラのスピードが加速していく。そして次の瞬間、セラの姿を見失った。
 ガレオサス流剣技奥義・ファルコン!
 セラの使う剣技の1つだ。高速で敵の脇を走りぬけ、すれ違いざまに切り伏せる技だ。セラの姿を見失った瞬間にはもうモンスターたちは胴切りにされてしまっていた。
 セラが続けてもう1つの技を繰り出す。
 ガレオサス流剣技奥義・ムーンサーベル!
 剣を振るうたびに三日月の形に光ることからこの名前が付けられている。自分の周りの敵を高速剣技で蹴散らす技だ。セラの剣舞に敵がばたばたと切り伏せられていく。
 ファルコンとムーンサーベルのコンボはなかなかの威力だ。
 セラの使うガレオサス流剣技と言うのは、ガレオサスさんが編み出した複数の敵を相手にするための剣術だ。こう言う敵に囲まれている状況ではその力を最大限に発揮する。
 「シャロン! 遅れるなよ!」
 上司を呼捨てにするのはどうだろう、とか思うのだが、いつものことなので気にしない。シャロンが銃を構えたまま、俺の後ろをついてくる。
 セラがモンスターたちを蹴散らして隙のできた所へ走り込む。魔法とエルウィップで道を切り開き、一気にモンスターの包囲から抜ける。

 「なんでこんな所にモンスターがあんなにたくさんいるんだ?」
 この辺りに魔法文明の遺跡があるなんて聞いてないぞ。
 「こんな所にモンスターが現れるなんて情報は聞いていませんよ。」
 情報通のセラでも知らないことがあるのだな。
 「モッチョン博士。こんな所に住んでいて、大丈夫なのかしら。」
 シャロンが心配そうにして言う。あのじぃさんがモンスターとの戦闘に強いとは思えないよな。
 「とりあえず、先を急ごう。地図によるともう少しだ。」
 事前にモッチョン博士から地図をもらっていたのだ。その地図によるともうそろそろ見えてくるはずだ。
 「行きましょう。モンスターたちが集まってきました。」
 後ろを振り返ると、森の奥の方にモンスターたちの影が見えた。
 「全く、うっとうしい連中だぜ。喰らえ! 妖術呪符!」
 俺の幻術魔法が発動し、モンスターたちが紫色の霧に包まれていく。モンスターたちは幻に魅せられ、動きを止める。魔法が利いている間に先を急ごう。

 しばらく行って、モッチョン博士の研究所らしき建物を発見した。
 「ちょっと遅かったかも知れないな。」
 木陰に隠れて見つけた建物を観察すると、窓やドアは割れ、玄関の前に止めてあった車はひっくり返っており、壁は所々崩れてしまっている。
 「モッチョン博士・・・。エル、早くモッチョン博士を探しましょう。」
 シャロンの顔が少し青ざめている。建物がこんな状況ではモッチョン博士の生死は絶望的だな。
 早速、3人で玄関のドアがついていたらしき場所を通って中に入る。
 「エル様。内側から突き破ったみたいですね。」
 玄関の前はドアの破片で散らかっていたのだが、内側にはほとんどない。どこからどう見ても内側から突き破ったように見える。外から建物の中に侵入してきた様子はここからは見えない。全ての窓が内側から突き破ったようになっている。
 「裏口から入ってこっち側から出てきたんじゃないのか?」
 裏側は確認していないからな。
 「どっちにしろ、この様子じゃ建物の中でもかなり暴れたみたいじゃないか。どこもかしこもめちゃくちゃだぜ。」
 どっちを向いても巨大な動物の爪痕が見える。ここから人間の血痕が見えないのが幸いだ。
 「まぁ、慎重に進むぞ。シャロンは俺から離れるなよ。近くにいれば俺のシールドで守られて安全だからな。」
 俺の体にはオートで防御してくれる護衛鎧方陣ごえいがいほうじんが付いているし、セラは俺のプレゼントしたシールドメダリオンを着けているからモンスターの奇襲を受けても物理攻撃は一切利かないのだ。しかし、シャロンは半ばピクニック気分でいていたので、何の装備もない。
 シールドメダリオンは兵器開発部に言って量産してもらう予定であったのだが、なかなか成功しない。見た目は全く同じに機械で作るのだが、肝心のシールドを展開する魔法効果が全くない。銃弾はもちろんのこと剣や拳による物理攻撃や赤外線や強すぎる熱や光も弾き返す優れものなのだが、いまだにセラにプレゼントした1つしかないのだ。
 「あまりあなたにくっつくとセラちゃんが恐いのよねぇ。」
 ん?
 そのセリフにセラを見てみたら、セラにも聞こえていたのか顔を真っ赤にしていた。結構、かわいい所があるんだよなぁ。
 「え、エル様。エレベータは動きませんよぉ。」
 セラが慌ててその場を取り繕うためにちょうど通り過ぎたエレベータのスイッチを押して確かめていた。エレベータには全く反応がない。
 「電気が通っていないのかもしれないな。階段を探そう。」
 探そうと言っても色んな所が崩れていて、通れる所を進んで行ったら階段に着いた。
 「上の階には行けませんね。」
 階段が崩れてしまっていて、登ることができない。
 「それじゃ、地下だな。」
 ちょうど進めるようになっているし。
 「下から何かのうなり声が聞こえるのだけど。」
 シャロンが恐がって俺にしがみ付いてきた。なかなかの役得だ。
 「こんな状況なのだからモンスターがいても不思議ではないだろうが。1階にモンスターが1匹もいなかったのが不思議なくらいなんだから。」
 そう言えば死体もなかったな。人間、モンスター共に。
 「エル様。早くモッチョン博士を探しましょう。魔法研究の成果をいただく前に死なれては困りますから。」
 セラが声を掛けてくる。その声にちょっとトゲがあるのは気のせいか。それより、魔法研究の成果をもらった後はモッチョン博士に死んでもらってもいいのか?
 まぁ、なんだかんだ言ってもしょうがないので、地下への階段を下りていく。


BEFORE-STORY / TOP / NEXT